前払式支払手段の供託金とは? 課金アプリ開発者が押さえるべきルール

2021年04月01日
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前払式支払手段の供託金とは? 課金アプリ開発者が押さえるべきルール

第三次産業がさかんな福岡市は、政令都市の中でも多くの情報通信業の事業者を有する街です。人気アニメのゲームアプリをはじめ、多種多様なアプリ開発会社が軒を連ねていることが知られている街だといえるでしょう。

アプリ開発は依然としてさかんに行われており、新規にアプリ開発事業へ参入しようとする事業者の方もいらっしゃるかと思います。しかし、アプリ内課金を導入する場合、アプリ内で使用することができる通貨は「前払式支払手段」として法規制の対象となっていることに注意しなければなりません。

本コラムでは、前払式支払手段の概要や供託義務などについて、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。

1、前払式支払手段とは?

まずは、前払式支払手段とはどういうものか、またどのような法律によって規制されているのかという点について解説します。

  1. (1)前払式支払手段の定義

    前払式支払手段とは、簡単にいえばプリペイド式(前払い)の決済手段のことです

    前払式支払手段は、資金決済法(正式名称:資金決済に関する法律)によって規制されています。資金決済法上は、以下の4つの事項をすべて満たすものが前払式支払手段に該当するとされています(資金決済法第3条第1項)。

    1. ①金額または物品・サービスの数量が、証票・電子機器などに記載され、または電磁的な方法で記録されていること。
    2. ②当該金額または物品・サービスの数量に応じた対価が支払われていること。
    3. ③金額または物品・サービスの数量が記載・記録された証票や符号(アプリ内通貨などを含みます。)などが発行されること。
    4. ④当該証票・符号などが物品の購入やサービスの提供を受ける際に使用できること。


    たとえばアプリ内で課金をすることによってアプリ内通貨等を購入し、それを使用するといわゆる「ガチャ」を引くことができるという場合、アプリ内通貨等が「前払式支払手段」に該当します

  2. (2)「自家型」と「第三者型」の2種類がある

    前払式支払手段には、「自家型」と「第三者型」の2種類があります。

    自家型前払式支払手段とは、発行者が提供する物品やサービスの購入などを行う場合にのみ使用できる前払式支払手段をいいます(資金決済法第3条第4項)。たとえばアプリ内でしか使用できない通貨などは、自家型前払式支払手段に該当します

    自家型前払式支払手段の発行者(自家型発行者)は、基準日未使用残高(後述します)が初めて1000万円を超えた段階で、内閣総理大臣に対する届出書を提出しなければなりません(資金決済法第5条第1項)。

    一方、第三者型前払式支払手段とは、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段すべてを意味します(資金決済法第3条第5項)。つまり、第三者型前払式支払手段は、発行者以外から物品やサービスを購入する際にも使用することができます。代表例としては、百貨店共通の商品券や、交通系ICカードのチャージなどが挙げられます

    第三者型前払式支払手段の発行者(第三者型発行者)は、内閣総理大臣の登録を受ける必要があり、自家型の場合よりも厳しい手続きが要求されています(資金決済法第7条)。

  3. (3)発行から6か月以内に有効期限が切れるものは資金決済法の規制対象外

    ただし、資金決済法の規制は、発行から6か月以内に有効期限が切れる前払式支払手段に対しては適用しないものとされています(資金決済法第4条第2号、同法施行令第4条第2項)。

2、前払式支払手段における「発行保証金」(供託金)とは?

前払式支払手段の発行者に対しては、一定の場合に発行保証金(供託金)の供託義務が課されています。供託義務に違反して供託を行わなかった場合、6月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科される可能性があります(資金決済法112条3号)。

  1. (1)未使用残高を保全するための制度

    発行保証金(供託金)の供託義務は、すでに払い込まれた前払式支払手段の未使用残高を保全することを目的として、供託所にて払込金の一部を保管しておく制度です。
    仮に前払式支払手段の発行者が、払込金を使い込んで倒産したとしても、未使用残高を持っている利用者に対しては発行保証金(供託金)から補填が行われることになります。

  2. (2)発行保証金(供託金)を納めなければならない場合とは?

    前払式支払手段の発行者が発行保証金(供託金)を供託しなければならないのは、基準日未使用残高が1000万円を超える場合です(資金決済法第14条第1項)。

    基準日未使用残高とは、基準日(毎年3月31日および9月30日)までに発行したすべての前払式支払手段の、当該基準日における未使用残高をいいます(資金決済法第3条第2項)。

    つまり、毎年3月末と9月末の時点で未使用残高を確認して、それが1000万円を超えていれば、発行保証金(供託金)の供託義務が発生します。

  3. (3)発行保証金(供託金)の金額は?

    供託が必要となる発行保証金(供託金)の金額は、基準日未使用残高の2分の1以上とされています(資金決済法第14条第1項)。

    たとえば2020年9月30日の時点で未使用残高が1500万円分ある場合は、750万円以上の発行保証金(供託金)を供託する必要があります。

  4. (4)発行保証金(供託金)を納めるタイミングは?

    発行保証金(供託金)は、基準日未使用残高が1000万円を超えることとなった基準日の翌日から2か月以内に供託しなければなりません(資金決済法第14条第1項、前払式支払手段に関する内閣府令第24条第1項)。

    たとえば2020年9月30日の時点で未使用残高が1500万円となった場合には、同年11月30日までに750万円に達するまで発行保証金(供託金)を供託する必要があります。

3、資金決済法上の供託義務を回避する方法は?

アプリ開発会社においては、アプリの収益が軌道に乗るまでの間は資金繰りが厳しい場合も多いかと思います。そのような中で発行保証金(供託金)の供託義務が課されてしまうと、会社の資金繰りを大きく圧迫することになりかねません。

そこで、前払式支払手段の発行者が供託義務を回避するための方法について解説します。

  1. (1)有効期限を発行から6か月以内に設定する

    前払式支払手段の有効期限が発行から6か月以内であれば、そもそも資金決済法による規制の対象外となります(資金決済法第4条第2号、同法施行令第4条第2項)。
    この場合、発行保証金(供託金)の供託義務に関する規定も適用されませんので、前払式支払手段の発行者が供託を行う義務はなくなります。

    ただし、アプリを提供するプラットフォーム(Apple Store、Google Playなど)によっては、有効期限付きの課金要素を提供しているアプリが審査に通らないというケースもあるようです。

    そのため、事前にプラットフォームの利用規約やガイドラインなどを確認しておく必要があるでしょう。

  2. (2)基準日未使用残高が1000万円を超えないようにする

    前払式支払手段の有効期限を設けられない場合には、できるだけ基準日未使用残高が1000万円を超えないように管理するほかありません。

    具体的には、無料アイテムと有料アイテムを両方持っている場合には有料アイテムが優先して消費されるように設計したり、有料アイテムの消費を促すイベントを定期的に開催したりする方法が考えられます。

    ただし、利用者が増えれば増えるほど、未使用残高が増えることは避けられません。
    そのため、上記はあくまでもサービス初期の一時的な対応にすぎないものと認識しておきましょう。

4、アプリ内課金要素を導入したい場合には弁護士に相談

資金決済法の規制への対策を万全にして、安定したアプリサービスを提供したいという場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

特に発行保証金(供託金)の供託義務に関しては、会社の資金繰りにも影響する重要なポイントです。弁護士は、資金決済法その他のスマートフォンアプリに関係する法規制についてのアドバイスが可能です。

新規に課金要素付きのアプリサービスを立ち上げたいという方や、すでに提供しているサービスが法令にのっとっているかチェックしてほしいという方は、弁護士にお気軽にご相談ください

5、まとめ

スマートフォンアプリに課金要素を導入する場合、資金決済法の規制を十分に踏まえた上でシステムを設計する必要があります。特に発行保証金の供託義務は、サービス立ち上げ当初でキャッシュが不足しがちな事業者の方にとって重い負担となってしまうことがあります。場合によっては資金がショートしてしまい、アプリ開発や組織拡大などに投下すべき資金を確保できないということにもなりかねません。

そのため、アプリ内課金を導入する場合には、法的な観点からの事前検討が不可欠です。アプリ内課金に関する疑問や不安を抱いていらっしゃるアプリ開発会社の方は、ぜひお気軽にベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士にご相談ください。適切なアドバイスで、万が一に備えた対応が可能となります。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています