死亡事故につながる「一気飲み」を強要したら刑事・民事責任は問われるか?
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令和元年、福岡市の歓楽街・中州の飲食店で、一気飲みによる20代従業員女性の死亡事故が起こりました。女性は接客中に一気飲みをするようあおられ、体調が悪くなっていましたが、このとき店の経営者らは、救護措置を取らなかったとして、書類送検されたと報道されています。
このように一気飲みによる急性アルコール中毒で死亡事故が起きるというケースは少なくありません。実際、一気飲みを強要して相手を死亡させてしまった場合、また、その場で一気飲みをあおるような行為や適切に介抱しなかったことで死亡事故につながってしまった場合、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。
今回は、一気飲みの強要で死亡事故が起きてしまった際の刑事・民事責任について、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、一気飲みを強要したときに問われる可能性のある罪は?
一気飲みの強要は厳しく罰せられ、さまざまな罪に問われる可能性があります。どのような罪に問われる可能性があるのか解説していきます。
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(1)強要罪
お酒を飲みたくないという相手に対して、無理やり強要した場合、強要罪が成立する可能性があるでしょう。強要罪は刑法第223条において、「生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する」と規定されています。
たとえば、殴るや蹴るなどの暴行、「会社をクビにするぞ」などの脅迫、「土下座しろ」「一気飲みをしろ」など義務のないことを行わせる行為は強要罪として問われる可能性があります。
強要罪には罰金刑がなく、懲役による刑罰のみで「3年以下の懲役」です。執行猶予がつく可能性もありますが、そもそも懲役刑しかないということは重い罪であるといえます。
また、強要罪の公訴時効は、3年です。被害者はその期間内であれば告訴や告発ができるため、すぐに逮捕されなくても、後日逮捕される可能性もあるでしょう。 -
(2)傷害罪
飲み会中に一気飲みを強要し、相手が病院に運ばれるほどの、急性アルコール中毒にさせてしまった場合、傷害罪が成立する可能性が高いでしょう。刑法第204条には、「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する」と規定されています。
一気飲みを強要する際、暴行や脅迫などの手段を利用していなくても、相手の身体が急性アルコール中毒になるほど多量の飲酒をさせるなどの加害行為がある以上、傷害罪に該当する可能性があるのです。 -
(3)傷害致死罪、過失致死罪
強要された一気飲みにより、相手が急性アルコール中毒で死亡してしまった場合は、傷害致死罪または過失致死罪が成立する可能性があります。この傷害致死罪と過失致死罪の違いは、故意に人を死亡させたかどうかという点にあります。
傷害致死罪は、故意に人に暴力などを振るって負傷させ、その結果死亡させてしまうことで成立する犯罪です。これに対して、過失致死罪は、死亡させるつもりもケガなど負傷させるつもりもなかったが、過失により人を死亡させてしまった場合に成立します。なお、はじめから故意に死亡させる意思がなかった場合でも、他人の身体に対して傷害を与え、その結果死亡してしまった場合、傷害致死罪が成立する可能性もあります。
傷害致死罪は刑法第205条において、「身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する」と規定されています。刑期は、最低でも3年で、上限は20年(刑法第12条第1項)の懲役となります。傷害罪では、罰金刑もありますが、傷害致死罪にはありません。傷害致死罪は、被害者が死亡しているため、傷害罪よりも重い罪が定められているのです。
また、過失致死罪は刑法第210条により「過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する」と規定されています。 -
(4)傷害現場助勢罪
相手に直接一気飲みを強要していなくても、その場をはやし立てる、飲酒をあおるなどの行為をした場合、傷害現場助勢罪が成立する可能性があります。
刑法第206条では、「前二条の犯罪が行われるに当たり、現場において勢いを助けた者は、自ら人を傷害しなくても、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料に処する」と規定されています。
そのため、一気飲みの現場でありがちな「一気、一気」などの掛け声も、罪に問われる可能性があるのです。 -
(5)保護責任者遺棄罪・保護責任者遺棄致死傷罪
一気飲みをさせた相手が、泥酔して意識がもうろうとしているにもかかわらず、救急車を呼ばない、介抱しないなど放置した場合、保護責任者遺棄罪が成立する可能性があるでしょう。
保護責任者遺棄罪は、刑法第218条において、「老年者、幼年者、身体障害者または病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、またはその生存に必要な保護をしなかったときは、3か月以上5年以下の懲役に処する」と規定されています。
そして、一気飲みをさせた相手を放置した結果、相手が死傷してしまった場合、刑法第219条に規定されている保護責任者遺棄致死傷罪が成立する可能性があります。保護責任者遺棄致死傷罪は、前に述べた保護責任者遺棄罪を犯した結果、傷害を負わせ、または、死亡させた場合に成立する犯罪です。
保護責任者遺棄致死傷罪の刑罰は、「傷害の罪と比較して、重い刑により処断する」とされています。
つまり、保護責任者遺棄致傷罪の場合、保護責任者遺棄罪の3か月以上5年以下の懲役と、傷害罪の15年以下の懲役または50万円以下の罰金、を比較して重いほうが科されます。したがって、刑罰は3か月以上15年以下の懲役となるでしょう。
また、保護責任者遺棄致死罪の場合は、保護責任者遺棄罪の3か月以上5年以下の懲役と、傷害致死罪の3年以上20年以下の懲役、を比較して重いほうが科されます。したがって、3年以上20年以下の懲役となります。
2、損害賠償請求される可能性は?
アルコールの一気飲みを強要して相手が死傷してしまうと刑事責任を問われて刑罰が科される可能性がありますが、それだけではなく、民事責任が問われて、被害者から損害賠償を請求される可能性もあるでしょう。
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(1)アルコールハラスメントの法律規制
飲酒の強要、アルコールの一気飲みを強要するなど飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為をアルコールハラスメント(以下、アルハラ)といいます。
アルハラは、被害者を急性アルコール中毒に陥らせる可能性のある悪質な行為であるものの、アルハラ行為そのものを規制する法律は存在しません。
しかし、無理やり飲酒をさせる、相手が急性アルコール中毒になってしまう、また急性アルコール中毒によって死亡するなど、アルハラ行為による被害者が出た場合には、強要罪や傷害致死罪などの犯罪行為として罪に問われるでしょう。 -
(2)飲酒に関係するほかの法律はある?
前段のとおり、アルハラ行為そのものを規制する法律はありませんが、飲酒に関係するほかの法律は存在します。
昭和36年に制定された、酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律の第2条には、「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない」と記されています。
ほかにも、平成25年12月に成立したアルコール健康障害対策基本法には、アルコール対策の基本理念や、国や自治体などが果たすべき責任に記されています。具体的な法的規制については明記されていないものの、多量の飲酒は心身の健康障害の原因になる可能性があるため、配慮しなければならないとされています。 -
(3)アルハラの加害者への損害賠償請求
もし、アルハラの加害者となってしまった場合、損害賠償請求などの法的責務はどのように問われるのでしょうか。平成11年に起きた一気飲みを強要したのち放置された大学生が死亡した事件について、加害者に対して行われた損害賠償請求の裁判例を紹介します。
熊本地方裁判所で行われた一審では、「死因は急性アルコール中毒ではない可能性がある」として、損害賠償請求は認められませんでした。しかし、二審では「死因については断定できないものの、大量に摂取されたアルコールが原因であることは否定できない」として、飲酒との因果関係を認めました。そのうえで、飲み会の場にいた被害者の教授や上級生には、飲酒による事故が発生することのないように配慮する安全配慮義務があり、それに反したとして、飲み会の場にいた被害者の教授や上級生に対し、合計1314万円余りの損害賠償責任があるとの判決を言い渡しました(福岡高等裁判所/平成18年11月14日判決)。この判決に対し、教授や上級生らは最高裁判所へ上告しましたが、平成19年11月8日、最高裁判所はこの上告を棄却しています。
このケースのように、一気飲みの強要は民事責任が問われ、損害賠償請求を起こされる可能性があります。また、死亡事故ではなくても、相手が急性アルコール中毒による治療が必要となった場合の治療費や慰謝料などを請求される場合もあるでしょう。
3、刑事・民事責任を問われそうな場合、弁護士に依頼するべきか?
結論からいえば、加害者として刑事・民事責任を問われそうな状況なら、早めに弁護士に依頼することを検討してください。
弁護士に依頼することには、次のようなメリットがあります。
- 示談交渉を迅速に進めることができる
- 勾留の阻止、保釈請求ができる
- 不起訴や執行猶予、刑の減軽となる可能性がある
弁護士に依頼することで、被害者との示談交渉を迅速に進めることができるでしょう。示談を成立させるには、被害者と話し合いが必要です。しかし、加害者が直接被害者と示談交渉をすることは簡単ではなく、無理に、直接の示談交渉を持ちかけようとすると、かえって状況が悪化してしまう可能性もあるので、弁護士に依頼することがおすすめです。
さらに、加害者と被害者の間に弁護士が入ることで、謝罪する姿勢や加害者が言いづらい金銭的な交渉を進めることができます。
また、弁護士による適切な弁護活動を受けることで、勾留阻止や保釈請求、不起訴、量刑を軽減できるなどの可能性があるでしょう。勾留阻止や保釈請求によって、学校や仕事など日常生活への影響を最小限にできる可能性があり、また、不起訴処分となれば前科はつきません。
不起訴や刑の減軽には、主張を裏付ける証拠などが必要ですが、弁護士に依頼することで弁護士は加害者の話を聞き、証拠を探し、裁判所に不起訴や減軽を求める活動をしてくれるのです。
このように被害者との交渉や裁判所への請求などは、法的な知識がなければ適切に進めることは難しいので、弁護士による弁護活動のもと、正しい対応が必要になります。また、弁護士なら、過去の判例などからどのような対策をすべきか的確なアドバイスを行うことも可能です。
4、まとめ
今回は、飲み会で一気飲みを強要してしまった場合、刑事や民事責任が問われるのかについて解説しました。被害者から刑事・民事責任を問われそうな状況にあるのであれば、今すぐ弁護士に相談したほうがよいでしょう。飲酒によるトラブルの解決経験が豊富な弁護士に依頼することをおすすめします。
相談先をお探しなら、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスまでご連絡ください。できるだけ早く被害者側と交渉するためにも、早急に対策を練ることが大切です。
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