飲食店での食事が原因で食中毒に! 慰謝料はもらえる? 請求方法とは
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福岡市が公表する食中毒発生状況によると令和2年の1年間に福岡県内で発生した食中毒は22件、患者数は145人にも上りました。ひとつの飲食店や施設から50人を超える患者が出ている事例もあります。梅雨から夏にかけてはカンピロバクターウイルスによる食中毒、また冬期はノロウイルスによる食中毒が発生しており1年を通じて油断ができません。
では、飲食店での飲食によって食中毒が生じた場合、その慰謝料や休業の補償を請求することはできるのでしょうか。
今回は福岡オフィスの弁護士が、食中毒による損害賠償請求について解説します。
1、食中毒による慰謝料請求
結論を先に述べると、食中毒の原因が飲食店や食品メーカーの過失によるものである場合、食中毒により損害が生じているときには、飲食店や食品メーカーに対して損害賠償を求めることが考えられます。損害としては、以下の内容について賠償を求めることが考えられます。
- 精神的苦痛に対する賠償(慰謝料)
- 治療費
- 通院交通費
- 休業損害(食中毒を原因とする休業)
- 後遺障害が認められる場合は、逸失利益
また、飲食店や食品メーカーに過失がなかった場合でもPL法(製造物責任法)に基づく損害賠償を求めることが考えられます。
2、PL法(製造物責任法)とは
飲食店での飲食が原因で発生した食中毒について、損害賠償を求める際に知っておくべきPL法について解説します。
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(1)民法上の賠償義務が認められるためには「過失」や「故意」という主観的要件が求められる
民法709条では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定されています。「過失」とは「うっかり」のことで、「故意」とは「わざと」のことというイメージを持っていただいて構いません。飲食店が調理の過程でウイルスや細菌を混入することが食中毒の原因となり、この場合、飲食店には「過失」があると判断されて損害賠償請求が認められる可能性があります。
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(2)PL法は賠償義務が認められるために「過失」が求められていない法律
民法上では、加害者に損害賠償を請求する際には、加害者の「故意」「過失」といった主観的要件が求められています。他方で、PL法においては、製造者に損害賠償を請求する際には、こういった主観的要件が求められていません。
たとえば、訴訟において、民法に基づき損害賠償請求をしていく場合には、民法上求められている要件についての主張立証が求められます。もっとも、「故意」や「過失」といった主観的要件については、その立証が困難なことがあります。立証ができない場合には、裁判所は「故意」や「過失」について認定してくれません。その結果、損害賠償請求が認められないという結果となり、食中毒になった被害者が救済されないことになります。
他方で、PL法では、「製造物」の「欠陥」を原因として人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合には、「製造業者等」に賠償義務を負わせることにしたものです(同法1条)。「製造物」というと、家電やおもちゃなどを想像します。PL法における「製造物」とは、「製造又は加工された動産」(同法2条1項)とされていますので、食べ物も含まれると解釈されています。
したがって、飲食店に過失はないが、食材に欠陥があった場合に生じた食中毒の場合には、PL法に基づいて損害賠償を求めることが考えられます。請求する相手となる「製造業者等」とは、「当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者」(PL法2条3項1号)などと定義されており(PL法2条3項)、飲食店だけでなく、食品を納入したメーカーも含まれることが考えられます。
3、飲食店と損害賠償について交渉するときに知っておくべきこと
食中毒の被害に遭い、飲食店側に損害賠償を求める場合の手順や知っておくべきことを解説します。
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(1)医師の診察を受ける
まず重要なのは、医師による診察を受けて、食中毒の症状が生じていると診断してもらうことです。
損害賠償請求においては、損害が発生していることを立証するのは請求側です。立証においては客観的資料が重要となり、食中毒においては医師という専門家の診断という客観的判断があることが、損害が発生していると認められることに有益です。「おなかが痛い」という自己申告だけでは、損害が生じているとみなされない可能性が残るので、食中毒の症状であると診断を受けた上で食中毒の原因菌やウイルスを特定してもらうなど医療機関で検査を受けることも効果的です。 -
(2)保健所の調査に協力をする
通常、食中毒が疑われる患者を診察した医療機関は、直ちに保健所に届け出ることが食品衛生法第63条1項によって義務づけられています。したがって、医師の診察を受けた時点で、医師が食中毒であるとの疑いを持った場合には、保健所に通知されると考えて問題はありません。心配であれば、医師に保健所に通知するかどうかを確認しておきましょう。
保健所は、食中毒の原因や経緯などの実態を把握するために、被害者に対して症状や食べたもの、食事後の行動などを調査することがあります。食中毒の被害の実態を明らかにする上で重要な調査ですので、依頼があれば応じましょう。 -
(3)損害賠償を求めるための証拠を確保しておく
飲食店側に、治療費や交通費、休業損害などを請求する場合は、その根拠となる領収書等を保管しておく必要があります。治療費や交通費であれば、領収書が適当です。休業損害は、会社による休業証明や、賃金・収入がわかる書類などを用意する必要があります。医師による安静指示があり、休んでいる場合はそれを証明する診断書等も必要です。
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(4)飲食店側に損害賠償を求める
まずは、被害が発生した後に、できる限り早い時期に、飲食店側に損害賠償請求を行う旨を通知します。食中毒によって健康を害したことを知らせることが遅くなるほど、「言いがかりである」などの言い逃れをされてしまうおそれがあります。
食中毒になった直後に通知できなくても、医師による診断を受けていれば問題ありませんが、できるだけ早く飲食店側との交渉に着手しましょう。 -
(5)飲食店側が賠償に応じない場合は保健所の判断を待つ
飲食店側が自身の責任を否定する場合や、損害賠償に応じない場合は、保健所の判断を待ちます。保健所が、食中毒の原因が飲食店にあると判断すれば、飲食店側の責任は明確となりますので、交渉を進めやすくなります。
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(6)示談は示談書を取り交わしておく
飲食店側との間で示談が成立した場合は、示談書を取り交わします。口頭でも示談は成立しますが、示談後のトラブルを回避するために示談書を取り交わしておきましょう。
「慰謝料が支払われない」、「慰謝料の金額が違う」などのトラブルを回避できる可能性が高まります。
4、弁護士に相談をするメリット
飲食店での飲食が原因で食中毒が生じた場合は、生じた損害に対して損害賠償を求めることが考えられます。飲食店と交渉をする場合は、弁護士への依頼が得策です。弁護士に依頼するメリットは以下のとおりです。
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(1)法的根拠にのっとって飲食店と交渉が可能
弁護士は法的根拠にのっとって、損害賠償請求についての交渉を行います。食中毒であれば、民法やPL法に基づいて交渉をすることになります。弁護士は、先方の不法行為や製造物の欠陥を明確化して、交渉に臨みますので、先方は言い逃れしにくくなります。
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(2)過去の事例を踏まえて賠償金を請求できる
弁護士は、食中毒によって生じた損害について、裁判例など過去の事例を踏まえて賠償金を算定できます。慰謝料は症状に応じて金額を算定しますし、休業損害も被害を受けた方の収入に応じた金額を算定します。
飲食店による減額交渉がなされた場合も、毅然として対応します。 -
(3)示談成立後のトラブルのリスクを軽減できる
弁護士に交渉を依頼して示談が成立した場合、弁護士は法的に有効かつ今後のトラブルのリスクを考慮して示談書を作成します。たとえば、損害賠償が履行されない場合の対策を講じた示談書を作成しておけば、慰謝料等が支払われなかったときに速やかに法的措置に移行可能です。
5、食中毒で損害賠償請求を検討している場合に注意すべきこと
食中毒による損害賠償請求を行う場合、以下の点に注意しておく必要があります。
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(1)損害賠償請求権には消滅時効がある
消滅時効とは、一定期間が経過することで請求権等の権利が消滅してしまうことです。この消滅時効が成立してしまうと、請求権そのものを失うことになってしまいます。
食中毒で損害賠償請求をする際に関わってくる可能性のある消滅時効について、民法およびPL法では、以下のとおり定められています。民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
- 1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知ったときから3年間行使しないとき。
- 2 不法行為のときから20年間行使しないとき。
つまり、民法上では、食中毒になった上でその原因が飲食店であるとわかってから3年間、あるいは食中毒になってから20年間という期間内で飲食店に損害賠償請求をしないと、請求権がなくなってしまうことになります。
PL法5条
第1項 第3条(製造物責任について定めた条文)に規定する損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
- 1 被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知ったときから3年間行使しないとき。
- 2 その製造業者等が当該製造物を引き渡したときから10年を経過したとき。
第2項 人の生命又は身体を侵害した場合における損害賠償の請求権の消滅時効についての前項第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。
第3項 第1項第2号の期間は、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じたときから起算する。
PL法では、食中毒になった上でその原因が飲食店であるとわかってから5年間、あるいは食中毒の症状が出てから10年間という期間内で飲食店に損害賠償請求をしないと、請求権がなくなってしまうことになります。
これらの期間を過ぎると、損害賠償請求権自体を失うので、やはり飲食店側への請求は、食中毒であることやその原因が飲食店での飲食であることが発覚したらできる限り早く飲食店側に請求しましょう。 -
(2)症状が軽微な場合は賠償請求が認められない可能性がある
食中毒の症状が軽微で、当日中に治癒したなどのケースでは、治療費の支払いのみで慰謝料の請求が認められない可能性があります。また、医師による安静の指示がなく、症状がないのに会社を休んでいるような場合は、休業損害の請求が認められない可能性が高いため、注意が必要です。
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(3)食中毒が確定する前のSNS等への書き込み
飲食店による食中毒と断定される前に、SNS等に店名を明示して、「○○ラーメンは食中毒を出した不衛生な店だ」等の書き込みを行うと、名誉毀損(きそん)罪などの刑法上の罪に該当するおそれがあり、慰謝料を請求されるリスクすらあります。食中毒が真実であれば、罪に問われない可能性もありますが、一定のリスクがありますので、インターネットへの書き込みやビラの作成などは控えたほうがよいでしょう。
6、まとめ
飲食店での飲食が原因で食中毒が発生した場合、飲食店や食品メーカーに慰謝料や休業損害、治療費等を請求できる可能性があります。ご自身での交渉も可能ですが、飲食店側が支払いを拒否することもありますし、慰謝料等の金額が妥当なのか不安を抱かれることもあるでしょうから、まずは弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスでは食中毒の被害に遭われ、損害賠償請求を検討している方へ、適切な対応についてのアドバイスが可能です。できれば早期のご相談をおすすめしますが、飲食店との交渉に行き詰まったときにもお気軽にご連絡ください。弁護士をはじめとするスタッフ一同が親身になってお話を伺い、全力で対応します。
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