就業規則の不利益変更を行う場合に注意すべきポイント

2022年06月28日
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就業規則の不利益変更を行う場合に注意すべきポイント

福岡労働局のデータによると、令和2年における福岡県内の事業場(10人以上)において、毎月決まって支給する現金給与額の平均は30万3400円でした。男女別では、男性が平均34万2900円であるのに対して、女性は平均24万4500円となっており、男女間の賃金格差が見られます。

就業規則を変更して、労働条件を労働者にとって不利益になるように変更することは、労働契約法によって規制されています。特に、使用者が、労働者の同意なく労働条件の一方的な不利益変更を行う場合には慎重な手続きが求められますので、事前に弁護士に相談することをおすすめします。

本コラムでは、就業規則による労働条件の不利益変更の要件・注意点・手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。

1、就業規則とは?

「就業規則」とは、使用者が定める、事業場の労働者集団に適用される労働条件や職場規律に関する細目を定めた規則類のことをいいます。「就業規則」としての性質を有するか否かは、その名称にとらわれず、実質によって判断します。

常時10人以上の労働者を使用する使用者には、就業規則の作成が義務付けられています(労働基準法第89条)。

  1. (1)就業規則に定めるべき事項

    就業規則で定める事項は、絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項、任意的記載事項の3つに分けられます。

    就業規則では、絶対的必要記載事項として、以下の事項を定める必要があります(労働基準法第89条)。

    1. ① 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務(就業時転換)に関する事項
    2. ② 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算、支払いの方法、締め切り、支払いの時期、昇給に関する事項
    3. ③ 退職、解雇事由に関する事項


    また、以下の事項を社内で定める場合には、就業規則に記載することが必要になります(相対的必要記載事項)。

    1. ④ 退職手当に関する事項
    2. ⑤ 臨時の賃金等(退職手当を除く)および最低賃金額に関する事項
    3. ⑥ 労働者の食費・作業用品その他の負担に関する事項
    4. ⑦ 安全・衛生に関する事項
    5. ⑧ 職業訓練に関する事項
    6. ⑨ 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
    7. ⑩ 表彰・制裁の種類・程度に関する事項
    8. ⑪ その他、事業場の全労働者に適用される事項


    上記以外の事項についても、会社の判断によって、さまざまな事項を就業規則で定めておくことができます(任意的記載事項)。

  2. (2)就業規則と労働契約の関係

    就業規則は、全労働者に適用される労働条件の「最低基準」です。
    したがって、個別の労働契約において、就業規則で定める基準に達しない労働条件が定められている場合には、その部分は無効となり、無効となった部分は、就業規則で定める基準によることになります(労働契約法第12条)。

    一方、就業規則で定める基準を超える内容の労働条件について、個別の労働契約で定めることは問題ありません。
    この場合には、就業規則よりも個別の労働契約の定めが優先されます。

    なお、個別の労働契約が締結された後で、就業規則の内容が変更されることがあります。
    この場合、就業規則の変更によって既存の労働契約の内容が変更されるのは、次のいずれかの要件を満たすケースに限られます。

    1. ① 就業規則が労働者の有利に変更された結果、個別の労働契約で定める労働条件が、就業規則で定める基準を下回った場合(労働契約法第12条)
    2. ② 使用者と労働者の合意がある場合(同法第9条)
    3. ③ 就業規則による労働条件の不利益変更の要件を満たす場合(同法第10条)

2、就業規則による労働条件の不利益変更について

就業規則による労働条件の一方的な不利益変更は、使用者と労働者の合意によらない限り、原則として認められません(労働契約法第9条)。
ただし、一定の要件を満たす場合には、例外的に就業規則による労働条件の不利益変更が認められます(同法第10条)。

  1. (1)就業規則による労働条件の不利益変更の例

    労働条件を一部でも、労働者にとって従前よりも不利益な内容に変更する場合は、「労働条件の不利益変更」に該当します。

    就業規則によって労働条件の不利益変更となる事例としては、以下のようなものがあります。

    • 基本給、手当などの減額
    • 割増賃金率の減少
    • 歩合給制への移行(基本給の減額等を伴う場合)
    • 退職金の廃止、減額
    • 定期昇給の停止
    • 旅費の支給条件の変更
    • 所定労働時間の増加
    • 休日の減少
    • 特別休暇制度の廃止
  2. (2)就業規則による労働条件の不利益変更を行うための要件

    就業規則の変更により、労働者の不利益に労働条件を変更できるのは、以下の①~③の要件をすべて満たす場合に限られます(労働契約法第10条)。

    1. ① 変更後の就業規則を労働者に周知させていること
    2. ② 就業規則の変更が、以下の事情に照らして合理的なものであること
    • 労働者の受ける不利益の程度
    • 労働条件の変更の必要性
    • 変更後の就業規則の内容の相当性
    • 労働組合等との交渉の状況
    など
    1. ③ 変更の対象となる労働条件につき、労働者と使用者が個別の労働契約において、就業規則の変更によっては変更されない旨を合意していないこと


    上記の要件を1つでも満たさない場合には、就業規則による労働条件の一方的な不利益変更は無効となる点に、注意してください。

3、労働者の同意なく労働条件の不利益変更を行う際の注意点

労働者の同意を得ることなく、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更する場合、前述の不利益変更の要件を満たす必要があります。
会社としては、各要件の内容をふまえて、以下のような対応を確実に行うようにしましょう。

  1. (1)変更後の就業規則を周知徹底する

    労働者に対する変更後の就業規則の周知は、労働条件の不利益変更の要件のひとつとなっています。

    ここでいう「周知」とは、実質的周知をいい、事業場の労働者集団に対し、変更内容を知りうる状態にしておくことを意味し、必ずしも労基法106条に定める、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付すること、その他の労働省令で定める方法によって、労働者に周知させることまでは必要とされていません。

  2. (2)不利益変更の幅を最小限に抑える

    就業規則の変更内容の合理性は、労働条件の不利益変更に関する要件の中でも、重要度の高い項目です。
    変更内容の合理性の判断にあたっては、労働者の受ける不利益の程度が重点的に考慮されます。

    具体的には、労働者の被る不利益が軽微である場合には、変更内容の合理性が認められやすいでしょう。
    反対に、労働者にとって大きな不利益が発生するような変更の場合は、変更内容の合理性が認められにくくなってしまいます。
    賃金、退職金などの労働者の利益にとって重要な労働条件に関する不利益変更については、それを受忍させるだけの高度の必要性が必要になってきます。

    就業規則による労働条件の不利益変更を行う際には、労働者の被る不利益を軽微にして合理性を認められやすくするために、変更の幅を最小限に抑えておくのが無難といえます。

  3. (3)労働組合等と十分に事前協議する

    軽微とはいえない労働条件の不利益変更を行う場合であっても、労働者側の納得を得るプロセスを経て変更がされた場合には、変更内容の合理性が認められる可能性が高まります。

    会社としては、労働組合がある場合には、労働組合等と繰り返し協議を行い、協議の場で十分な説明を尽くすことが必要になります。
    場合によっては労働者側の意見を聞き入れて、就業規則の変更内容を見直すことも検討しましょう。

4、就業規則を変更する際の手続き

以下では、就業規則を変更する際に必要となる手続きを紹介します。
変更内容の検討はもちろんのこと、法律上必要な手続きを漏れなく実施して、コンプライアンスを意識した労務管理を行うことが大切です。

  1. (1)取締役会などで変更案を決定する

    就業規則の変更は、以下の機関によって決定します。

    1. ① 取締役会設置会社の場合
      →取締役会(会社法第362条第2項第1号)
    2. ② 取締役会非設置会社の場合
      →取締役の過半数(会社法第348条第2項)


    就業規則変更の決定を行ったら、取締役会設置会社では「取締役会議事録」を、取締役会非設置会社では「取締役決定書」を作成して、その内容を明確化しておきましょう

  2. (2)労働組合等の意見を聞く

    就業規則を変更する際には、使用者は当該事業場の過半数組合(労働者の過半数を組合員とする労働組合がない場合には、労働者の過半数代表者)の意見を聞かなければなりません(労働契約法第11条、労働基準法第90条第1項)。

    必ずしも労働組合等の同意を得る必要はありませんが、これは、労働者側に発言の機会を与える趣旨なので、少なくとも、意見を聞くプロセスを経る必要があります
    また、前述のとおり、就業規則による労働条件の不利益変更を行う場合には、労働組合等の納得が得られているかどうかが重要なポイントとなることに留意してください。

  3. (3)労働基準監督署に変更後の就業規則を届け出る

    変更後の就業規則は、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません(労働契約法第11条、労働基準法第89条)。

    届け出の際には、労働組合等から聴取した意見の内容を記した書面を、届出書に添付することが必要になります(労働基準法第90条第2項)。

5、まとめ

就業規則の変更により、労働者の不利益に一方的に労働条件を変更する場合、一定の要件を満たさなければ変更が無効となってしまいます。

労働者の同意を得ずに、労働条件の不利益変更を行う場合には、労働契約法上の要件を意識したうえで、変更内容の検討や労働組合等との協議を適切に行いましょう。

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