法内残業と法外残業。 あなたがもらっている残業代の金額は正しい?

2021年09月02日
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法内残業と法外残業。 あなたがもらっている残業代の金額は正しい?

大手アニメ制作会社の社員が、裁量労働制を理由に残業代が支払われなかったとして、令和元年10月に会社を提訴しました。ところが、令和2年6月になって急に未払い残業代が会社から振り込まれ、裁判は終了となったという報道がありました。

フレックスタイム制や裁量労働制など、特殊な労働時間制をとっている会社では、正しく残業代が支払われているか気になる方も多いでしょう。残業には法内残業と法外残業がありますが、あなたの勤務先ではこれらが正しく計算されているのか、法内残業と法外残業とその計算方法について、福岡オフィスの弁護士が解説します。

1、法内残業と法外残業

残業時間には、法内残業と法外残業があります。残業代の計算方法は、労働時間が法定労働時間内におさまっているかどうかで異なります。法定労働時間とは労働基準法で規定された労働時間のことで、1日8時間以内・週40時間以内と定められています。この範囲におさまっているかどうかで法内残業であるか法外残業であるかが決まるのです。

  1. (1)法内残業とは

    法内残業とは、所定労働時間を超えた所定外労働であるものの、法定労働時間内におさまっている残業時間のことをいいます。所定労働時間とは、労使間で決められた労働時間のことで、法定労働時間内であれば自由に設定することができるものです。

    たとえば、所定労働時間が9:00~17:00、休憩1時間の会社で18:00まで働いたときは、17:00~18:00の1時間残業したことになります。この所定外労働時間は法定労働時間内におさまっているので、法内残業となります。法内残業の残業代は、就業規則等で定めた時給の金額に法内残業時間を乗じて計算します。

  2. (2)法外残業(時間外労働)とは

    法外残業とは、法定労働時間を超えて行われる残業のことで、「時間外労働」「法定外労働」とも呼ばれます。たとえば、前述の会社で19:00まで働いたときは、17:00~18:00は法内残業ですが、18:00~19:00は労働時間が1日8時間を超えているため、法外残業となります。

    労働基準法上、労働者に法外残業をさせたとき、使用者はその労働者に対して就業規則や労働契約等で定めた時給の25%増の割増賃金を支払わなければなりません。なお、大企業の場合は法外残業が月60時間を超えると割増率が50%になります。

    一方、中小企業は当面の間割増率が25%で据え置きとなりますが、令和5年4月より割増率が50%となることに留意しておきましょう。

  3. (3)法定休日労働と法定外休日労働

    さらに、休日労働についても、法定休日労働と法定外休日労働があります。労働基準法では、最低でも週に1日、もしくは4週に4日の休日を労働者に与えることとされていますが、これを「法定休日」といいます。法定休日を何曜日に設定するかは会社の自由ですが、この日に労働者を働かせた場合は、賃金の割増率が35%になります。

    一方、法定外休日労働については、法定外休日労働時間を含めた労働時間が週に40時間を超えなければ、割増率は0%になります。ほかの日で労働時間が週40時間を超えている場合は、割増率が25%になります。法定外休日労働をした日以外では労働時間が週40時間を超えていなくても、法定外休日労働をすることで1週間の労働時間が40時間を超える場合は、超えた時点から25%になります。

    たとえば日曜日が法定休日の会社で土曜日に6時間働いたとします。

    ① 月曜日から金曜日まで1日6時間、計30時間働いた場合は、土曜日の労働時間を含めても36時間なので、土曜日に働いた分の割増率は0%となります。

    ② 月曜日から金曜日まで1日8時間、計40時間働いた場合は、すでに法定労働時間を超えているので土曜日に働いた分の割増率は25%となります。

    ③ 月曜日から金曜日まで1日7時間、計35時間働いた場合は、土曜日に働いた時間のうち5時間は割増率が0%ですが、残りの1時間は法定労働時間を超えるので割増率が25%となります。

2、あなたの働き方は残業代の支払い対象となる?

働き方と就業規則などで定められた内容によって、残業代の支払い対象になるかどうかが決まります。どのように判断すべきか解説します。

  1. (1)フレックスタイム制の場合

    フレックスタイム制とは、「清算期間」と呼ばれる一定期間に就業規則などで定めた総労働時間の範囲内で、労働者自身が自由に労働時間を調整できる制度です。フレックスタイム制には、すべての時間について出勤時間・退勤時間を自由とする方法と、必ず勤務しなければならないコアタイムといつ出勤・退勤してもよいフレキシブルタイムを設ける方法の2通りがあります。

    なお、フレックスタイム制を導入するときは、労使協定で以下の内容を定めることが必要です。

    • 対象となる労働者の範囲
    • 清算期間
    • 清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
    • 標準となる1日の労働時間
    • コアタイム(※必要な場合のみ)
    • フレキシブルタイム(※必要な場合のみ)


    なお、フレックスタイム制の場合は、労働時間が1日8時間・週40時間を超えても、直ちに法外残業になるわけではありません。フレックスタイム制で法外残業となるのは、以下の場合です。

    <清算期間が1か月の場合>
    清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が法外残業となります。

    <清算期間が1か月を超える場合>
    以下のいずれかを満たす場合、以下の時間を超えた時間数が法外残業となります。

    • 清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠(週平均40時間)を超える場合
    • 1か月ごとの労働時間が週平均50時間を超える場合


    ただし、以下の場合は労働基準法違反となるので注意しましょう。

    • 時間外労働が月45時間を超えた回数が年間で7回以上となった場合
    • 単月で時間外労働+休日労働の合計が100時間以上となった場合
    • 時間外労働+休日労働の合計の2~6か月併記のいずれかが80時間を超えた場合
  2. (2)裁量労働制の場合

    裁量労働制とは、労働時間の管理を労働者の裁量にまかせ、就業規則等であらかじめ一定時間働いたとみなす制度のことで、別名「みなし労働時間制」とも呼ばれます。研究開発やデザイナー、アナリスト、企画など、業務の性質上労働時間と成果が必ずしも比例しないような職種でよく採用される労働時間制度です。

    裁量労働制では、たとえば、労働時間を1日7時間とみなすとすると、1日4時間しか働いていなくても、逆に10時間働いていても1日あたり7時間働いたとみなされます。しかし、みなし労働時間を超えて働いた時間は残業代がもらえますし、その時間が法定労働時間を超えていれば割増賃金を受け取ることができます

  3. (3)変形労働時間制の場合

    変形労働時間制とは、繁閑の差が激しい業界で、繁忙期には労働時間を多く、逆に閑散期には労働時間を少なくすることで労働時間を調節するための労働時間制度です。変形労働時間制には、1年単位・1か月単位・1週間単位の3つのパターンがあります。変形労働時間制の場合、おおまかにいえば、一定の期間での労働時間が週平均40時間を超えなければ、一部の日や週で法定労働時間を超えて労働させることができます

    労働時間は以下の範囲で定めることができます。

    <1か月単位の場合>
    所定労働時間について、以下の時間までの範囲で定めることができます。

    • ひと月が28日の場合:160.0時間
    • ひと月が29日の場合:165.71時間
    • ひと月が30日の場合:171.42時間
    • ひと月が31日の場合:177.14時間


    <1年単位の場合>
    所定労働時間について、以下の時間までの範囲で定めることができます。

    • 365日のとき:2085.7時間
    • 366日(うるう年)のとき:2091.4時間
    • 1年あたりの労働日数は280日(年間休日85日)
    • 労働時間は1日10時間、1週52時間まで

3、この場合はいくらになる? ケースごとの残業代

それぞれの労働時間制について、残業代がいくらになるのか計算してみましょう。

  1. (1)フレックスタイム制の例

    まずはフレックスタイム制のときの残業代を実際に計算します。

    例:清算期間が1か月ごとの会社で、この期間の総労働時間が150時間となるときに、基礎時給1,500円の方が180時間稼働したとします。
    歴日数が28日とすると、法定労働時間の総枠は160時間になります。

    すると、法内残業時間と法外残業時間は以下の通りになります。
    法内残業:160 - 150 = 10(時間)
    法外残業:180 - 160 = 20(時間)

    したがって、残業代は以下のように算出できます。
    1500 × 10 + 1500 × 20 × 1.25 = 52,500(円)

  2. (2)裁量労働制の例

    裁量労働制で残業代がつくのは、みなし労働時間が8時間を超えているケースや、深夜まで残業をしているケース、法定休日に仕事をしているケースです。

    たとえば、みなし労働時間が10時間、基礎時給が2,000円の場合、残業代は以下のようになります。

    2000 ×(10-8)× 1.25 = 5,000(円)

    また、深夜に残業していた場合は、通常の割増率25%に加え、深夜労働分の割増率25%も加算されるので、割増率が合計50%になります。
    基礎時給2,000円、みなし労働時間が10時間の人が14時から24時(深夜0時)まで仕事をしたとすると、残業代は以下の通りです。

    2000 ×(24-14-8)× 1.5 = 6,000(円)

  3. (3)変形労働時間制の場合

    変形労働時間制で法外残業となるのは、以下の場合です。

    ①1日について
    ●所定労働時間が8時間を超える日については、その所定労働時間を超えて働いた時間
    ●それ以外の日は8時間を超えた時間

    ②1週間について
    ●所定労働時間が40時間を越える週については、所定労働時間を超えた時間
    ●それ以外の日は40時間を超えた時間
    (ただし①で計算した時間を除く)

    ③期間全体について
    ●変形期間における法定労働時間の総枠を超えた時間(①・②で計算した時間を除く)
    ●法定労働時間の総枠は「1週間の法定労働時間 ×(変形期間の日数÷7日)」で計算

    以下の例で残業代を考えてみましょう。基礎時給は2,000円とします。

    【1週目】所定労働時間40時間

    所定労働時間 8 8 8 8 8 0 0
    実労働時間 8 8 8 8 8 0 0


    【2週目】所定労働時間38時間
    所定労働時間 2 8 8 8 8 4 0
    実労働時間 2 8 8 8 9 7 0


    【3週目】所定労働時間42時間
    所定労働時間 7 7 9 10 9 0 0
    実労働時間 8 7 9 10 10 0 0


    【4週目】所定労働時間36時間
    所定労働時間 6 6 8 8 4 4 0
    実労働時間 8 8 8 8 6 6 0


    【5週目】所定労働時間17時間
    所定労働時間 9 8
    実労働時間 9 8


    ① 1日についての残業時間を見ると、第2週の金曜日の1時間と第3週の金曜日の1時間が法外残業にあたります。

    ② 1週間についての残業時間を見ると、所定労働時間が40時間を上回っている週では第3週の月曜日の1時間が法外残業となります。また、所定労働時間が40時間以内の週では、第2週の土曜日の1時間を法外残業としてカウントします。

    すべての変形期間の残業時間を見ると、①②を除く労働時間は179時間です。ひと月が31日の月の法定労働時間の総枠は177.1時間なので、実労働時間は179-177.1=1.9時間上回っています。この時間の分は所定労働時間には含まれているため、割増分(25%)のみ計算します。

    第2週の土曜日の2時間と第4週の金曜日の2時間、土曜日の2時間は法内残業にあたります。

    したがって、受け取れる残業代は以下の通りになります。

    法外残業:2000 × 4 × 1.25 = 10,000(円)
    法内残業:2000 × 6 = 12,000円
    割り増しのみ:2000円 × 1.9 × 0.25 = 950
    計:22,950円

4、未払い残業代の請求は弁護士へ相談

残業代の請求は弁護士に相談されることをおすすめします。

  1. (1)何が残業代の証拠になるかアドバイスをもらえる

    法内残業・法外残業とも、残業代を請求するには証拠が必要です。主にタイムカードや出勤簿などが証拠となりますが、証拠力の弱い証拠資料でも寄せ集めれば証拠能力を強化できることもあります。弁護士に相談すれば、タイムカードや出勤簿が入手できない場合に何が証拠になりうるかアドバイスをもらえます。

  2. (2)残業代の計算をしてもらえる

    特殊な労働時間制をとっていない会社では、残業代の計算はあまり複雑ではないでしょう。しかし、フレックスタイム制や裁量労働制、変形労働時間制をとっている会社では、残業代の計算が複雑になり、いつ残業代が発生するのかよくわからなくなることがあります。弁護士に相談すれば、タイムカードなど勤務記録がわかるものがあれば、相談者に代わって残業代の計算をしてもらえるので、計算ミスや抜け漏れが防げます

  3. (3)交渉や労働審判、労働裁判を有利に進められる

    算出した未払い残業代のデータをもとに会社側と交渉をすることになります。そのときも弁護士が代理人として交渉のテーブルにつけば、相手方も誠意をもって対応してくれる可能性が高くなります。また、交渉を有利に進め、請求金額の満額に近い金額を得られることも十分にありえます。

    交渉がうまくいかず、労働審判や労働裁判に移行しても、弁護士が証拠資料をもとに主張を展開することで審判や裁判をスムーズに進め、本人に有利な審判・判決が得られる可能性が高くなるでしょう。

5、まとめ

残業時間には法内残業と法外残業があることを知らない方は、少なくないのではないでしょうか。所定労働時間がもともと法定労働時間と同じ場合は残業をするとすべて法外残業となりますが、所定労働時間が法定労働時間よりも短い場合は、残業すると法内残業と法外残業の両方が発生する可能性があります。

ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスでは、未払い残業代の相談を受け付けております。「残業していたことや残業時間を示す証拠がない」という方も、まずはご相談ください。

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