寄与分の権利者は誰? 献身的に舅の介護をした嫁は遺産をもらえるのか

2021年05月06日
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寄与分の権利者は誰? 献身的に舅の介護をした嫁は遺産をもらえるのか

遺産分割のときに寄与分の権利者かどうかやその割合が争いになることがあります。家庭裁判所で寄与分について争った事件の数は、令和元年中は全国で136件ありました。福岡にお住まいの方でも、たとえば実父が亡くなったあと、長い間介護をしてくれた自分の妻には舅の財産の相続権がないと知ったとき、「そもそも他人だから仕方ない」と簡単に納得できる方はなかなかいないでしょう。

令和元年7月施行の法改正で新たに設けられた「特別寄与料」の請求権について、既存の寄与分のケースと合わせて福岡オフィスの弁護士が詳しく説明します。

1、寄与分とは?

寄与分とは、相続人が被相続人の財産の維持や増加に特別に貢献した場合に、その度合いに応じて相続分を増やすことです。

そもそも遺産相続は相続順位に従って行われるものです。被相続人の子どもは第1順位の法定相続人ですが、生前の親子の接し方はさまざまでしょう。遠方に住んでいて年に数回しか会わない場合もあれば、家業を支えたり、同居して介護をしたりする場合もあるはずです。

それなのに、法定相続分として均等に分けると不公平になってしまうことがあります。このような場合の公平性を図るための仕組みが寄与分です。

2、寄与分が認められるケース

では、法律上、寄与分が認められるために必要な要素について解説します。

  1. (1)寄与分が認められる要件とは

    寄与分が認められる要件は、次のとおりです。

    • 法定相続人による行為であること
    • 行為が特別の寄与であること
    • 被相続人の財産の維持または増加があり、寄与行為との間に因果関係があること


    また、身分関係から通常期待される以上の行為であることに加え、持続性があること、専従性があることなども重視されます。

    したがって、基本的には相続人の配偶者がどれだけ介護に寄与したとしても寄与分は認められません。ただし、現実的には長男の嫁が長年、姑や舅の介護をするというケースは多くあります。その場合、長男が生きていれば長男の妻による寄与分を「長男の寄与」として評価し、結果として長男夫妻が受け取る相続分が配慮されることはあるでしょう。

  2. (2)法律上認められる寄与行為5パターン

    ● 家事従事型
    親の経営する店を子どもが手伝ってきたようなケースで、無給または著しく少ない給料で長年にわたって手伝ってきた場合に認められます。

    ● 金銭出資型
    親の事業立ち上げのために子どもがまとまった資金を援助した、借金返済を目的とした金銭の贈与を行ったといったケースなどが寄与の対象とされます。

    ● 療養介護型
    子どもが親を介護していたようなケースです。手が空いたときだけ介護をするのではなく、介護に専念することで介護士を雇うことや施設に入所するための費用が削減したなどの場合に認められるとされています。

    ● 扶養型
    子どもが親に生活費を渡したり、生活の面倒をみたりしていた場合も寄与が認められます。この場合も、通常の期待を超える寄与であることが求められます。

    ● 財産管理型
    子どもが親の不動産などの管理をすることで、本来管理会社に支払う費用を出費しなくて済んだようなケースのことです。この場合は持続性や専従性は必要ありません。

3、法改正で新設された「特別寄与料」とは

平成30年に成立し、令和元年7月1日に施行された法改正によって、特別寄与料の請求権は「相続人以外の親族」にも認められることになりました。令和元年7月1日以降に開始された相続において、相続人に対し寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の請求を認める制度です(民法第1050条)。

  1. (1)特別寄与料の請求ができる権利者は?

    前述のとおり、寄与分の権利者は法定相続人のみです。したがって、これまでは長男がすでに死亡しているような場合、残念ながら実際に介護をしてきた長男の妻は何も受け取ることができませんでした。このため、令和元年7月施行の法改正によって、法定相続人以外も、後述する「特別寄与料の請求」ができるようになったのです。

    特別寄与料の請求ができるのは、「被相続人の相続人でない親族」と定められています。親族とは、6親等内の血族と配偶者、3親等内の姻族です(民法第725条)。また、姻族とは、配偶者の血族および血族の配偶者を指します。夫から見た妻の両親、妻から見た夫の両親が姻族の一例として考えられます。

    たとえば、長男の嫁が舅の介護をしていた場合、3親等内の姻族である長男の嫁も、特別寄与料を請求する権利者になります。なお、内縁関係にある相手や友人・知人は、上記の親族の定義にはあたらないので、いくら献身的に介護をしたとしても、寄与分を求める権利はありません。

  2. (2)特別寄与料が認められるケース

    特別寄与料が認められるのは、「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより財産の維持または増加に貢献した」場合に限定されています(民法第1050条第1項)。したがって、精神的に支えたというだけでは、財産の維持・増加に寄与したと認められない場合がありえます。また、寄与分の要件では、親の事業への出資など「被相続人の事業に関する財産上の給付」も寄与分として認められますが、特別寄与料では認められません。

    無償でなくとも、被相続人の看護・介護を継続的に小遣い程度の少額の謝礼で行った場合は、看護・介護に見合った対価を得ずに、すなわち「無償」で看護・介護を行ったものと同視して、「貢献」が認められる可能性があります。特別寄与料の請求をするためには、寄与分と同様に、自分が介護に行った日時が分かる記録(日記や手帳など)、介護にかかった経費のレシートや領収証など、証拠を十分にそろえて提出する必要があるでしょう。

  3. (3)特別寄与料の請求期限に注意

    特別寄与料を主張する場合、相続人全員の合意を得る必要があります。

    特別寄与料の権利者は、そもそも法定相続人ではないため、遺産分割協議に参加する資格がありません。そのため、もしすでに遺産分割が終わったあとに特別寄与料を主張する場合は、家庭裁判所へ「特別寄与に関する処分の調停申立て」を行う必要があります。家庭裁判所の調停により最終的な配分を定め、支払いを命じてもらうことになるのです。

    ただし、この申し立ては、相続の開始および相続人を知った日から6か月以内という期限があります。相続の開始および相続人を知らなかったとしても、相続開始から1年以上過ぎてしまうと、請求権が失われるので、注意が必要です。

    介護を長年担ってきたとしたら、被相続人が亡くなった事実を知る立場にあると考えたいところですが、親族内の関係性によっては、連絡がこない場合もあるかもしれません。遺産分割協議が終わる前に、早めに弁護士に相談し、申し立てを検討することをおすすめします。

4、寄与分はどのように決めるか

寄与分は、相続人全員の合意によって決めることができます。具体的にどのように決めるのかについて知っておきましょう。

  1. (1)寄与分の計算方法の具体例

    寄与分がある場合、まずは遺産の総額から寄与分の評価を差し引き、残った金額を法定相続分に応じて分けていきます。

    たとえば、総額5000万円の現金を子ども2人で分割するとしましょう。そして、親と長年同居し面倒をみてきた長男に2000万円の寄与分が認められた場合で考えてみます。

    遺産総額の5000万円から寄与分2000万円を引くと、残りは3000万円です。この3000万円を長男と次男で分けると、それぞれの相続分は1500万円です。結果として、長男の相続分は2000万円と1500万円を足した3500万円になり、次男の相続分は1500万円になります。

    もし寄与分が認められていないとすると、長男と次男はそれぞれ2500万円ずつ相続することになります。この大きな差こそが、トラブルが起こりやすい原因だということがご理解いただけるでしょう。

  2. (2)寄与分で争いになったとき必要な証拠

    寄与分について主張するときは、まずは協議、つまりは話し合いを行います。ここで双方が納得すれば、協議書を作成して相続の手続きを進めることになります。

    寄与行為で財産を維持・増加させたことを証明するためには、前述の5つの類型ごとに金額を具体的に洗い出したうえで冷静に話し合いを進めることをおすすめします。

    寄与行為の事実を客観的に証明できる以下のような証拠を準備しておくとよいでしょう

    • 介護の度合いが分かる診断書やカルテ
    • 介護ヘルパーの利用明細
    • 自分が介護に行った日時が分かる記録(日記や手帳など)
    • 介護にかかった経費のレシートや領収証
    • 預金通帳


    しかし、寄与分を認めることで他の相続人の受け取る財産が減ってしまうことになります。場合によってはトラブルに発展するおそれもあるでしょう。争いになり、話し合いでは結論を出せそうにないときは、家庭裁判所に申し立てを行い、遺産分割調停で寄与分を認めてもらうことになります。ただし、裁判ではあなたが主張する寄与行為の事実を客観的に証明できる証拠を提出したとしても、その全額が認められないことが多く、その場合には裁判所の裁量で減額されることになります。

    裁判などになってしまうと、結論が出るまで非常に長い時間をかけることになるケースがほとんどです。協議の段階から弁護士に依頼して進めることで、冷静かつ法的に適切な主張を行うことができます。このことにより、不要な争いを回避できるケースは少なくありません。争いになりそうなときは、できるだけ早いタイミングで弁護士に依頼することをおすすめします。

5、まとめ

「特別寄与料」の創設により、長年献身的に義理の親の介護をしてきたとしても、相続権すらなかった時代から一歩進歩したといえます。
しかしながら、他の相続人が寄与分を認めてくれないこともあるでしょう。寄与分を認めてもらうためには、必要な証拠をそろえ客観的に主張することが必要です。
とはいえ、親族内でもめることが避けられないケースも少なくないでしょう。その場合は、弁護士に依頼して中立的な立場から、交渉を代行してもらうことが非常に有効です。
寄与分についてお困りの際は、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスまでご連絡ください。福岡オフィスの弁護士が、適切な結果となるよう、迅速に対応いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています