教育資金贈与を相続対策で検討している方が知っておくべき注意点
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福岡市が公表する「福岡市の登録人口」によると、令和4年6月末日時点で福岡市内に存在する世帯数は83万8649世帯とのことでした。家族のことを考えるとき、自分が亡くなった後の相続対策として、相続人が負担する相続税をできる限り抑えたいとお考えの方も多くいるのではないでしょうか。
相続対策として、教育資金贈与の制度を利用する方は少なくありません。現時点では、相続税や贈与税の負担を抑えつつ、子どもや孫に対して財産を渡すことができるため、非常に有効な手段です。
ただし、令和5年3月31日に施行される法改正により、この制度の内容が変わります。このような事情もあるため、制度についてきちんと理解しておかなければ、うまく節税することはできません。
今回は、これから相続対策を検討している方に向けて、法改正前までの教育資金贈与の概要や注意点について、法改正後の内容とともに、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、教育資金贈与が相続対策になるとされている理由
教育資金贈与とは、どのような制度なのでしょうか。以下では、教育資金贈与の概要と相続対策になるとされている理由について説明します。
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(1)教育資金贈与とは
教育資金贈与とは、子どもや孫への教育資金に充てるための金銭を信託銀行などの金融機関に預けて管理してもらうことによって、非課税で財産を贈与できるという制度です。留意点としては、令和5年3月31日の法改正により、利用要件が厳しくなります。
一般的に生前贈与をする場合は、年間110万円までの贈与税の非課税枠を利用して行うことがあるでしょう。しかしこれには、長期的かつ大きなお金を一度に贈与することができないというデメリットがあります。
上記のデメリットに対して、教育資金贈与の制度を利用すると、短期的に子どもや孫などへ多額のお金を贈与することが可能です。
教育資金贈与の相続税については、法改正前と後で異なるため、以下をご参考ください。
① 法改正前までの教育資金贈与の課税
教育資金贈与の制度は、ひとりあたり最大で1500万円まで贈与税が課税されることはありません。
ただし、贈与者(財産を渡す側)が死亡した時点で贈与から3年以上経っていないと、受贈者(財産を受け取った側)の残りの教育資金が課税対象になってしまう場合があります。
なお、相続が始まる3年以内に贈与されたとしても課税対象にならないケースは、以下のとおりです。- 受贈者の年齢が23歳に満たない
- 受贈者が学校などに在学していたり、職業訓練を受けていたりする
孫やひ孫への贈与に関しては、贈与者がいつ亡くなっても相続税が加わることはありません。
② 法改正後の教育資金贈与の課税
令和5年の法改正後は、期間の経過を問わず、贈与者が亡くなると贈与資金の残額に対して相続税がかかります。しかし、法改正前までの非課税対象者と同様、以下に該当する場合は変わらず課税されません。- 受贈者の年齢が23歳に満たない
- 受贈者が学校などに在学していたり、職業訓練を受けていたりする
ただし、孫やひ孫に対する贈与は、死亡後に2割の相続税が加わることとなります。
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(2)教育資金贈与を利用する場合の要件
令和5年の法改正前までは、教育資金贈与を利用する場合、以下の要件を満たすことが必要です。
① 贈与者側の要件
教育資金贈与を利用できるのは、財産を贈る側が財産を受け取る側の直系尊属にあたる場合に限られます。たとえば、受贈者から見て、父母や祖父母、曽祖父母などが直系尊属にあたり、叔父や叔母は直系尊属になりません。
贈与者側には年齢要件がないため、子どもや孫の成長に合わせていつでも贈与することができます。
② 受贈者側の要件
教育資金贈与としてその財産を受け取ることができるのは、受贈者が30歳未満である場合です。
また、前年度の受贈者の所得が1000万円を超えていないことも要件となります。
③ 受託者の要件
教育資金贈与を利用するとき、贈与者から受贈者に対して直接贈与することはできません。そのため、金融機関などの教育資金管理契約に基づき、贈与した資金を信託する必要があります。
金融機関であればどこでも教育資金贈与信託を扱っているというわけではありませんので、事前に確認するようにしましょう。
④ 期限
前述のとおり、教育資金贈与の制度は令和5年3月31日に要件が変わります。今後も再び期限が延長される可能性はありますが、延びるかどうかは不確実です。
そのため、教育資金贈与の活用を検討中という方は、法改正の施行情報をチェックするようにしましょう。
2、教育資金贈与を検討すべきケース・しなくてよいケース
どのような場合に、教育資金贈与を検討すべきなのでしょうか。
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(1)教育資金贈与を検討すべきケース3つ
法改正前に教育資金贈与を検討すべきケースとしては、以下の3つが挙げられます。
① 早急に相続税対策をする必要があるケース
教育資金贈与を利用する最大のメリットは、短期間でまとめて教育費を贈与しても、贈与税が非課税になるという点です。
そのため、贈与者の余命がわずかであり、すぐにでも相続税対策が行う必要がある方は、短期間で多額の贈与をしたいと考えるでしょう。しかし、贈与者がこの制度を利用してから3年以内に亡くなってしまうと、非課税対象とならない方への贈与は課税されてしまいます。
そのため、余命わずかである方は、必ず「受贈者になる者が非課税対象として当てはまるかどうか」を確認するようにしましょう。前述のとおり、孫やひ孫、子どもの場合は23歳未満や在学中または職業訓練中の方が非課税となるため、受贈者の対象によっては有効な相続対策として活用できます。
② 生活資金に余裕があるというケース
教育資金贈与の一括贈与を利用した場合には、それを取り消すことができません。一度に高額なお金を贈与することになるため、贈与者の手元の資金に余裕がない状態で行ってしまうと、将来の生活費が不足するなどの事態に陥る可能性もあります。
そのため、教育資金一括贈与を利用する際は、ある程度、生活資金に余裕がある場合に行うようにしましょう。
③ 使い道を限定したいというケース
教育資金贈与を行った場合には、そのお金の使途は教育資金に限定されることになります。
贈与資金の管理は金融機関が行うため、教育資金以外の目的で使われるかもしれない、という心配はありません。 -
(2)教育資金贈与を検討しなくてよいケース2つ
教育資金贈与を検討しなくてもよいケースとしては、以下のケースが挙げられます。
① 教育資金を使い切ることができないケース
教育資金贈与を利用した場合には、最大で1500万円まで贈与税が非課税となります。
しかし、子どもや孫が30歳になるまでに、教育資金贈与のお金をすべて使い切ることができなければ、残金については贈与税が課税される点に注意が必要です。
教育資金贈与によって相続税の負担を軽減することができたとしても、相続税よりも税率の高い贈与税が課税されてしまっては元も子もありません。
そのため、受贈者が30歳までに教育資金を使い切ることが難しいときには、この制度を利用する必要はないでしょう。
② 手続きが負担に感じるというケース
教育資金贈与の制度を利用するとなったら、まず信託銀行などに教育資金口座を開設しなければなりません。ここから預貯金を引き出す際には、教育資金目的の使用であることを明らかにするために、領収書などの提出が必要です。
口座からお金を使う度に領収書などを提出しなければならず、煩わしさを感じるようであれば、この制度を利用することは向いていないといえます。
教育資金の一括贈与という制度を利用しなくても、必要な金額を教育資金として都度渡す分については、贈与税は非課税とされているため、そちらを利用してもよいかもしれません。
3、相続トラブルの火種になりうるケース
教育資金贈与は、将来の相続トラブルの火種になる可能性があることにも注意しましょう。
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(1)教育資金贈与が特別受益と主張される可能性
特別受益とは、相続人が婚姻費用などを理由に被相続人によって多額の生前分与を受けた利益のことを指します。このような特別受益がある場合、特別受益分を相続財産に加算して(持ち戻し)、具体的な相続分を計算することがあります。これを、特別受益の持ち戻しと呼ばれます。
特別受益は、相続人への生前贈与などが対象となるため、祖父母から孫へ教育資金贈与がされた場合には、孫が代襲相続人でない限り、特別受益は問題になりません。
しかし、親から子どもに対して教育資金を一括贈与された際には、他の相続人から特別受益であると主張される可能性があります。そうすると、相続財産への持ち戻しがされるかもしれません。
教育資金贈与の一括贈与が特別受益に該当するかどうかについては、贈与された金額や贈与者の資産に占める割合、他にいる兄弟や姉妹との関係性といった事情を考慮して判断することになります。双方の主張が対立している場合には、遺産分割協議がまとまらずに長期化するケースもあることに留意しておきましょう。 -
(2)相続人間に不公平感を生む可能性
複数の孫に対して教育資金贈与をしたことによって、相続人の間に不公平感が生じる可能性があります。
たとえば、祖父母の長男に子ども(孫)がひとり、祖父母の次男に子ども(孫)が2人いるケースで考えてみましょう。祖父母から孫に対して、各1000万円ずつ教育資金の一括贈与がなされたとすると、孫を基準にすれば公平な贈与といえますが、子どもを基準にすると次男は長男の2倍の利益を得ることになります。
このような場合、将来祖父母の相続をする長男と二男との間で、深刻な対立が生じる可能性がないとは言い切れません。 -
(3)使い切れなければ贈与税が課税される
教育資金の一括贈与を利用することによって、贈与者は、相続税の負担を軽減できます。しかし、受贈者が教育資金の一括贈与として受けたお金を使い切ることができない場合には、受贈者に贈与税が課税される点に注意が必要です。
つまり、受贈者側に税負担がかかることになり、使い切れないこと自体がトラブルの火種となってしまう可能性があります。
4、相続発生後、トラブルになったら弁護士に相談を
遺産相続に関してトラブルが生じた場合には、早めに弁護士に相談をすることがおすすめです。
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(1)適切なアドバイスによって不利益を避けることができる
被相続人の遺産を相続する場合には、単に法定相続分で遺産を分ければよいというわけではありません。
生前に被相続人から多額のお金をもらっている相続人がいる場合には、特別受益として相続財産への持ち戻しをする必要があります。また、被相続人の財産の維持・増加に貢献をした相続人がいる場合には、寄与分を考慮して相続分を決めることが必要です。
このように、遺産分割においては、法的知識がなければ適切な分割方法を考えることが難しいケースがあるでしょう。
知識がないことで不利益を被ることのないように、相続が開始した場合には、まずは弁護士に相談して、遺産相続に関するアドバイスを得ることをおすすめします。 -
(2)弁護士が介入することでスムーズな解決が期待できる
被相続人の遺産を分けるためには、相続人による遺産分割協議を行う必要があります。しかし、当事者同士の話し合いでは、お互いの利害の対立から感情的になってしまい、話し合いを進めることができないことも少なくありません。
弁護士であれば、法的根拠に基づいた証拠を提示しながら話し合いを進めることが可能です。当事者同士が話し合いをするよりも相手の納得を得ることができ、よりスムーズに話し合いを進められることが期待できるでしょう。
5、まとめ
適切に教育資金贈与の制度を利用することによって、贈与税の非課税という効果と将来の相続税の負担減少という2つの効果が期待できます。しかし、教育資金贈与のメリットデメリットや今後の法改正についてしっかりと理解し、トラブルになることも考えて検討すべきです。
ベリーベストグループでは、弁護士や税理士、社会保険労務士、司法書士が在籍しており、相続に関する問題はワンストップサービスで受け付けております。
相続のことで何か問題を抱えていたり、将来の有効な相続に詳しい弁護士のサポートが必要だったりするときには、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスまでお気軽にご相談ください。
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