改正少年法により、重罪を犯した未成年の扱いはどう変わるのか
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福岡県警察では、毎年の少年非行実態を「少年のみちびき」と題した統計資料で公開しています。同資料によると、令和2年中に福岡県内で補導・検挙された少年は1503人でした。補導・検挙された少年の数は平成15年をピークに減少傾向にあるものの、人員としては全国で第7位、非行者率も全国で第8位という、高水準の状況にあるのです。
未成年の少年と犯罪の関係は、劇的な変化を迎えつつあります。令和4年4月1日からの「少年法」の改正によって、特に18歳と19歳の方に対する扱いに大きな変化が生じることになりました。
本コラムでは「少年法」の改正内容に注目しながら、罪を犯した未成年の少年に対する扱いの変更点や注意すべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、「少年法」の基本的な考え方と改正の要点
未成年の「少年」は、少年法の適用を受けます。
この扱いによって、成人が事件を起こしたときとは異なる処分を受けますが、令和4年の改正民法の施行に伴い、少年法の適用のされ方にも変化が生じることになったのです。
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(1)少年法とは
「少年法」とは、少年の健全育成や非行からの矯正を目的として、刑事事件を起こした未成年者に対する特別な措置について定めた法律です。
少年法第2条では、満20歳を基準にして「少年」と「成人」に区別し、刑事事件を起こした少年は家庭裁判所の審判に付することや、原則として刑罰ではなく保護処分を下すことなどが定められています。 -
(2)民法改正の影響
少年法では、長らく満20歳未満を少年と定義していました。
しかし、令和4年4月1日の改正民法施行による成年年齢の引き下げを受けて、その定義も変更されることになります。
少年法における「少年」と「成年」を区別する基準が民法と同じく18歳へと引き下げられたことにより、17歳以下を従来どおりの少年として、18歳・19歳は「特定少年」として扱うことになります。
民法上の成年として扱われる18歳以上の者について、「社会における責任ある主体として積極的な役割を期待し、その立場に応じた取り扱いをすることが適切である」と判断されたためです。
この改正は、改正民法の施行とあわせて令和4年4月1日に同時施行されます。
2、18歳・19歳の者は「特定少年」として扱われる
改正少年法では、18歳・19歳の者は引き続き少年法の適用を受けるものの「特定少年」として、これまでの少年とも成人とも異なる特殊な扱いをすることが定められています。
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(1)特定少年とは
少年法の改正にあたって、政府では18歳・19歳の者も成人と同様に扱って刑罰を科すべきか、発達の途上段階にあることを尊重して少年と同様の扱いをするべきかが議論されてきました。
その結果、新たに成人として扱われることになる18歳以上の者を「特定少年」に分類し、17歳以下の少年とは区別した処遇を与えながらも、立ち直りを重視するという折衷案が採用されることになったのです。 -
(2)特定少年は17歳以下の少年と異なる扱いを受ける
特定少年に分類される18歳・19歳の者は、事実上の厳罰化を受けることになります。
まず、原則として刑罰を科すのではなく保護処分による矯正教育を施すという少年に対する扱いがあり、その例外として検察官への「逆送」があります。この検察官への「逆送」となる対象が「特定少年」に対しては拡大されます。
逆送対象となった場合は、保護処分による矯正教育ではなく、成人と同様に刑罰が科せられるため、改正による厳罰化が採用されたといえるでしょう。
また、これまで少年事件については強い報道規制が敷かれていましたが、特定少年に限っては規制が緩和されることになるのです。
3、「逆送」の対象となる事件の拡大
少年法改正による特定少年の扱いのなかでも特に重要なポイントが、「逆送」となる対象事件の拡大です。
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(1)逆送とは
少年事件は、警察・検察官による捜査が終結した段階で家庭裁判所へと引き継がれます。
通常の成人事件では、刑事裁判を提起する可否は検察官によって決定されますが、少年事件では検察官ではなく少年の特性を深く理解した家庭裁判所に判断を委ねられることになるのです。
これを「全件送致主義」といいます。
もっとも、検察官から家庭裁判所へと送致された事件が、再び検察官へと送致されることもあり、これを「逆送」と呼びます。 -
(2)特定少年における逆送対象の拡大
これまでの少年法では、家庭裁判所への全件送致主義が採用されており、例外となるのは、次の2つにあたる場合だけでした。
- 死刑・懲役・禁錮にあたり罪質や情状に照らして刑事処分が相当と認められる事件
- 16歳以上の者が故意の犯罪によって被害者を死亡させた事件
検察官から家庭裁判所へと送致された事件が、再び検察官へと送致されることから、この流れは「逆送」と呼ばれます。
また、ここで挙げた2つのうち、16歳以上の者が故意の犯罪によって被害者を死亡させた事件は、原則として検察官へと逆送することが定められています。これは、「原則逆送」と呼ばれます。
そして、改正少年法では、特定少年に限って次のように逆送対象が拡大されます。
- 罪質・情状に照らして刑事処分が相当と認められる事件
- 死刑、無期もしくは短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪の事件
まず「罪質・情状に照らして刑事処分が相当と認められる事件」の対象となる罪の制限が撤廃されました。
これによって、罰金・拘留・科料にあたる事件でも、悪質な内容であれば逆送されるおそれが生じます。
さらに、原則逆送となる事件にも、「死刑、無期もしくは短期1年以上の懲役・禁錮にあたる罪の事件」が追加されました。
これまでは16歳以上で「故意の犯罪によって被害者を死亡させた事件」に限定されていましたが、この追加によって、強盗罪や強制性交等罪といった事件も原則逆送となるのです。
4、未成年者でも起訴されれば実名報道が解禁される
改正少年法で注目を集めているのが「実名報道の解禁」です。
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(1)少年法における実名報道への規制
従来の少年法では、家庭裁判所の審判に付された少年、少年のとき犯した罪によって公訴を提起された者を対象に、事件の本人特定につながる氏名・年齢・職業・住居・容貌などを報道する「推知報道」が禁止されていました。
週刊誌などがスクープ記事として事件を起こした少年の実名や写真を掲載したびたび問題に発展していますが、これまでの少年法の定めでは一切の「推知報道」が禁止とされています。 -
(2)特定少年は実名報道を受けるおそれがある
改正少年法では、特定少年が検察官に起訴された段階で報道規制が解除されます。
警察・検察官の捜査段階や、家庭裁判所の調査・審判にある段階では従来どおり推知報道が禁止されますが、刑事裁判が提起された時点で、実名報道を受けるおそれがあるのです。
なお、実名報道が解禁されるのは特定少年だけであり、17歳以下の少年については、従来どおり「推知報道」は一切禁止となります。
また、特定少年であっても、略式手続による場合は規制が解除されません。
5、保護処分の期間が明示される
少年事件では、成人のように刑罰が科せられるのではなく、少年の更生に適当な「保護処分」が下されます。
改正少年法では、保護処分の「期間」についても、改正が加えられることになりました。
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(1)保護処分とは
保護処分とは、家庭裁判所の裁判官が審判の結果に応じて下す処分です。
具体的には、以下のような措置がなされます。
- 家庭での更生を目指す保護観察
- 施設内で矯正教育を施す少年院送致
- 比較的に非行性が進んでいない少年の自立を支援する児童自立支援施設等送致
これらはあくまでも少年の「更生」を目的としたものであり、制裁としての性格はもっていないという点で、成人に対する刑罰と区別されます。
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(2)特定少年に対する保護処分の改正
従来の少年法では、保護処分の内容を決める要素として、犯した罪の重さだけでなく、少年自身の生い立ちや性格、家庭環境なども重視されてきました。
また、言い渡される保護処分には「保護観察を継続する必要がなくなったとき」や「矯正教育の目的を達したとき」のように、期間の定めが明確ではありませんでした。
改正少年法では、特定少年に対する保護処分を決定する要素が「犯罪の軽重」となったため、少年自身に責任のない家庭環境などの問題から罪を犯したケースでも厳しい処分が言い渡される可能性があります。
また、期間の定めについても特定少年に限っては明示されることになりました。
保護観察では6か月または2年のいずれか、少年院送致は3年の範囲内で期間が明示されます。
従来のような柔軟な対応がかなわなくなったという点では、厳罰化のひとつだといえるでしょう。
6、まとめ
少年法の大幅な改正によって、特に18歳・19歳の「特定少年」にあたる者が事件を起こした場合は厳しい状況に陥ることが予想されます。
検察官へと逆送されて成人同様に刑罰を受ける、起訴されて実名報道されるといった危険も生じるため、早期に弁護活動を尽くして処分・刑罰の軽減を目指すことが重要です。
少年事件をできるだけ穏便なかたちで解決するには、少年自身の特性や少年事件の流れへの深い理解が欠かせません。
もしお子さまが事件を起こしてしまった場合は、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスにまでご相談ください。
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