死後離婚を考える妻が急増? 死後離婚を考えている人が知っておきたいこと
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近年、「死後離婚」を希望する人が増え続けているといわれています。「死後に離婚」することなど可能なのか? と疑問を感じる方もおられるでしょう。
そもそも死後離婚とはどのようなことなのか、死後離婚の効果はどのようなものであり、どのような方法で進めれば良いのか、メリットとデメリットについても理解しておきましょう。
今回は、死後離婚を考えたときに知っておきたい知識について、弁護士が解説します。
1、死後離婚とは?
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(1)死後離婚は、「離婚」ではない
そもそも、死後離婚とはどのようなことなのでしょうか?言葉の意味をそのまま捉えると、「配偶者の死後に配偶者と離婚すること」のように思えます。
しかし、この理解は不正確です。
法律的な「離婚」は、夫や妻が生きている間にしかできません。
配偶者のどちらか一方が死亡すると、当然に婚姻関係は終了する(民法728条)ので、「死亡届」を提出した後に「離婚届」を出すことはできません。死後離婚とは、配偶者の死後に、配偶者の親族である「姻族」との関係を断ち切る手続きです。
結婚をすると、夫や妻の両親、兄弟姉妹などとの間で「姻族関係」ができて、姻族関係は配偶者の死後にも継続します。
しかし、姻族と折り合いが悪い場合などには、配偶者の死後にまで関係を継続したくないというケースも多いです。
そのような場合、「姻族関係終了届」という書類を役所に提出することにより、義理の両親や義理の兄弟姉妹との縁を切ることができます。
姻族関係終了届を提出する際、姻族による了承は不要なので、提出する人の一方的な意思によって姻族関係を終わらせることが可能で、姻族に通知する必要もありません。また、姻族関係終了届を提出したとしても、元の夫や妻との「戸籍」が分けられるわけではありません。単に戸籍上に、姻族関係が終了した事実が記載されるのみです。
このように、死後離婚は「離婚」とは言っても、実際の離婚とは全く異なる制度です。
一方的に姻族との関係を断ち切ることを、マスコミなどがわかりやすく「死後離婚」と言っているだけです。
法律用語ではなく、最近作られた造語であると考えると良いでしょう。 -
(2)死後離婚を希望する妻が増加している
法務省の統計によると「姻族関係終了届」の届出件数は10年前と比べて2.1倍まで伸びていることが明らかになっています。
届出をする人の多くは女性であるということから、「夫の死後であっても、夫の親戚とのしがらみを断ち切りたい」と希望する妻が増えている現実をうかがい知ることができます。
2、なぜ死後離婚をする人が増えているのか?
次に、なぜ死後離婚を希望する人たちが増えているのか、みてみましょう。
主な死後離婚の理由は、以下のようなものです。
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(1)夫の親族とのしがらみを断ちたい
まずは姻族とのしがらみを断ちたいという方がとても多いです。
もともと、夫の両親や兄弟姉妹との親族関係がうまくいっていなかった人は、夫の死後、夫の親族との関わりを望まないものです。しかし、姻族関係が続いている限り、法事などのさまざまな機会に集まったり挨拶をしたりしなければなりません。
また、夫の両親から「嫁なら、~をしてほしい」「仕事をせずに家のことをしてほしい」などさまざまなことを期待されたり行動を制限されたりしてストレスを溜めてしまう方もおられます。そのようなとき、姻族関係終了届を提出したら、縁が切れるので一切の関わり合いを断つことができますし、もはやあれこれと口出しされることもなくなります。
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(2)義両親の介護、扶養をしたくない
姻族関係が続いている限り、夫の両親に何かあったときには嫁である自分が介護しなければならない可能性があります。また、夫の親族が経済的に困窮したとき、扶養を求められるかもしれません。
そもそも夫の親族との関係が良好ではない場合、このような介護や扶養義務は妻にとって苦痛でしかありません。
姻族関係終了届を提出すると、姻族関係が切れて義務がなくなるので、介護を避けるために死後離婚する女性も多いです。 -
(3)夫や夫の親と同じ墓に入りたくない
妻は妊娠期間を通してだんだん母親としての自覚が芽生え、産後は毎日の育児を通して母親らしくなっていきます。
死後離婚を希望する女性の中には「夫と同じお墓に入りたくない」と希望される方もたくさんおられます。
そもそも夫との関係がうまくいっていなかったので「夫と同じ」であることが嫌な方もおられますし、夫が長男の場合には、夫の両親や先祖と同じ墓に入らないといけないので、夫はともかくとしても、その親族の墓に入ることが耐えがたいという方もおられます。姻族関係を終了すれば、夫の実家の先祖代々の墓に入る必要性はなくなります。
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(4)離婚はできなくても、せめて死後に関係を断ちたい
死後離婚する女性は、夫の生前にも夫との関係が悪化していた方が多くおられます。
ただ、夫婦共に年をとっている場合、離婚が得策でないケースも多いです。
離婚すると、遺産相続権もなくなりますし、遺族年金も受け取れません。
高齢の女性が自分の国民年金だけで生きていくのはかなり厳しいのが一般的です。そこで、死後離婚により、実利(遺産や遺族年金など)をとりながらも、夫との関係をできうる限り断ちたいと考えるのです。
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(5)世代間ギャップ
死後離婚には「世代間ギャップ」も関係していると言われています。
年配の方は、戦前からの「家制度」の意識を強く引き継いでいることがあるからです。
家制度とは、「家」を長男が代々継承し、土地などの資産を受け継ぎ祭祀を行い、一族を統率するという考え方です。長男が家長を務める「家」に女性が嫁ぐという構図になっています。このような「家制度」は、戦後に廃止されましたが、年配の方は、今でも「嫁は家に入る」という意識を持っていることが多く、「嫁」に対し、義父や義母との同居や介護、家業の手伝い、親戚付き合いなどを当然のように押しつけます。
しかし、最近の若い人は、夫婦と子どもだけの家庭である「核家族」が一般的となっている世代であり、「家」や「嫁」「家に入る」などの意識も持っていません。
女性の社会進出も進み、家事育児と仕事を両立させている妻も多いですし、男性が主夫をしているパターンもあります。こうした世代間ギャップにより、妻と義両親の意見が合わず、夫の死亡後には妻が死後離婚に踏み切ります。
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(6)遺産や遺族年金を受け取れる
死後離婚が多い理由として、遺産相続権や遺族年金がなくならないという点が大きいです。
死後離婚をしても、配偶者との関係が切れるわけではありませんし、戸籍も分かれません。
法的にも「配偶者」であるという地位がなくならないので、遺産相続権はそのまま認められますし、遺族年金を受け取ることも可能です。
もしもこうした権利がなくなるのであれば死後離婚をやめておこう、という方であっても、権利がなくならないのなら、面倒な姻族関係を断ち切ってしまおう、と考えます。 -
(7)姻族関係終了届の提出は簡単
死後離婚が増えている理由として、死後離婚の方法がとても簡単であることも挙げられます。
夫の生前に離婚しようとすると、夫と話し合い(協議)をして、さまざまな離婚条件についての取り決めをして、双方が納得して署名押印し、離婚届を提出しなければなりません。合意ができなければ離婚調停や離婚訴訟が必要になる可能性もあり、泥沼の離婚トラブルとなってしまいます。
これに対し、姻族関係終了届であれば、誰の許可も同意も要らず、自分の一方的な意思で届出を出すだけで完結するので、容易です。
「死後離婚したい」と思いついたらすぐに実現できるので、「死後離婚」できることが有名になるにつれ、姻族関係終了届を提出する女性が増えています。
3、死後離婚の方法について
次に、死後離婚するためにはどのような方法をとればよいのか、手続きを説明します。
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(1)死後離婚の手続き・方法
死後離婚の手続きは、市町村役場に行き「姻族関係終了届」を作成して提出すれば完了します。
姻族関係終了届については、役所に書式があるので、直接役所の市民課や戸籍課に行って「姻族関係終了届を提出したいので、書類を下さい」と言えば、渡してもらえます。
これに、本籍地、死亡した配偶者の氏名と死亡年月日などの必要事項を記入して提出すると、役場で姻族関係終了届を受け付けてもらえます。
そして、役所の方で、戸籍内に姻族関係が終了した事実が書き込まれます。姻族関係終了届は、提出者が単独で作成することができます。
離婚届のように、相手側(夫の義両親や親族など)の署名押印が必要になることはありませんし、相手の同意も要りません。本人の意思によって提出すれば有効です。 -
(2)死後離婚は「法的な切り札」
姻族関係終了届(死後離婚)は、女性たちの「法的な最後の切り札」とも言われています。
夫が生きている頃には子どもを育てる必要などもあり我慢してきた女性たちであっても、夫の死後にまで義理の両親から縛られるのは耐えがたい、残りの人生は自分の好きに生きたい、と考えるのです。現在の50代や60代の女性たちは、夫の親世代から押しつけられる「扶養」や「介護」 に耐えきれず、「縁を切りたい」と思います。
そのようなとき「姻族関係終了届」の制度を知って、最終手段としてのカードを切ります。
4、死後離婚するメリット・デメリット
死後離婚をすると、どのようなメリットやデメリットがあるのか、みておきましょう。
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(1)死後離婚のメリット
まずは、メリットを見ていきましょう。
・ 相続権・遺族年金が守られる
1つは、夫の遺産相続権や遺族年金の受給権が失われないことです。
夫の生前に離婚をすると、遺産相続権がなくなりますし、遺族年金ももらえなくなり、自分一人の年金で生活するしかなくなります。
これに対し、夫が亡くなるまで我慢してその後死後離婚すれば配偶者として大きな遺産を相続できますし、遺族年金も受給できて生活が安定します。・ 介護や扶養の義務がなくなる
夫の義両親の介護や扶養の義務がなくなることも、大きなメリットと言えるでしょう。
たとえば将来夫の両親が経済的に困窮したとき、姻族関係があれば扶養を求められる可能性もありますし、夫の両親が生活保護の認定を受けようとしたとき、役所から援助を求められるケースもあります。
姻族関係を終了させていたら、そのような心配はありません。・ 夫の親族との関係を堂々と断ち切れる
姻族関係が続いていると夫の親族との付き合いが続き、当然のようにさまざまなかかわりや法事の準備などの対応を押しつけられることもあるでしょう。
死後離婚によって姻族関係を終了させていたら堂々と断ることができますし、一度断ったら二度と何も言われなくなるでしょう。
・ 精神的に楽になる
死後離婚すると、精神的に非常に楽になることも見逃せません。
これまで夫が生きていたときにはさまざまなことを我慢して受け入れてきた人たちであっても、死後離婚すると、しがらみから解放されて気持ちもスッキリします。 -
(2)死後離婚のデメリット
死後離婚すると、デメリットもあります。
次に、デメリットについても見ていきましょう。・ 配偶者の葬儀や法事に出席できなくなる
夫の親族との関係は不良であっても、夫との関係は悪くなかったという方は、夫の法事には参加したいということもあるでしょう。
しかし、姻族関係終了届を提出すると、夫の法事には出席できなくなる可能性が高いです。出席しようとしても夫の親族に拒絶されるでしょうし、出席できたとしても非常に気まずくなります。・ 子どもの姓や親族関係の問題
夫との間に子どもがいると、子どもの姓や親族関係の問題も起こります。
妻が姻族関係終了届を提出しても、子どもと夫(父親)、夫の親族(祖父母や叔父叔母)などとの親戚関係にはまったく影響しません。子どもの姓は夫の血族と同じものとなっているでしょうし、祖父母が介護を要する状態になれば、子どもは祖父母の介護をしなければなりません。扶養義務も負います。
つまり、死後離婚によって自分は夫の介護や扶養義務、法事などのしがらみから解放されても、子どもの立場はこれまでと変わらないのです。自分だけが法事に参加できず、子どもだけが呼ばれて夫の親族との親戚付き合いを続けることになるので、かえって精神的にストレスになってしまう可能性もあります。
子どもには、祖父母の遺産相続権もあるので、祖父母が死亡したときには、夫の兄弟との間で遺産分割協議をしなければなりません。
こういった場合にも、姻族関係終了届を提出していると、自分としては一切口出し・関与できなくなるでしょう。子どもが未成年の場合には自分(妻)が法定代理人になるので子どもの代わりに夫の親族たちと遺産分割協議に参加することになりますが、その際大きなトラブルになる可能性も高くなります。
・ 撤回ができない
また、姻族関係終了届をいったん提出すると撤回ができないことにも注意が必要です。
離婚届であれば、いったん離婚しても後に夫と話し合いをして再度婚姻をすることに合意したらまた婚姻届を提出して夫婦関係を復活させることができますが、姻族関係終了届を提出した場合、二度と取り消しができません。
死後離婚の制度を知って、勢いで提出してしまう方も多いのですが、その場合、後日に後悔してしまう可能性もあります。
姻族関係終了届を出すのは簡単ですし、すぐに手続きができるので、急がず提出前に慎重に検討すべきです。
5、死後離婚を考える前に、生きている間にできる対策を
今回は、最近急増している死後離婚について説明をしました。
死後離婚は、離婚とは言っても配偶者との離婚とは異なり、単に配偶者との姻族関係を終了させるにすぎないものです。
もしも配偶者や配偶者の親族との関係が悪化しているのであれば、配偶者が生きているうちに、問題を解消しておくことをおすすめします。
死後離婚を期待して、苦しい結婚生活を我慢していても、人生の貴重な時間が無駄になってしまうかもしれませんし、必ずしも相手が先に亡くなるとは限りません。自分が先に死亡したら、一生を我慢したまま終えることになってしまいます。
また、男性の方は、自分の実母と妻が同居していて折り合いが悪い場合や妻と自分の親族がうまくいっていない場合などには、自分の死後に「死後離婚」のトラブルが起こらないように、妻とよく話し合って、気持ちを聞いておきましょう。
妻が死後離婚を考えているかも知れない場合、自宅などの不動産の名義人、実母の年齢や健康状態、実母と妻の関係(良好か不良か)などの事情によって、ケースに応じて遺言を作成すると良いでしょう。
妻と実母の折り合いが悪い場合、夫の死後にどちらかが家の所有権を取得すると、互いに相手を追い出そうとする可能性があるので、妻と実母との間で使用貸借契約を締結することについても決めておいた方が良いと思います。
配偶者が存命であるけれども現時点において離婚しようかどうか迷っている方は、一度ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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