遺産争いを防ぐための遺言書の作り方とは? 福岡オフィスの弁護士が解説
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家庭裁判所で行われる手続きの中で、代表的なものが遺産分割事件です。亡くなられた方が、遺言書を残さなかったばかりに、その遺族たちが遺産をめぐって争いを始めてしまうケースは多々あります。亡くなられた方にとって、これほど悲しいことはないでしょう。
しかし、正式な形式の遺言書を残しておくことで、このような悲劇は防止することができるのです。遺言書によって、遺産相続の方法をきちんと決めておき、ケンカとならないようにしておくことは、親として子どもたちや親族にできる最後の務めかもしれません。
ここでは遺言書を作成する方法をはじめとして、遺言に関する基礎知識について福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、どうして相続争いが起きるのか
相続争いというと、「一部のお金持ちだけがするものだ」とお考えになるかもしれません。しかし、いくらよく知る親兄弟であろうと、別々の世帯となっていれば、それぞれの生活環境や実際の懐事情まで、知り尽くしているわけではないでしょう。額面を聞いてしまえば人が変わってしまう……という方は少なからずいるものなのです。
あなた自身も、「土地は売らないでほしい」、「残される配偶者が済む家を残したい」、「もっとも世話になった方が多く受け取ってほしい」など、希望があるのではないでしょうか。
遺言書の話をする前に、まずは、法で定められている相続のルールを改めて確認して、争いが起きる理由などを知っておきましょう。
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(1)相続の基本は「法定相続」
民法では、相続に伴う話し合いを少しでもスムーズに進める指標として、相続人の範囲と相続できる割合を定めた「法定相続」制度を設けています。
法定相続制度で定められている主な内容
法定相続人(ほうていそうぞくにん)
相続できる権利を持つ人
常に相続:配偶者
第1順位:被相続人の子(またはその代襲相続人=孫、ひ孫)
第2順位:被相続人の直系尊属
第3順位:兄弟姉妹(またはその代襲相続人=兄弟姉妹の子のみ)
法定相続分(ほうていそうぞくぶん)
法で定められている、相続可能な遺産の割合
民法第900条にて、「法定相続人」が相続できる遺産の割合を規定。
常に相続する権利を持つ配偶者がもっとも割合が大きく、次いで、第1順位、第2順位と割合が減っていく。同一順位の者が複数存在する場合は、均等に相続することになる。
法定相続人が複数いるときは、全員が「共同相続人」と呼ばれる立場となります。
遺言書が残されていないケースでは、話し合いと「法定相続制度」に基づいて分割していくことになります。 -
(2)相続争いとなる具体的なケースとは
すべての遺産を法定相続に基づき、きれいに分割できれば、もめごとは少ないかもしれなせん。しかし、あなたが残す予定がある遺産に、土地やマンションなど不動産がある場合は、不動産を売らなければ法定相続どおりの割合に分割することが難しいこともあるでしょう。しかし、法定相続に基づき分割するために、あなたの配偶者が暮らす場所がなくなってしまうかもしれません。
また、「同居して介護してくれた長男夫婦には多く残したい」と、あなたが考えていたとしても、法定相続に基づいて分割するケースでは、そのほかの子どもたちにも均等に遺産が分けられてしまうことになります。 -
(3)遺言をしなければ被相続人の希望はかなえられない
もしかしたら、あなたが思う遺産分割の形を、すでに家族にも何度か話していて、全員が賛成してくれているかもしれません。
しかし、遺言書を残さなければ、口約束は口約束のままで終わってしまいます。もちろん、あなたの希望どおりを残された家族が全員一致で了承していればよいのですが、ひとりでも反対すれば、法定相続に基づいて分割していくことになります。あなたの希望はかなえられません。
そのうえ、共同相続人の間で、骨肉の争いが続いてしまい、家族が決定的に仲たがいしてしまう結果となるケースも少なくありません。 -
(4)相続争いを防ぐには、遺言書を残すことが必要不可欠
遺産は、もともと「被相続人(ひそうぞくにん)」と呼ばれる立場となるあなたの財産です。よって、本来、だれにどのようにどの程度、相続してもらうかについて、被相続人の意思が尊重されるべきです。
そこで民法では、被相続人が有効な遺言をしていれば、故人の意思を優先するよう定めています。つまり、遺言書があれば、「法定相続」制度を適用せずに遺産相続ができると明言しているのです。
もしあなたが、現在、自分の考えに家族が賛成してくれていると信じていたとしましょう。しかし、あなたが築いた財産は、民法で定められた形式の遺言書を残していなければ、あなたの思い通りにつかうことができません。あなたの死後、「残したい」、「持っていてほしい」方にはわたらず、湯水のように消えてしまう可能性もあるのです。
たとえ、信頼する家族であっても、本人の死後は気持ちが変わることはありえます。
家族同士の争いを避けるためにも、あらかじめ、遺言書を残しておくことは「親心」といえるでしょう。
2、遺言書の残し方
前述したとおり、本当に守ってもらいたい「遺言」は、純粋に「あなたの意思を残しておけばいい」というものではありません。民法で定められた形式の遺言書を残していなければ、せっかく作っておいても意味がないものになってしまいます。
そこで、法的効力がある「遺言書」について解説します。
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(1)遺言書の方式は、民法に定められている
民法では、第960条から第1027条を、「第7章 遺言」として、遺言書の方式や効力などを詳細に定めています。
遺言書の方式は全5種が定められています。しかし、平時に利用できる「普通方式」の遺言書は3種のみです。残りの2種は、死が目前に迫っているケースや、船で遭難中など特殊な状況下で遺言を残せる特別方式で、緊急状態から脱したときは、効力を失います。
遺言書には、主にあなたの死後、遺産などをどうしてほしいのかなどの要望を記すことができます。ただし、遺言書で法的効力を持つ事項は、「相続の対象や割合」、「財産処分について」「認知など身分について」、「遺言を遂行する責任者(遺言執行者)の指定」に限られます。たとえば「私の死後、妻を大切にいたわってほしい」などの希望を書き残すことはもちろん自由ですが、それを遺族が守ることを強制できません。
また、以下のケースでは、たとえ規定に沿って作成した遺言書でも、内容がすべて無効になることもあるため、注意が必要です。
不安な場合は、弁護士に相談し、自分が残す可能性がある遺産や、遺留分についてしっかり調べておきましょう。また、家族に「遺言書」があることをあらかじめ周知し、「発見されない」「勝手に開けられてしまう」などのトラブルが起きないよう、準備しておくことをおすすめします。 -
(2)自筆証書遺言
もっとも用いられるケースが多い「自筆証書遺言書(じひつしょうしょゆいごんしょ)」は、その名のとおり、すべて自分で手書きする遺言です。本文以外には、日付、署名、押印が必要となります。なお、他人による代筆、ワープロの印刷、点字、テープなどの録音は「自筆」ではないので認められない点に注意が必要です。
「自筆証書遺言」のメリットは、なによりも、紙とペンと印鑑があれば作成できることでしょう。もっとも手軽で、専門家に依頼せずに作成することもできるため、作成費用はかかりません。また、あなた自身がひとりで作成できるという特性上、遺言書の内容はもちろん、存在していることすら、秘密にしておくことができます。
しかし、これらのメリットは、デメリットにもつながります。
たとえば、日付や署名の書き忘れなど、「民法の定める方式」ではない方法で作成してしまったり、きちんとした内容を書けていなかったりする可能性があります。書式が規定の者でないケースや、内容的に実現できない遺言書は無効になる危険性があります。
さらには、弁護士などに依頼しない限りは、あなた自身が保管することになります。
よって、紛失、隠匿、改ざんなどの危険が否定できないという点も、問題になるでしょう。場合によっては、遺言書そのものがだれにも発見されなかったというケースもあります。
また、初めて遺言書を開封するときには、家庭裁判所の検認手続きが必須となります。
内容の改ざんなどがないことを明らかにするために定められた手続きですが、家族がそれを知らず、勝手に開封してしまうと、遺言書そのものが無効になってしまう危険性があります。 -
(3)公正証書遺言
「公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)」とは、「公証役場(こうしょうやくば)」で公証人に作成してもらう遺言書を指します。事前に打ち合わせを重ねた末、判検事など法律のプロの経歴がある者が就任する公証人が、2名以上の立会人(証人)と同席して、本人の意思を確認しながら作成・保存される遺言書です。
「公正証書遺言」を選択するメリットは、なによりも、プロが内容を詳細に確認しながら作成するので、内容と形式の不備の危険がないという点でしょう。さらに、遺言書作成後も、原本を公証役場で保管してくれるので、紛失、隠匿、改ざんの危険もありません。原本の正確さが担保されていることから、遺族が遺言書を開封する際、家庭裁判所の検認手続きが不要となる点も大きなメリットです。
公正証書遺言の作成には、残される遺産に応じたコストがかかりますし、作成時には内容の証明をしてくれる「証人」が2名必要となるため、証人に遺言内容を知られてしまうことになります。また、作成時には厳密さが求められるため、住民票、財産目録、不動産登記簿謄本(全部事項証明書)、固定資産税評価証明書などが求められます。
しかし、自分の意思をきちんと反映させた相続を実現させ、残された方達が荒追うのを防ぎたいのであれば、費用や手続の負担がかかっても。公正証書遺言を作成されるべきでしょう。
なお、「公正証書遺言」が無効となる例は、ほとんどありません。 -
(4)秘密証書遺言
「秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)」とは、「自筆証書遺言書」と「公正証書遺言書」を掛け合わせたような方式の遺言書です。つまり、内容をだれにも明かさず、遺言書を作成した事実だけを公証人に認めてもらうことができます。
ただし、遺言書の保管も自分で行うことになる点に注意が必要です。
秘密証書遺言は、作成済みの遺言書を入れた封書を公証人と証人2名に提出するだけで成立します。公証人役場では、内容を確認せず、「遺言書が入っていると申し立てがあった」という事実のみ、封紙に書き込んで証明とします。
秘密証書遺言の最大のメリットは、「内容をだれにも知らせる必要がなく、遺言書作成の事実だけ公的に証明してもらえる」という点でしょう。また、自筆証書遺言とはことなり、代筆やワープロ・パソコンを使って書いた遺言書も有効な遺言書として扱えるようになる点もメリットです。ただし、代筆者の氏名、住所は公証人に伝える必要があります。
しかし、秘密証書遺言の作成にも、所定の手続きや費用がかかりますし、公証人役場で保管されるわけでもなく、手続する際内容を確認しているわけではありません。遺言書が紛失したり、改ざんされたりする可能性は否定できません。さらに、記載内容に不備があれば、遺言書そのものが無効になる可能性もあります。また、自筆証書遺言書同様、中身の証明がなされていないため、開封時には家庭裁判所の検認手続きが必要となります。
3、まとめ
大切な家族同士によるいさかいは、なるべく避けたいものです。その原因が、自分の財産だったとしたら……。できる限り、火種は先に片づけておきたいものです。
相続人らの争いを避けたいと思われたら、まずは遺言書の作成を検討してみましょう。遺言書の方式や内容の不備に不安があれば、弁護士に依頼して作成することがおすすめします。
もし、自筆証書遺言を希望されるなら、福岡オフィスの弁護士が内容を聞き取り、法律的に正しい文案を作成します。自書していただいた後に、慎重にチェックを行って、有効な遺言書を作成できます。
また、公正証書遺言を希望されるなら、やはり弁護士が内容を法律的な文章にまとめた上、必要書類と一緒に公証人に提出します。もっとも手間と時間がかかる、公証人との打ち合わせなどは、弁護士が対応いたしますので、あなたは1回だけ担当弁護士と公証役場に出向くだけで、手間なく公正証書遺言を作成することができます。
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