危なく事故寸前に。あおり運転が暴行罪になるというのは本当?
- 交通事故・交通違反
- あおり運転
- 暴行罪
- 逮捕
平成29年6月、東名高速道で起こったあおり運転を受けた夫婦の死亡事故を受けて、平成30年よりあおり運転の厳罰化が進んでいます。福岡県警でも、高感度カメラ搭載のヘリにより、高速道路でのあおり運転を摘発しようという取り組みを開始しました。
あおり運転の厳罰化といっても、具体的に、どのような罪を問われることになるのか、ご存じでしょうか。今回は、あおり運転で事故を起こした場合に逮捕されるのか、どんな刑罰が科されるのかといった点について、福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、あおり運転について
あおり運転とは、前を走る車との距離を詰め、あるいは幅寄せなどによってプレッシャーを与え、それにより他者へ危険を及ぼすような運転をいいます。非常に危険性が高く、事故を誘発しやすいことから、以前より問題とされていました。
※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
-
(1)あおり運転に当たる行為
あおり運転の具体的な態様にはさまざまなものがあります。
具体的には、次のような行為があおり運転とみなされ、道路交通法違反や刑法違反としてその罪が問われる可能性があります。
- しつこくクラクションを鳴らす(警音器使用制限違反)
- 左側からの追い越し(追い越し方法違反)
- 幅寄せ行為(安全運転義務違反・初心者運転等保護義務違反)
- 車間距離を極端に詰める(車間距離保持義務違反)
- 不必要な急ブレーキをかける(急ブレーキ禁止違反)
この他にも、蛇行運転やパッシングなど、交通ルールに違反し、他の運転者に危険や恐怖を抱かせるような運転が、あおり運転に該当します。
-
(2)あおり運転はどのような犯罪なのか
「あおり運転罪」という犯罪は存在しません。もちろん、「一切の犯罪は成立しない」ということではなく、状況に適した刑罰や道路交通法違反としての処罰を受けることになります。
たとえば、あおり運転によって事故が発生したり、死傷者が生じたりしたのであれば、道路交通法や関連法律にのっとり、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法)に当たる可能性があります。あるいは車間距離保持義務違反(道路交通法第26条・第119条1の4・第120条2項)として処罰を受けることもあるでしょう。
状況によっては、刑法犯である暴行罪(刑法第208条)に当たるケースもありますし、ドライブレコーダーの映像等から殺意があったと立証され、殺人罪として起訴されたケースもあります。 -
(3)あおり運転関連の罰則と量刑
実際に、あおり運転で検挙されたとき、どのような罪名がつけられ、処罰を受けることになるのかは、具体的な態様や危険性、もたらした結果によっても異なります。
それぞれの罪名による罰則と量刑を確認しておきましょう。
- 過失運転致死傷罪:7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金
- 危険運転致死傷罪:相手を負傷させた場合は15年以下の懲役、相手を死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役
- 車間距離保持義務違反:一般道路の場合は5万円以下の罰金、高速道路の場合は3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金
- 暴行罪:2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
それぞれの罰則における具体的な処分は以下のとおりです。
自由刑(一定期間、自由を拘束される刑罰)- 懲役(ちょうえき):刑務所などで身柄が拘束され、刑務作業を行う
- 禁錮(きんこ):刑務所などで身柄が拘束される。刑務作業は希望者のみ行う
- 拘留(こうりゅう):1日以上30日未満の期間、留置場や拘置所などで身柄を拘束される
財産刑(国家にお金を支払う刑罰)- 罰金(ばっきん):1万円以上の、指定された金額のお金を一括で支払う
- 科料(かりょう):1万円未満の、指定された金額のお金を一括で支払う
2、あおり運転と暴行罪の関係
過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪は、死傷者が出なければ成立しません。
つまり、かつては、交通事故にさえならなければ、いくらあおり運転をしても厳罰には処せられないという側面がありました。
しかし、あおり運転はそれ自体が非常に危険な行為です。
社会的にも取り締まりを望む声が大きかったため、警察庁は、「あおり運転を暴行罪として立件の検討をする」ように全国の警察へと指示したのです。
一見無関係にも見えるかもしれない、「あおり運転」と「暴行罪」には、どのような関係があるのでしょうか。
-
(1)暴行罪とは
暴行罪の成立要件は、刑法第208条に以下のとおり定められています。
- 暴行を加えたものが人を傷害するに至らなかったとき
「暴行」行為といえば、一般的には殴ったり蹴ったりといった行為が連想されるでしょう。しかし刑法上における「暴行」は、「人の身体に対する不法な有形力の行使」を指します。
つまり、相手の肉体に損害を与える可能性がある行為全般が「不法な有形力の行使」として想定されているのです。
たとえば、驚かせる目的で椅子を投げつける行為(仙台高判昭和30年12月8日)や、通行人のすぐ近くに石を投げつける行為(東京高判昭和25年6月10日)も、暴行に当たると判示されています。
加害者の手や足が被害者に触れなくても、相手がケガをする可能性があれば、暴行罪における暴行に該当する可能性があるということです。 -
(2)あおり運転と暴行
あおり運転も、それ自体は他の運転手の身体を直接的に害するものではありません。
しかし、万が一、あおり運転によって事故になれば、ケガを負う可能性がありますし、なによりも死んでしまう可能性もあるでしょう。身体への影響は多大です。つまり、人の身体に向けられ、恐怖や苦痛を与える性質の行為といえます。それゆえ、暴行罪としての立件が可能なのです。
実際に、あおり運転によって「暴行罪」容疑がかけられ、逮捕されているケースは全国各地で生じています。あおり運転をしたことがある方にとっては、ひとごとではないでしょう。
3、あおり運転での逮捕後の流れ
あおり運転による暴行の疑いで逮捕された場合も、原則的には刑事訴訟法で定められたとおりのプロセスをたどることになります。
-
(1)現行犯逮捕と通常逮捕
逮捕されるときには、犯行現場で身柄を拘束される「現行犯逮捕」か、逮捕状によって後日逮捕される「通常逮捕」となります。殺人など別件に重大事件が絡んでいるときは、「緊急逮捕」となることもあるかもしれません。
原則的には、あおり運転の現場を警察官に目撃されて取り締まられたときは「現行犯逮捕」であり、監視カメラの映像などによって後から逮捕されたときは「通常逮捕」となります。
なお、逮捕されなくても、捜査が進められ、罪を裁かれることもあります。
その場合、まず、警察から連絡がきて、出頭することになるでしょう。そのまま身柄を拘束されずに捜査を受けるときは「在宅事件扱い」として捜査されることになります。
出頭の要請などには応じて、取り調べに協力する必要があるでしょう。もし、非協力的であるときは、身柄を拘束する「逮捕」に切り替えられることもあります。 -
(2)逮捕と取り調べ、起訴
逮捕後には警察での取り調べが48時間以内で行われます。この間に警察は、事件そのものや加害者を疑われる人物である「被疑者」を、検察へ送致するかどうかを決めます。身柄ごと検察に送られたときは、さらに24時間以内で取り調べが行われます。
起訴か不起訴かを決めるのは、検察です。送致から24時間以内に取り調べが終了しなければ、継続して身柄を拘束する「勾留(こうりゅう)」がなされます。勾留が決まると、最長で20日間も身柄を拘束され続けることになります。
不起訴の場合には釈放され、前科はつきません。
起訴されると刑事裁判へ移り、有罪か無罪かが決まります。有罪になれば、刑法犯として前科がつくことになります。
4、あおり運転で逮捕されてしまったらどうすべきか
あおり運転によって捜査が進み、検察が起訴か不起訴かを決めるときは、犯行の悪質度やこれまでの犯罪歴などによって判断します。しかし、判断材料はそれだけではありません。同時に、反省しているかどうか、被害者がどのような感情をもっているのか、弁償をしたかどうかなどの事情も重視されることになります。
特に暴行罪での逮捕であれば、相手がケガを負っていない可能性が高いものです。
被害者に対して反省を示し、賠償金を支払う一方で、「刑事処罰を望まない」旨を示す文書を作ってもらうことで、起訴を回避できる可能性が高まります。
しかし、逮捕された被疑者は身柄拘束状態にあるため、被害者と会って示談交渉をすることができません。しかも、逮捕されてからの72時間は、被疑者に面会できるのは原則として弁護士だけです。したがって、交渉は弁護士に依頼するのがよいといえます。
逮捕から72時間が経過すると、最大20日間も勾留されてしまう可能性もあります。長期拘束を回避するためには、いかに素早く交渉できるかが鍵となるでしょう。
起訴を免れるためにも、できる限り速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
あおり運転で刑罰犯となるとき、どのような犯罪に当たるのか、さらに逮捕後の流れと注意点について解説しました。
あおり運転は厳罰化傾向にあり、取り締まりも罰則も厳しくなっています。ただ、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪にまで至らない暴行罪であれば、被害者の損害も比較的少なく、示談などによっても処遇が変わる可能性があるでしょう。
あおり運転によって逮捕される心配のある方は、福岡にオフィスを構える当事務所までご連絡ください。刑事事件に対応した経験が豊富な弁護士が、適切な対応をアドバイスします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています