予約済みのレストランを無断キャンセルしたら損害賠償請求される?
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平成30年、ある大手航空会社が羽田空港発福岡空港行きの便について、無断キャンセルを見越して定員を上回る予約を受けてしまい、欠航となった事件がありました。多くの大手航空会社では、予約が入っていても客が搭乗しないノーショー(無断キャンセル)や直前キャンセルが一定数あるため、それを想定して予約を多めに受け入れているそうです。
しかし、飲食店で無断キャンセルや直前キャンセルを想定して多めに予約を受けることはおそらくないでしょう。もし飲食店で無断キャンセルをすればその分お店に損害が出ることになりますが、実際に損害賠償されることはあるのでしょうか。福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、飲食店におけるノーショー(無断キャンセル)の実態
最近はインターネットで気軽に予約ができるようになったこともあり、飲食店におけるノーショー(無断キャンセル)問題がとても深刻になっています。その実態とはどのようなものでしょうか。
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(1)ノーショー(無断キャンセル)とは
ノーショーとは、(来るはずの)予約客が姿を見せないことで、航空業界やホテル業界でよく使われていることばです。無断キャンセルされると、得られるはずだった利益が得られないばかりか、予約がなければ受け入れられていたほかのお客さまを取り逃がすことにもつながります。そのため、旅行業界や飲食業界ではノーショーは大変頭を悩ませる問題となっています。
しかし、飲食店の方々は、ノーショーに悩んでいても日々の仕事が忙しく無断キャンセル対策のことまで手が回らないという現状があるようです。冒頭でご紹介した航空業界の事例も、ノーショー対策が裏目に出てしまった結果といえるでしょう。 -
(2)経産省が無断キャンセルの対策レポートを発表
そこで、経済産業省は平成29年に弁護士や大学教授、業界団体、飲食支援事業者などからなる有識者勉強会を立ち上げ、平成30年11月に「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」を発表しました。このレポートには、ノーショーの実情とともに損害賠償金額の目安や飲食事業者が取り組むべきことが書かれています。
この「対策レポート」によれば、無断キャンセルが飲食店の予約に占める割合は1%にも満たないものの、飲食業界全体に与える損害は年間約2000億円になるといいます(※)。さらに1~2日前に発生する直前キャンセルもあわせると、キャンセル発生率が6%となり被害額が1.6兆円にものぼるとされているのです。
同レポートでは、無断キャンセルがなければ営業利益率を0.8%アップできるとみられています。また、直前キャンセルを減らすことができれば、従業員の賃金を15%アップできる、もしくは営業利益率を約6%アップさせられるとも言われています。
(※)サービス産業の高付加価値化に向けた外部環境整備等に関する有識者勉強会「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」
2、無断キャンセルで損害賠償請求される?
結論から言えば、無断キャンセルをすると、お店側から損害賠償請求をされる可能性があります。実際に食事をしてもいないのに、なぜお金を支払わなければならなくなるのでしょうか。
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(1)飲食店の予約は「サービス提供契約」となる
飲食店の予約をすると、特に契約書を交わしていなくとも、法律上はお客さまと飲食店との間に「サービス提供契約」が成立します。
そもそも契約は、書面がない口約束でも成立するものです。そのため、飲食店の予約をすれば、そこで結ばれた契約にもとづき、飲食店側には飲食物やそれにともなうサービスを提供する義務が、お客さま側には代金を支払う義務が生じるのです。 -
(2)無断キャンセルをしたら損害賠償しなければならない可能性
契約当事者のどちらかが、相手側の合意を得ず約束を一方的にほごにしてしまえば、契約破棄になります。したがって、飲食店の予約を一方的に無断でキャンセルすることは、この契約破棄にあたるのです。一方的な無断キャンセルで相手方に損害を与えた場合は、損害賠償を請求される可能性があります。
飲食店では、予約が入ると人数分の食材を事前に仕入れなければなりません。もし事前に予約客がキャンセル連絡を入れれば、その食材を他のお客さまに提供する料理にまわせるので、無駄にならない可能性があります。しかし、予約客が無断キャンセルすれば食材を使いまわすことができず多大な損害が生じることになることは間違いないでしょう。そのため、損害賠償請求される可能性がとても高くなるのです。 -
(3)請求されうる賠償金額の目安
前掲の「対策レポート」によれば、請求されうる賠償金額の目安の考え方は、以下のように書かれています。
<コース予約の場合>
コース予約の場合は、コースに使う食材をほかのお客さまのために使うことがとても難しいときは、損害賠償金額はコース料金の全額となる可能性があります。しかし、コース用に用意した食材が他のお客さまへの料理に使えるときは、消費者契約法などの法律やお店の事情にのっとって損害賠償金額を算定することが可能です。
<席のみ予約の場合>
席のみ予約の場合は金額が確定していないので、発生しうる損害の金額を正確に算定するのは難しいでしょう。損害賠償の金額は、発生しうる損害の金額から、もともと発生している人件費や転用できる原材料費などを除いた金額になるとされています。 -
(4)無断キャンセルをした客に損害賠償請求を命じた判例
実際に、無断キャンセルをした客に対し、裁判所が損害賠償請求を命じた判決があります。
平成30年3月、東京・歌舞伎町のバーで3480円のコース料理を40人分、店は貸し切り、という予約がある女性から入りました。しかし、予約時間になっても客が現れないうえに予約した女性とも連絡がつきません。お店側は、その女性に対し損害賠償を求める裁判を東京簡裁に起こしました。結果、裁判所はお店側の主張を認め、女性に対して13万9200円を支払うよう命じたのです。
無断キャンセルの憂き目にあったお店が提訴に踏み切り、無断キャンセルについて司法判断が下るのは珍しいことです。今後は無断キャンセルに対しては泣き寝入りをせず、毅然とした態度を示すお店も増えてくるのではないでしょうか。
3、無断キャンセルで逮捕される可能性も
無断キャンセルをすると、損害賠償を請求されるばかりか、逮捕される可能性もあります。逮捕された場合、どのような罪になり、どれくらいの刑罰が科されるのでしょうか。
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(1)無断キャンセルは偽計業務妨害罪になりうる
はじめから無断キャンセルするつもりで高額コースを予約したり大量の注文をしたりときには、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
偽計業務妨害とは、ネット上などでデマを流したり、ウソをついたりして、他人の信用をなくすようなことをしたり他人の業務を妨害したりすることをいいます。偽計業務妨害罪が成立して有罪になれば、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。 -
(2)実際に無断キャンセルで逮捕された事例
実際に、無断キャンセルで高額の損害を受けたお店が、予約客に対し刑事告訴に踏み切った事案があります。令和元年11月、電話予約した居酒屋に対して無断キャンセルを繰り返していたとして都内に住む男が逮捕されました。
この男は、同年6月にこの居酒屋の系列店4店舗でスズキという偽名を使ってコース料理と飲み放題を予約しましたが、いずれも無断キャンセルしたので、被害額が計51万円にものぼりました。同年12月の時点で、この男は偽計業務妨害の罪で起訴されています。
4、電話番号だけでも個人を特定される!
最近は飲食店の予約はネットで行うことも増えていますが、グルメサイトなどに掲載されていないお店では電話のみで予約を受けているところもあります。電話予約では電話番号しか伝えないこともありますが、電話番号だけでも個人が特定され、損害賠償請求される可能性はゼロではありません。
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(1)弁護士会照会を使えば電話番号だけで個人が特定される
電話番号から個人を特定するときには、弁護士会照会という制度を使います。弁護士会照会とは、弁護士が担当する事案について証拠や資料を収集するために企業や行政機関に必要な情報を調査・照会するための制度です。弁護士法23条の2に規定されている制度なので、「23条照会」とも呼ばれています。
弁護士は弁護士会を通じて、電話会社に対し照会の申し出をして、その電話回線の契約者や購入者の氏名や住所などを調べることができるのです。 -
(2)電話番号だけで損害賠償請求された事例
先述の13万9200円の損害賠償請求がなされた事件では、この弁護士会照会制度が利用されました。無断キャンセルの被害にあったお店の店主が弁護士に相談し、弁護士が照会制度を使って携帯電話の会社から個人情報を取得して予約客を特定したのです。
したがって、お店に電話番号しか伝えていなかったとしても、無断キャンセルをすれば個人を特定されて、何らかのペナルティを受ける可能性があると考えたほうがよいでしょう。
5、無断キャンセルをした場合にとるべき対応とは
キャンセルするつもりなら、できるだけ早くお店に連絡を入れましょう。しかし、「お店への連絡をうっかり忘れていた」などで無断キャンセルをしてしまったら、どうすればよいのでしょうか。
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(1)弁護士に相談する
直接お店に謝りに行くことが最善です。しかし、無断キャンセルをしてしまった手前、「何を言われるかわからないのでお店には行きづらい」と感じる人も少なくないでしょう。このようなときは、まず弁護士に相談して、事情を話したうえでお店とどのように話をすべきかアドバイスをもらうこともひとつの案です。特に金額が大きい場合は、正式に依頼をして交渉に同行してもらうこともできるかもしれません。
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(2)お店と示談交渉をする
弁護士への相談をふまえて、お店と示談交渉をします。電話ですませるのではなく、できれば直接お店に出向いて、心から謝罪をしたうえで示談交渉にのぞむとよいでしょう。弁護士に依頼すれば、弁護士に同行してもらったり、自分の代わりに弁護士に交渉をしてもらったりすることもできます。
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(3)弁護士に依頼するメリット
弁護士にお店側との交渉を依頼するメリットとしては、以下のようなものがあげられます。
①冷静な話し合いができる
お店側と直接話をすれば、腹が立ったり動揺したりして冷静に話すことが難しいかもしれません。弁護士を通すことで、感情的にならずに落ち着いてお店側と話し合うことができます。
②相手が示す請求金額が妥当なものか判断できる
相手方が高額な賠償金を請求してきたとき、弁護士に相談すればその金額が妥当なものかどうかが判断できます。
③より有利な条件で交渉を終えられる
弁護士が交渉することで、より有利な条件を引き出して交渉を終えられる可能性も高まります。たとえばコース料理を頼んだ人数分、全額の支払いを求められていたとしても、弁護士が代理人として交渉を行うことでいくらか減額してもらえるかもしれません。
6、まとめ
お店を予約していても、急な体調不良や身内の不幸などで行けなくなることはだれにでもありえることです。もちろん、お店に行けなくなった時点でできるだけ早くキャンセル連絡を入れるべきでしょう。それでも、もし無断キャンセルしてしまったのであれば、やむなく何らかのペナルティを受けることも考えられます。
無断キャンセルをした結果、店舗から損害賠償請求をされてしまいお悩みであれば、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスでご相談ください。弁護士ができる限りペナルティを少なくする方法をお客さまと一緒に考え、ご提案します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています