歩行者の信号無視が原因で事故が発生。この場合、歩行者も逮捕されるのはどんなケース?

2020年06月12日
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歩行者の信号無視が原因で事故が発生。この場合、歩行者も逮捕されるのはどんなケース?

平成30年11月、福岡県の交差点で赤信号を無視して横断していた男が、ミニバイクと衝突し、ミニバイクの運転手に大けがを負わせた事故が発生しました。この事故で歩行者が重過失傷害罪で書類送検されたと報じられています。

交通事故では、車両の運転手がすべての責任を負うと誤解している方が多いかもしれません。しかし、今回の事故のように歩行者側に大きな過失がある場合は、歩行者側も罪に問われ、逮捕される可能性もあります。

交通事故で歩行者が逮捕される事例を、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。

1、「歩行者は罰せられない」は誤解!

車の運転をした経験があれば、信号無視や急に飛び出してくる歩行者にヒヤッとした経験があるのではないでしょうか。

交通ルールの無視は事故に直結します。歩行者であっても、道路交通法(以下道交法)によって禁止事項と罰則が定められているのです

  • 道交法第7条
道路を通行する歩行者または車両等は、信号機の表示する信号または警察官等の手信号等に従わなければならない


第7条に歩行者が違反した場合の罰則は第121条第1項第1号に規定されており、「2万円以下の罰金」または「科料(かりょう)」に処されます。
科料とは1万円未満の金銭を強制徴収する罰です。

さらに、歩行者の道路横断においても、以下のとおり規定がされています。

歩行者の道路横断に関する規定

  • 道交法第12条第1項
歩行者は、道路を横断しようとするときは、横断歩道がある場所の附近においては、その横断歩道によって道路を横断しなければならない

  • 道交法第13条第1項
歩行者は、車両等の直前または直後で道路を横断してはならない。ただし、横断歩道によって道路を横断するとき、または信号機の表示する信号もしくは警察官等の手信号等に従って道路を横断するときは、この限りでない

  • 道交法第13条第2項
歩行者は、道路標識等によりその横断が禁止されている道路の部分においては、道路を横断してはならない


横断歩道以外での横断は、「乱横断」と呼ばれています
これらに違反している場合は、歩行者の過失割合が高くなると考えられます。

2、信号無視などで歩行者が責任を問われるケース

交通事故は原則として、双方の過失の度合いを算出し、それを相殺させます。

歩行者は道路上においては、車両に比べれば常に弱者の立場です。
しかしながら、歩行者の違反・過失が車両側の方よりも大きくなれば、歩行者側が賠償金を支払うケースもありえるでしょう。歩行者が責任を問われるのはどのようなケースでしょう

  1. (1)歩行者の信号無視による刑事罰

    歩行者が信号無視をした上で横断中に起きた事故の場合、対バイク・自転車と歩行者の過失割合は均衡します。

    もちろん、道路事情や天候、当事者の年齢・人数、時間帯などの状況によっても過失割合が変わっていきます。前述のとおり、道交法第121条には、歩行者が信号無視をした場合、「2万円以下の罰金」または「科料(かりょう)」が科せられるとあります。
    科料は1万円未満の金銭を強制徴収する刑罰です。

    歩行者による信号無視にも罰金刑があり、前科がつく可能性があることを知ってください。いくら歩行者優先とはいえ、信号無視で事故を起こした場合は処罰の可能性が高まるのです。

  2. (2)歩行者の重過失による損害賠償請求

    歩行者に重い過失があった場合、民事訴訟で損害賠償請求をされる可能性があります
    たとえば、歩行者が信号無視をして、バイクに乗った人が歩行者を回避しようとして転倒し、物的損害が生じたり、運転手がケガを負ったりした場合は、損害賠償を請求される可能性があります。

    歩行者の信号無視事案の場合、基本となる過失割合は自動車・バイク3割、歩行者7割と民事の損害賠償では歩行者が不利となっています。

    もちろん、バイクや自動車のスピードや路面状況、天候などによって過失割合は左右されます。歩行者側が2割の過失となることもあります。
    ケース・バイ・ケースではありますが、信号無視というのは重大な過失になるということです。

3、歩行者でも信号無視を理由に逮捕されるのか?

歩行者が信号無視をしたことを理由に逮捕されるケースはあるのでしょうか。
逮捕を避けるにはどうしたらよいのでしょうか。

  1. (1)歩行者でも逮捕されるケースはある

    冒頭の事件のように、歩行者が信号無視をしたことによって、重過失傷害罪(刑法第211条後段)容疑で送致されるケースはありえます

    重過失致死罪は業務上過失致死傷罪と同じく、法定刑は「5年以下の懲役」または「100万円以下の罰金」と格段に重くなります。単なる過失致死罪の法定刑が「50万円以下の罰金」であることを考えれば、どれだけ厳しいかがおわかりいただけるでしょう。

  2. (2)事故を起こしたらすぐに警察へ連絡

    もしも、事故の過失が歩行者側にもあるのに、その場から逃げようとすれば現行犯逮捕もありえます。歩行者だから逮捕されない、過失がないというのは大きな間違いです

    交通事故を起こした、起こされたと思ったら、必ずその場ですぐに警察を呼び、取り調べを受けるようにしましょう。
    被害者であれ加害者であれ、あとでトラブルになる可能性が少なくなります。

    身元を明かし、素直に取り調べに応じるのであれば「逃走や証拠隠滅のおそれがない」として、身柄の拘束には至らない可能性を高めることができるでしょう。

4、逮捕後の流れ

万が一にも歩行者でありながら逮捕されてしまったら、被疑者と呼ばれる立場になります。その後の処遇について確認しておきましょう。

  1. (1)警察での取り調べ

    逮捕後は警察の留置所(もしくは拘置所)に拘束され、48時間以内で取り調べを受けます。警察は、この時間内で検察へ送致するか決定します。

    逮捕されてすぐに弁護士に依頼すれば、早期の身柄解放を目指すことが可能です。
    歩行者の信号無視による逮捕であるなら、交渉次第では在宅事件扱いにしてもらえる可能性もあります。

    取り調べの結果、軽微な罪であれば、検察に送致せず警察で処分を決める「微罪処分」となり、釈放されるケースもあります。

  2. (2)検察送致と勾留

    警察から検察に身柄ごと送致されると、検察官は裁判所に対し、被疑者の「勾留(こうりゅう)請求」をするかについて24時間以内に決定します。

    勾留とは身柄拘束を続けての取り調べのことです。裁判所の許可が下りた場合、さらに10日間の延長ができるので最長で20日間に及ぶ可能性があります。

    逃亡や証拠隠滅のおそれがなく、犯罪が軽微だった場合は、事件の書類だけを検察に送致し、身柄は検察に送致せず釈放する「在宅事件扱い」になることもあります。
    検察が勾留の必要性なしと判断した場合や、検察の勾留請求を裁判所が却下した場合に限られます。

  3. (3)起訴・不起訴の決定

    検察は、取り調べの結果、起訴するか不起訴にするかを、勾留期間内に(在宅事件扱いの場合は捜査が終わり次第)決定します。
    刑法犯罪として罪に問うに十分な証拠がなかった場合、不起訴となります。

    正式に起訴されれば、裁判となり、被疑者から被告人となります。
    起訴後は保釈請求が可能となります。裁判所より保釈が認められた場合は、裁判所の指定する保釈金を納めたら身柄が解放されます。そうでなければ勾留は判決が決まるまで続きます。

    また、被疑者が検察の取り調べ内容と争わず、量刑が100万円以下の罰金の範囲内であれば、「略式起訴」となる可能性もあります。その場合は略式起訴の後、釈放されます。

    その後おおむね2週間程度で裁判所から書面で罰金額を確定する「略式命令」が言い渡され、期日内に罰金を支払うことですべての手続きが完了します。略式起訴であっても、有罪判決であることにかわりはないので、当然、前科がつくことになります

  4. (4)裁判

    起訴されたあと、おおむね1か月程度で初回の裁判が開かれます。

    検察、弁護人双方の主張を聞いた上で、裁判官により量刑が判断され、判決が言い渡されます。争いがある場合や重大事故となった場合は、判決が下るまで相当の月日がかかることがあります。
    また、裁判が終わるまでは、保釈請求が認められない限り身柄は拘束され続けることになるでしょう。

5、逮捕されたら速やかに弁護士へ

前述のとおり、歩行者であっても、事故の態様によっては逮捕される可能性があります。歩行者の立場でありながら逮捕されたということは、被害者がいるケースがほとんどでしょう。被害者との示談を勾留前にまとめることができれば、長期の身柄拘束を回避できるかもしれません。

ただし、逮捕後は原則として家族でも面会することはできません
そのような場合も、弁護士であればすぐに接見することが可能です。さらに示談交渉は、示談金の相場を知り、交通事故の示談交渉の経験豊富な弁護士に任せることでスムーズに進むケースが多いものです。

依頼を受けた弁護士は、身柄の釈放に向けての交渉や、示談交渉、重すぎる量刑が科されないための証拠集めなどの弁護活動を行います。

6、まとめ

信号無視、飛び出しは、歩行者として身に覚えのある方は少なくないのではないでしょうか。偶然、今までは事故にならなかったものの、次は事故になってしまう可能性はあります。近年はドライブレコーダーの普及により、事故の動画が証拠として残っているケースも増えています。

歩行者の過失による事故を起こした場合、すぐに弁護士へ相談してください。
刑事裁判だけではなく、慰謝料請求をされた場合の民事裁判にも対応します。交通事故でお困りのときは、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスご連絡ください。交通事故の示談交渉経験のある弁護士が、迅速に最善の策をご提案します。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています