タクシー運転手を暴行し逮捕された時に知っておきたいことを弁護士が解説
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タクシー運転手への暴行などタクシー乗車時のトラブルは頻繁に起こっていて、自身や家族が加害者となってしまうことも珍しくはありません。
タクシー運転手への暴行はどんな罪に問われる可能性があるか、示談交渉をする・しないことでどうなるのかを踏まえて、弁護士に依頼する必要性やメリットについて解説します。
1、タクシー運転手への暴行は何罪?
タクシー乗車中に運転手を暴行してしまった場合、どういった罪に問われるのでしょうか。実際に行った内容によって、罪状は異なります。
たとえば、相手を殴ってしまった場合、暴言を言った場合、タクシー車内のものを壊してしまった場合において、それぞれ科される刑罰が異なります。
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(1)相手を殴ってしまった場合⇒傷害罪もしくは暴行罪
① 暴行罪の場合
相手の身体に対して、不法な攻撃を加えることを暴行といいます。
また、「相手の身体や顔を殴る」というようなはっきりとした暴力行為ではなく、相手の胸倉を掴む、服を掴んで引っ張る、運転席の背後から蹴る、といった行為も暴行罪が成立する可能性があります。
暴行罪の刑罰は、「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」と定められています(刑法第208条)。
② 傷害罪の場合
相手に対して意図的に暴力を加え、相手に怪我を負わせた場合を傷害といいます。
たとえば、後部座席から相手の顔面を殴り鼻の骨を折ったり、運転手を引きずり降ろして転んで怪我をさせたりすると、障害罪が適用される可能性があります。
傷害罪の刑罰は、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と定められています(刑法第204条)。 -
(2)暴言を吐いた場合⇒脅迫罪
相手に対して身体的な危害を与えなくても、行き過ぎた言葉で責めたり、侮辱したりするような暴言を吐くと脅迫罪に問われる場合があります。
特に、タクシー運転手と乗客とのトラブルでは、お酒を飲んで泥酔している乗客の気が大きくなって、普段なら絶対言わないような暴言を意識せずに口にしてしまうというケースも少なくありません。たとえば、「殴るぞ」「殺すぞ」などといった暴言を吐くと、脅迫罪に問われる可能性があります。
脅迫罪の刑罰は、「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」と定められています(刑法222条)。 -
(3)車内防犯用ボードなどものを壊した場合⇒器物損壊罪
運転手に危害を与えなくても、車内の物や車自体を破損させると器物損壊罪に問われます。特に、後部座席と運転席の間を仕切る「防犯用ボード(セーフティボード)」は反射的に手が出しやすく、乗客が足で蹴って破損させてしまうというケースも少なくありません。
器物損壊罪の刑罰は、「3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と定められています(刑法261条)。 -
(4)暴行等によって業務を妨害した場合⇒威力業務妨害罪
タクシー運転手に対する暴行等により、タクシー業務を妨害した場合は、威力業務妨害で処罰される可能性があります。
威力業務妨害罪の刑罰は、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と定められています(刑法234条・同233条)。
また、タクシー運転手に対して暴行を加えてしまい、通報によって駆け付けた警察官にまで暴行または脅迫を加えてしまうと、タクシー運転手に対する暴行罪とは別で公務執行妨害で処罰される可能性があります。軽微な場合は、逮捕されても勾留までは行われないというケースも少なくありませんが、暴行の程度が酷い場合には、起訴される可能性もあります。
公務執行妨害罪の刑罰は、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」と定められています(刑法95条)。公務執行妨害は、被害者が公務員本人ではなく「国」となるため、示談交渉は不可能です。反省の態度をしっかりと示し、不起訴に向けた活動を行うことが重要となります。
このように、タクシー運転手への暴行と一口に言っても、実際にどういった罪に問われるのかは、その行動の内容や程度によって異なります。
2、タクシー運転手を暴行してしまった場合の対処方法について
タクシー運転手に暴行してしまい罪に問われた時に、どのように対処していけば良いか解説いたします。
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(1)タクシー運転手(会社)と示談交渉を行う
まず、被害者(運転手)との示談交渉を行い、示談の成立を目指すことが第一になります。示談が成立することで、不起訴処分となる可能性は高くなります(不起訴処分となれば、前科はつきません)。
起訴された場合でも、示談が成立していることで刑罰が軽くなる可能性があります。やむを得ない事情がないのであれば、まずは示談交渉をすることが重要です。 -
(2)被害者が負傷している場合
タクシー運転手が暴行によって負傷した場合には、示談金とは別に治療費を支払う必要があります。
また、出勤できないほどの怪我を負った場合には、治療費と合わせて休業損害金を支払わなければならない可能性があります。被害者から提示された金額が適切であるかどうか判断がつかない、相手との交渉が不安という場合には、弁護士に相談することをおすすめいたします。
3、タクシー運転手への暴行事件で相手と示談しないとどうなるのか?
示談交渉は任意で行うものですので、必ずしなければならないというものでもありません。しかし、示談交渉を行わないとどのようなことが考えられるでしょうか。
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(1)示談をしないと起訴される可能性が高くなる!?
暴行罪や傷害罪は親告罪ではないため、被害者側の被害届の有無などに関係なく刑事罰に問われる可能性があります。暴行事件がすべて起訴されるわけではなく、事件の状況を元に、検察が判断することになります。
検察が起訴するかどうかの判断において、示談しているかどうかは重要な要素になります。示談が成立しているということは加害者・被害者間に一定の和解があるという証明となり、起訴される可能性は低くなります。
逆に言えば、示談しない場合、刑事事件として起訴される可能性は高くなります。 -
(2)示談交渉は弁護士に依頼するべき?
示談をする場合には、慰謝料など示談の内容が不利にならないようにするために、弁護士など専門家の力を借りるべきでしょう。
また、直接加害者が被害者の方に対して連絡を取ろうとすると、相手から拒否され示談交渉ができないというケースもあります。そういったケースでは、弁護士であれば連絡を取ってもいいという被害者の方も少なくありませんので、弁護士を通して示談交渉を行うと良いでしょう。
示談交渉ができない・難航している場合にも、できるだけ謝罪の意思を示しておくことが必要です。謝罪する・反省の意思があることを見せておくことで、その後の検察や裁判官の裁量・判断に影響してきます。
暴力事件で被害者の方と示談交渉を行う場合には、まずは一度弁護士に相談されることをおすすめいたします。
4、まとめ
タクシー乗車時の暴行事件では、暴行が起こった現場で警察を呼ばずに被害者の方が後から警察に被害届を出すケースも少なくありません。タクシー運転手への暴行は被告人側が泥酔状態の時に起こってしまうことも多いため、後日逮捕されても身に覚えがないという場合もあります。自分の記憶があいまいでも、レコーダーの音声や映像などはっきりとした証拠がある場合には、嘘をつかずに罪をしっかりと認めた上で対応していくことが必要になってきます。
近年は乗客からタクシー運転手へ行われる暴行・傷害事件が多く報道されることもあり、事態を重く見たタクシー会社が刑事告訴の手続きを行い、示談交渉に中々応じないというケースも考えられます。
もちろん、人に対して暴力は振るうことは絶対にやってはいけないことですが、万が一相手に暴力・障害を加えてしまい逮捕されてしまったら、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスまでご相談ください。担当の弁護士がお客様のお話をしっかりとお伺いしたうえで、解決に向けて迅速に対応いたします。
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