運送業トラック運転手の残業時間の計算方法|まずは時給換算を!
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令和5年10月1日より、福岡県の最低賃金は1時間941円に引上げられました。ただし、一部の製造業や自動車小売業、百貨店やスーパーなど特定の事業では、別途定められている特定最低賃金が適用されることとなります。
トラック運転手をはじめとした運送業のドライバーは、一般的に長時間労働を強いられがちです。その反面、ドライバーに対しては残業代が正しく支払われていないことが多いため、結果、労働時間で時給換算すると最低賃金に満たないような状態になっているケースがあるようです。
まずは、未払い残業代が発生していないかをチェックすることをおすすめします。労働基準法の規定に従い、未払い残業代を正確に計算したい場合には、弁護士にご相談ください。本コラムでは、運送業のドライバーに関する労働時間や残業代の考え方について、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、運送業の労働時間・賃金などの傾向は?
トラック運送業のドライバーは、労働時間が比較的長い一方で、賃金を低く抑えられてしまう傾向にあります。
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(1)運送業の労働時間は比較的長い|人手不足も深刻
国土交通省の公表資料によると、令和3年における全産業の平均年間労働時間は2112時間であったのに対して、大型トラックドライバーは2544時間、中小型トラックドライバーは2484時間でした。
このデータからは、トラックドライバーの労働時間は、全職業平均よりも約20%も長いことがわかります。
トラックドライバーの労働時間が長くなりやすい原因としては、有効求人倍率も他業種と比べるとトラック運送事業が約2倍高いことから、人手不足が大きな要素のひとつであると考えられます。トラックドライバーの担い手が少ない分、すでにトラックドライバーとして働いている方に多くの業務が集中し、結果的に労働時間が長くなっている可能性があるでしょう。
(参考:「第16回トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会及び第15回トラック運送業の生産性向上協議会資料 資料1」(国土交通省)) -
(2)運送業の賃金は比較的低め
労働時間が長いにもかかわらず、トラックドライバーの賃金は、他の職業に比べて低く抑えられる傾向にあります。
同公表資料によれば、令和3年における全産業の平均年間所得額は489万円であったのに対して、大型トラックドライバーは463万円、中小型トラックドライバーは431万円でした。
全産業平均よりも5%~10%も年間賃金が低いことがわかります。
労働時間が長いにもかかわらず低賃金であることの背景には、基本給が低いことに加えて、労務管理の不備により残業代の未払いが横行している事情もあると推測されます。
2、トラック運転手に関する労働時間の考え方
トラック運転手に対しては、労働時間に関して、通常の労働者とは異なるルールが適用されます(労働基準法附則第140条、改善基準告示※4条)。
※正式名称:自動車運転者の労働時間等の改善のための基準
労働基準法および改善基準告示の内容を踏まえて、トラック運転手に関する労働時間の考え方をまとめました。
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(1)運送業の運転手における労働時間の特徴
トラック運転手に関する労働時間のルールを正しく理解するためには、「労働時間」「休憩時間」「拘束時間」「休息期間」の4つの用語を理解する必要があります。
「労働時間」と「休憩時間」は、いずれも労働基準法に基づく概念です。
残業代の金額を計算する場合には、専ら「労働時間」の種類・時間数が問題となります。
① 労働時間
労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間で、賃金の対象となります。
労働時間は原則として、最長でも1日8時間・1週で40時間(法定労働時間、労働基準法32条)と決められております。ただし、36協定(同法36条)がある場合には、例外的に36協定によって上限が決まります。
② 休憩時間
労働時間の合間に設けられる、労働者が労働から完全に解放されて自由に利用できる時間です(同法34条3項)。
会社側は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与える必要があります(同法第34条第1項)。
休憩時間に対しては、賃金は発生しません。
これに対して、「拘束時間」と「休息期間」は、いずれも改善基準告示に基づく概念で、自動車の運転業務に従事するドライバーに対して特に適用されます。
ドライバーの労働時間の適正化を図るため、労働基準法上の「労働時間」および「休憩時間」に加えて、改善基準告示に基づく「拘束時間」および「休息期間」のバランスにも留意されている必要があるのです。
③ 拘束時間
労働時間、休憩時間その他の労働者が使用者に拘束されている時間です。
④ 休息期間
拘束時間以外の使用者の拘束を受けない期間です。
(参照:改善基準告示第2条1項)
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(2)運送業の運転手に関する労働時間の上限
運送業のドライバーも、通常の労働者と同様に、原則として「1日8時間・1週間40時間」が労働時間の上限です(法定労働時間。労働基準法第32条)。
ただし、労働者と使用者の間で「36協定」を締結すれば、36協定の範囲内に限り、法定労働時間を超える労働(時間外労働)および休日労働が認められます(同法第36条第1項)。
通常の労働者の場合は、36協定によって時間外労働を認める場合でも、「1か月45時間、1年360時間」が原則的な限度時間とされています(同条4項)。
また、臨時的な限度時間の延長を認める「特別条項」を設ける場合でも、以下の制限が適用されます(同条5項、6項)。
- 1年につき720時間以内(同条5項)
- 時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間未満、かつ時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」がすべて1か月当たり80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えられるのは、1年につき6か月以内(同条5項)
しかし、運送業のドライバーの場合は、36協定によって認める時間外労働の限度時間につき、以下のとおり特例が適用されます。
令和6年3月31日まで 限度時間の適用なし 令和6年4月1日以降 限度時間は原則として、1か月45時間、1年360時間(労働基準法36条4項)
特別条項に基づく臨時的な限度時間の延長については、1年につき960時間以内(労働基準法140条1項、その他の規制は適用なし)
このように、労働時間には上限が定められていますが、36協定において令和6年3月31日までは運送業のドライバーには限度時間が定められていません。
しかし、令和6年4月1日以降は、運送業においても労働時間の改善を図るために時間外労働の限度時間ルールが適用されます。そのため、使用者は限度時間を遵守しなければいけないので、労働者は限度時間を超えるような長時間労働を強いられることはなくなっていくと考えられます。 -
(3)改善基準告示による拘束時間・休息期間の規制
改善基準告示第4条では、トラック運転手の労働条件改善を目的として、「拘束時間」「休息期間」などに関する以下の規制を設けています。
- ① 拘束時間は1か月につき293時間以内(労使協定がある場合は、1年間について3516時間以内で、かつ、1年のうち6か月までは320時間まで延長可能)
- ② 1日についての拘束時間は13時間以内(延長する場合でも16時間以内で、かつ、1日についての拘束時間が15時間を超える日は、1週間につき2回以内)
- ③ 勤務終了後、継続8時間以上の休息期間を与えること
- ④ 運転時間は、2日間(始業時刻から起算して48時間)平均1日当たり9時間以内で、かつ、2週間平均で1週間当たり44時間以内
- ⑤ 連続運転時間(1回が連続10分以上で、かつ、30分以上の中断を挟まずに連続して運転する時間)は4時間以内
- ⑥ 休日労働は2週間につき1回以内で、かつ、当該休日の労働によって①ないし⑤に定める拘束時間および最大拘束時間の限度を超えないこと
なお令和6年4月1日以降、ドライバーについて時間外労働の限度時間のルールが適用されることに伴い、改善基準告示の見直しが予定されています。
拘束時間・休息期間について、上記の規制が遵守されていない可能性がある場合は1か月や1日の拘束時間、休息期間、また、連続運転時間などを確認してみるとよいでしょう。その上でルールに違反している、適切な手当が支払われていない場合には一度弁護士に相談することをおすすめします。
3、トラック運転手の残業代はどのように計算する? 手順を解説
トラック運転手の残業代は、以下の手順によって計算します。
正確な金額を計算したい場合には、弁護士にご相談ください。
■「労働問題を福岡の弁護士に相談」
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(1)1時間当たりの基礎賃金を計算する
まずは残業代計算の基準となる、「1時間当たりの基礎賃金」を計算します。
「基礎賃金」とは、給与計算期間中に支給された賃金全額から、残業代および以下の手当を除いたものです(労基法37条5項、労働基準法施行規則21条)。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに、支払われる賃金
月給制の場合、1か月の基礎賃金を月平均所定労働時間※で割って、1時間当たりの基礎賃金を求めます。
※月平均所定労働時間=(365日-1年間の休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月 (例) - 月給制
- 令和4年4月の基礎賃金額=32万円
- 月平均所定労働時間=160時間
→1時間当たりの基礎賃金=32万円÷160時間=2000円 -
(2)残業時間を種類別に集計する|証拠の確保も重要
労働基準法上、残業時間は以下の種類に分類されます(労基法37条、労基法附則138条)。
残業の種類 割増賃金率 法定内残業(所定労働時間は超えるが、法定労働時間以内の残業) 割増なし(100%) 時間外労働(法定労働時間を超える残業) 125%(大企業の場合、1か月当たり60時間を超える残業については150%※) 深夜労働(午後10時から、翌朝午前5時までの労働) 125% 休日労働(法定休日の労働) 135% 時間外労働かつ深夜労働 150%(大企業の場合、1か月当たり60時間を超える残業については175%※) 休日労働かつ深夜労働 160%
(※令和5年3月31日までは対象が大企業のみに限られていましたが、令和5年4月1日以降は全企業が対象となります。)
残業代を計算するに当たっては、上記の種類ごとに残業時間を集計することが必要です。
なお、残業をした事実については、証拠を確保することも重要です。
トラック運転手の場合、以下の証拠を利用できる可能性があります。
- デジタルタコグラフ
- 日報、週報
- 運転状況に関するドライバー作成のメモなど
残業の証拠収集については、個別の状況を踏まえて対応する必要がありますので、弁護士へのご相談がおすすめです。
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(3)割増率を適用して、各残業手当の金額を求める
集計した残業時間に対して、残業の種類に対応する割増賃金率を適用し、各残業手当の金額を求めます。
(例) - 1時間当たりの基礎賃金=2000円
- 時間外労働:30時間(うち深夜労働10時間)
- 休日労働:15時間
→時間外労働手当(深夜労働除く)=2000円×20時間×125%=5万円 →時間外労働かつ深夜労働手当=2000円×10時間×150%=3万円 →休日労働手当=2000円×15時間×135%=4万500円 -
(4)残業代の総額を計算する
各残業手当の金額を合算して、残業代の総額を計算します。
(例) - 時間外労働手当(深夜労働除く)=5万円
- 時間外労働かつ深夜労働手当=3万円
- 休日労働手当=4万500円
→残業代=5万円+3万円+4万500円=12万500円
4、トラック運転手が未払い残業代を請求できる場合の例
トラック運転手について、未払い残業代が発生する場合のよくある例としては、以下のパターンが挙げられます。
運転の合間の待機時間についても、事業者の指揮命令下にあると評価できる場合には、労働時間として賃金が発生します。
待機時間についてまったく賃金が支払われていない場合は、未払い残業代が発生している可能性が高いです。
② 歩合給制を理由に残業代が支払われていない場合
「歩合給の中に残業代が含まれている」と主張する会社が見られますが、その場合、歩合給のうちいくらが残業代であるかが判別できなければなりません(最高裁平成6年6月13日判決)。
残業代の金額を判別できないにもかかわらず、歩合給制を理由に残業代が支払われていない場合には、未払い残業代が発生している可能性があります。
上記以外にも、計算してみたら未払い残業代が発生していたというケースはよくありますので、一度弁護士までご相談ください。
ただし、残業代が請求できる権利(残業代請求権)には時効があります。この残業代請求権の時効期間は3年とされています。そのため、時効が成立すると残業代が請求できなくなるので注意が必要です。
5、まとめ
運送業ドライバーについては、通常の労働者とは異なる労働時間のルールが適用されます。
残業代の計算などに当たっても、運送業ドライバー特有の注意点がありますので、残業代請求の際には弁護士へのご相談がおすすめです。
ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスでは、トラック運転手の方に向けて、残業代請求や長時間労働などに関する法律相談を随時受け付けております。ご自身の労働条件・労働環境に疑問を持っているトラック運転手の方は、まずはお気軽にご相談ください。
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