就業規則を雛形(ひな形)のまま使用したらNG? 福岡オフィスの弁護士が解説

2020年05月13日
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就業規則を雛形(ひな形)のまま使用したらNG? 福岡オフィスの弁護士が解説

平成29年9月、福岡労働局は、福岡市にある宅配会社の配達員に残業代の一部を支払っていなかったとして、会社の幹部を労働基準法違反容疑で福岡地検に書類送検したことが報道されました。

このように、労働問題であったとしても、労働局による是正勧告での改善が見られない場合、刑事事件化されるケースがあります。就業規則とは、労働に関する労働時間や賃金などについて明文化したものです。労使間のトラブルを防ぐためには、小規模事業者であっても作成しておきたいものですが、ゼロから作るのは大変です。

就業規則の意義や作り方をベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。

1、就業規則とは?

  1. (1)就業規則の役割

    就業規則とは会社側と労働者の労働条件を定めたものです。賃金や休暇、服務規程など、働く上で労使双方が守るべき約束をまとめ労使間のトラブルを回避する目的で作られています。

    厚生労働省がインターネット上に「モデル就業規則」を公開していますので、これから就業規則を作成する場合は、一度目を通しておくとよいでしょう

  2. (2)従業員数によって作成・提出の必要がある

    労働基準法第89条の規定により、常時10人以上を雇用している会社は、就業規則を作成し、管轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。作成義務のある事業所なのに作成していなかった場合、労働基準法120条第1号により、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

2、就業規則の記載事項

就業規則に書く内容は、以下の3つに分類されます。
それぞれについておさえておきましょう。

  1. (1)絶対的必要記載事項

    必ず就業規則に記載しなければならない事項のことです。
    以下のような内容が挙げられます。

    ① 労働時間に関する事項
    始業および終業時刻、休憩時間、休日、各種休暇、就業時転換に関する事項(勤務形態が交代シフト制の場合のみ)

    ② 賃金に関する事項
    賃金の決定、賃金の支払い方法と計算方法、賃金の支払い時期、賃金の締め切り日、昇給に関する事項

    ③ 退職に関する事項
    退職方法、解雇の事由について

  2. (2)相対的必要記載事項

    各事業所内でルールを定める場合に記載する必要がある内容のことです。
    たとえば、以下のような内容が挙げられます。

    • 退職手当に関する事項:適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払時期など
    • 臨時の賃金(賞与)・最低賃金額に関する事項
    • 食費や作業費用負担に関する事項
    • 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
    • 安全衛生に関する事項
    • 職業訓練に関する事項
    • 制裁、表彰に関する事項
    など

  3. (3)任意的記載事項

    社員の心得や会社の理念など、そのほかにも記載したいことがあるときは「任意的記載事項」に該当する事項です。法律上、必須ではありません。

    もちろん、雛形にない事項を盛り込んでも良いのですが、法に触れる内容にならないようにしましょう。たとえ就業規則で定め労使で合意があったとしても、法令または労働協約に違反する就業規則については、所管の労働基準監督署長はその変更を命ずることができます。(労働基準法第92条)

    労働基準法第89条第1号から第3号事項により、就業規則に記載すべきと定められている事項に不備がある場合も同様に、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

    就業規則を作成したら、後日のトラブルを避けるためにも、弁護士に内容に法的な問題がないか確認すること(リーガルチェック)を依頼することをおすすめします

3、就業規則と労働契約書の違い

就業規則と混同されやすいものに、労働契約書というものがあります。
簡単に言うと、以下のような点が違います。

  • 就業規則:雇用主が定める全従業員に対する規則
  • 雇用契約書:雇用主と個人との間に結ばれる契約


勤務形態が多様化している昨今では、就業規則とは異なる条件で労働契約書を結ぶケースもありえます。この場合も、労働者に不利益がないように心がける必要があります。

労働契約書作成時には、社労士や弁護士に相談することによって、後日起こりうる労働問題に巻き込まれてしまうリスクを減らすことができます

4、就業規則の取り扱い

就業規則を作成した後の運用について確認しておきましょう。

  1. (1)どこに置いておくのか?

    作成した就業規則は、労働者に周知するように努めなくてなりません。具体的には、以下の措置をしておくことが望ましいと考えられます。

    • 入社時に印刷して渡す
    • 社内ネットワーク上で誰でも閲覧できるようにしておく
    • 印刷したものを作業場の見やすい場所に備え付けておく
  2. (2)就業規則を変更するときはどうするのか?

    一度決めた就業規則は、雇用主が勝手に改訂することはできません

    就業規則を変更したり、別の規程を増やしたりしたい場合には、従業員の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働組合がない場合は従業員の過半数を代表する者の意見書を添付して所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。(労働基準法第90条)

    また、労働条件の不利益変更は原則として認められていません。どうしても従業員にとって不利益な変更が必要な場合は、合理性が必要であるとされます。(労働契約法第10条)

    やむを得ず変更したとしても、変更内容を労働者に周知した上で、従業員の過半数の合意を得なければならないのです

5、就業規則に違反するとどうなるのか?

就業規則に違反した事態が発生した場合、どのような事態が起こりうるでしょうか。

  1. (1)労使間で争いがあった場合

    労使間で争いが起きたときには、争いがある事実が、この就業規則に書かれている内容に沿っているかどうかが判断の大きな基準となります

    未払い残業代を請求されたとしても、就業規則に残業代についての取り決めが明文化されており、それに沿って支払っていれば、使用者側が責任を問われる可能性は低いでしょう。もちろん、就業規則や労働基準法に反していた事実がある場合は、従業員の訴えが全面的に認められてしまう可能性が高まります。

    逆に、就業規則がなかったために高額な残業代を請求されたケースもあります。労使ともに、のちのちのトラブルを回避するためにも、就業規則の取り決めは非常に重要です。

    従業員が解雇や処分を不服として、撤回を求める民事裁判を起こした場合、懲戒処分される事項や解雇される事項を就業規則に明記しておけば、使用者側は処分の根拠として提示できます。

  2. (2)労働基準監督署からの指導

    就業規則が守られていないと労働基準監督署に通報があった場合、労働基準監督官が立ち入り検査をするケースもあります。その結果、労働基準法違反が発覚すれば、これを是正するための行政指導をします。

    違反が悪質な場合や、改善が見られない場合は、厚生労働省の各所管労働局サイトに「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として社名および違反内容が公表されます。また、冒頭の事案のように、特に悪質なケースは労働基準法違反として立件される可能性があります。

6、就業規則の雛形を使う際の注意点

就業規則を作成する際、前述のとおり、厚生労働省のサイトから、モデル就業規則のファイルをダウンロードすることができます。そのほかにも、就業規則の雛形は書籍やネットからも取得できますが、そのまま使ってしまうのは問題があります。それはあくまでも代表的な働き方にすぎないからです。

業態、業種、働き方によってはそのままでは使えないケースも多いものです。社員とパート社員との違いもあるでしょう。場合によっては、法令違反になることもありえますので、注意が必要です。可能な限り、労働基準法など各種法律に反していないかはもちろん、御社の業態に適しているのかなどの面も含め、弁護士にリーガルチェックを依頼することを強くおすすめします

7、弁護士に就業規則のチェックを依頼するメリット

  1. (1)法的なリスクを排除し、健全な事業活動を行う準備ができる

    弁護士に就業規則の作成やリーガルチェックを依頼すると、雛形よりも具体的に書くべきところ、事業に応じた書き換えが必要な事項を洗い出すことができます。洗い出しを行う中で、事業の法的なリスクや社内の仕組みに不足している点、人事的に配慮すべき事項も把握することができるでしょう。

  2. (2)最新の法律に合わせた対応ができる

    また、就業規則は、労働基準法や労働契約法をはじめとしたさまざまな法令が関係するものです。特に「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」など、働き方に関する法令は年々更新されていきます。そのため、法律上の問題がないかを確認するには、作成後も弁護士による定期的なリーガルチェックをおすすめします

  3. (3)しっかりした就業規則は、企業のアピールポイントにもなる

    近年は、既卒者のみならず新卒者も就職活動時に就業規則をチェックしています。
    就業規則の内容や見直しがしっかりしていることは、従業員の待遇改善に力を入れているとして企業のアピールポイントにもなるでしょう。

8、まとめ

就業規則を作成しておくことは、労働者にとっても、使用者にとっても十分なメリットがあるものです。雛形をベースに作成に取り組んでいる場合、ぜひ一度、弁護士によるリーガルチェックをご検討ください。

会社の事業内容に応じた過不足のない就業規則となるようにアドバイスを行います。ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスは、事業を法務面から支え、将来を見据えたきめ細やかなサポートを提供します。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています