残業代はつかないと言われたら? 調査すべき事項と未払い分の請求方法

2022年08月16日
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残業代はつかないと言われたら? 調査すべき事項と未払い分の請求方法

福岡県では、県内13か所に拠点がある「総合労働相談コーナー」で、あらゆる労働問題についての相談に対応しています。福岡労働局が公表している統計資料によると、令和2年4月1日~令和3年3月31日の期間に総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は4万4062件であり、15年連続で4万件を超えているとのことです。

働く中での問題として、残業をしているにもかかわらず、会社から「残業代はつかない」と言われた経験がある方も少なくないでしょう。しかし実際のところ、会社側から残業代を支払われるべき事案であったということもあります。会社の言い分を鵜呑みにすることなく、しっかりと調査することが大切です。

今回は、会社から「残業代はつかない」と言われた場合の調査事項と未払い残業代の請求方法について、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代がついているかどうかの確認方法

残業代がついているどうかは、どのように確認したらよいのでしょうか。以下では、残業代に関する基本事項について説明します。

  1. (1)残業代とは

    残業代とは、時間外労働に対して支払われる賃金のことです。

    労働基準法では、1日8時間、週40時間を法定労働時間と定めています。
    この時間を超えて働いた場合を「法外残業」と呼び、労働者は所定の割増率によって増額した残業代を受け取る権利があります。

    これに対し、会社が定める所定労働時間を超えているものの、法定労働時間の範囲内での残業を「法内残業」といいます。法内残業は、所定の割増率による増額は不要となりますが、残業した時間に応じた賃金を受け取ることが可能です。

  2. (2)残業代の確認方法

    残業した分の金額が支払われているかどうかは、以下のように確認することができます。

    ① 給料明細の確認
    残業代の支払いの有無は、毎月の給与明細に記載されています。

    給与明細の支給欄のうち、「残業手当」という箇所が残業代の支払い額に関する項目です。この欄に具体的な金額が記載されていれば、会社から残業代が支払われているということになります。

    また、勤怠部分の「残業時間」という項目を確認することも大切です。労働者が記憶している残業時間と給与明細に記載されている残業時間に大きなずれがある場合には、残業している時間が正しくカウントされていない可能性がありますので、注意しましょう。

    ② 残業代の計算
    会社側から適切な残業代が支払われているかどうかをチェックするためには、労働者としても残業代の計算方法を知っておく必要があります。

    残業代の計算は、以下のような方法で行います。

    残業代=1時間あたりの基礎賃金(月給÷1か月平均所定労働時間)×残業時間×割増率


    なお、法外残業の割増率は、法律上25%以上とされています。
    深夜労働(午後10時から翌日午前5時まで)についても同様に25%以上の割増率となり、時間外労働と深夜労働が重なる部分については、50%以上の割増率が適用です。

    給与明細を確認して、正しく支払われているか、自分でも計算してみるとよいでしょう。

2、残業代はつかないと言われたときはその理由を確認する

会社から「残業代はつかない」と言われたときは、その理由を確認することが大切です。
以下のような理由で、労働者に残業代が支払われないという場合には、会社側の違法となります。

  1. (1)残業代が発生しない契約になっていると言われた場合

    残業代がつかない理由として「労働契約上、残業代が支給されない契約になっている」という説明を受けた場合はどうでしょうか。

    残業代の請求は、労働基準法で認められている労働者の正当な権利です。
    たとえ労働者と会社との間で残業代を支払わないことについて合意があったとしても、その効力はありません。したがって、このようなケースでは残業代を請求することができる場合があります。

  2. (2)固定残業代以上の支払いはできないと言われた場合

    固定残業代制度とは、あらかじめ一定時間分の残業代を給料に含む制度のことで、企業と労働者の双方にメリットがあります。

    まず、労働者側には、固定残業代よりも時間外労働が少なかったとしても、固定残業代の全額がもらえるということがメリットです。会社側にもメリットはあり、面倒な残業代計算の事務を簡略化することができます。そのため、多くの会社で採用されている制度になっているのです。

    しかし、この制度は固定残業代以上の残業代を支払わなくてもよいという制度ではありません。労働者が予定されている残業時間を超えて働いている場合には、固定残業代とは別に上回っただけの差額分の残業代を受け取る権利があります。

    したがって、会社から「固定残業代以上の支払いはできない」と言われたとしても、残業代を請求できる場合があるでしょう。

  3. (3)管理職には残業代を支払わないと言われた場合

    労働基準法上、管理監督者については残業代の支払い義務がありません。そのため、管理監督者の地位にある労働者が会社側から残業代を支払われなかったとしても、違法とならないのが現状です。

    しかし、労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかについては、「課長」「部長」「マネージャー」といった肩書だけで判断するのではなく、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にあるかどうかという実質面から判断する必要があります。

    管理職の肩書が与えられているものの、実際には一般の労働者と変わらないという場合には、労働基準法違反として会社に対して残業代を請求することができる場合があります

3、残業代がつかないことが合法なケース

以下のようなケースでは、労働者に対して残業代が支払われていなかったとしても違法にはなりません。残業代請求をお考えの方は、労働契約書を見て、ご自身の契約が以下のものに該当するかどうかを確認するようにしましょう。

  1. (1)裁量労働制の場合

    裁量労働制とは、実際に働いた時間にかかわらず、一定時間の労働をしたものとして労働時間を計算する制度のことをいいます。

    たとえば、みなし労働時間が1日8時間以内に設定されている場合には、実際に10時間働いたとしても8時間働いたものとみなされます。このケースでは、残業代を請求することはできません。

    しかし、みなし労働時間が8時間を超える時間で設定されている場合は、超えている時間分の残業代が支払われる権利があります。たとえば、みなし労働時間が9時間であった場合、1時間分の残業代が発生するという考え方です。

    では、午後10時から翌日午前5時までの深夜労働や休日出勤の場合、賃金はどのようになるのでしょうか。
    裁量労働制でも、深夜労働の時間帯で働いた際はその時間分、深夜割増率の残業代が支払われるものとなっています。法定休日に働く場合は、裁量労働制によるみなし労働にならないため、休日労働した時間分の賃金が残業代として支払われます。

    さらにもう一つ、確認すべき点があります。それは、あなたが対応している仕事が労働時間を業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要がある専門業務や企画業務の仕事かどうか、です。そもそも裁量労働制は特定の業務に対してのみ適用できる制度です。つまり、労働者が対象外の業種だった場合は、会社側が法律に違反しているということになります

    上記のケースに該当する労働者は、会社側に対して残業代の請求を行うことが有効です。実際に働いている時間を、証拠として記録に残すようにしましょう。

  2. (2)管理監督者の場合

    前述しているとおり、労働者が労働基準法上の管理監督者に該当する場合には、残業代を支給されなかったとしても違法にはなりません

    管理監督者に該当するかどうかは、以下のような基準によって判断されます。

    • 会社の経営に関与することができる重要な職務内容であるか
    • 労働条件の決定、労務管理について重要な権限があるか
    • 勤務態様が労働時間規制になじまないものであるか
    • 管理監督者としての地位にふさわしい待遇を受けているか


    このように、管理監督者に該当するかどうかは肩書に左右されず実質的な判断になります。
    ご自身が管理監督者に該当するかどうかがわからないという場合には、弁護士に相談をするようにしましょう。

4、もらえるはずの残業代が受け取れないときはどうする?

受け取る権利があるはずの残業代が支払われていないという場合には、以下のような対応が必要になります。

  1. (1)会社への未払い残業代の請求

    支払われていない残業代があると判明した場合には、そのことを会社に伝えて、未払い分の金額を支払うように請求しましょう

    この際、悪質な会社では何かと理由をつけて支払いを拒もうとすることがあり、労働者個人での請求では会社もまともに取り合ってくれないケースもあります。

    個人での請求では話し合いが進まないという場合には、以下のように弁護士への相談をおすすめします。

  2. (2)弁護士への相談

    労働者と会社では、圧倒的に労働者の方が不利な立場だということで、労働者個人で会社に対して未払い残業代を請求するのは限界があります。このような場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談をしましょう。

    弁護士であれば、労働者に代わって会社と交渉をすることができます
    未払いの残業代が生じていることを客観的な証拠に基づいて会社に提示することによって、会社としても言い逃れができなくなり、話し合いに応じてくれる可能性が高くなります。仮に話し合いに応じてくれなかったとしても、弁護士であれば労働審判や裁判といった法的手段によって解決を図ることも可能です。

    残業代請求には時効がありますので、未払いのものがあると判明した場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

5、まとめ

これまで説明したとおり、会社から「残業代がつかない」と言われたとしても、実際には支払われる権利を有していることもあります。

残業代を請求することができるケースかどうかは職種や契約内容によって異なるため、ご自身で判断が難しい場合には、解決実績や経験豊富な弁護士に相談をするようにしましょう。

残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています