残業代が出ない理由別に違法・適法を確認! 未払い分を請求する方法
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福岡労働局では、労働基準法などを違反して送検された事業者名を公表しています。令和3年12月には、最低賃金を下回る賃金で労働者を働かせていた事業場名が公表されました。
毎日遅くまで残業しているのに残業代が支払われない場合、時給換算してみたら、最低賃金を下回る時給で働かされているかもしれません。しかし、ドライバーだから、営業職だから、あるいは管理職だから残業代が出ないのは当たり前だと会社から回答されたというケースがあります。では、その認識は正しいのでしょうか?
このコラムではどのような場合に残業代が払われないのは正当なのか、違法ではないのか、また未払いの残業代はどうやったら請求できるのかについて、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説しています。ぜひ参考にしてください。
1、法律上における残業代とは
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(1)残業代の未払いは違法!
残業代とは、労働者が所定労働時間や法定労働時間を超過して働いた場合に使用者が支払わなければならない賃金を指します。「所定労働時間」とは、労働契約上定められた労働者の就業時間を指し、法定労働時間とは、法律で定められた労働者が1日ないし1週間のうち就労できる上限の時間を指します(法定労働時間 1日8時間 1週間40時間 労働基準法32条参照 )
労働者が、使用者の指揮監督下のもと、法定労働時間を超えて働いた場合、使用者は、法外残業として、時間単価に一定の割増率と残業時間を乗じた割増賃金を支払わなければなりません。
労働者が、使用者の指揮監督下のもと、所定労働時間を超えて働いた場合、使用者は、残業代を支払わなければなりませんが、当該労働時間が法定労働時間内である場合、時間単価に残業時間を乗じた残業代を支払えば足り、かかる場合、割増率が乗じられることはありません。すなわち、法定労働時間内の範囲で働く場合、所定労働時間を超えた分の賃金を受け取る権利はありますが、割増賃金は受け取れません。
なお、上記で述べた法外残業についての割増率主に以下の3つです。- 時間外労働……割増率は25%以上。1日8時間以上、週40時間以上働いたというケース。
- 休日労働……割増率は35%以上。法律上定められた法定休日(毎週1日以上の休日)に働いたというケース。
- 深夜労働……割増率は25%以上。22時以降から朝の5時までに働いたというケース。
近年は労働契約が複雑化していることもあり、会社側もそれぞれ独自のルールを作るなどして、「可能な限り残業代を払わないで済ませたい」と思っているところもあります。
違法なルールを作っていることに気付いていない経営者もいるかもしれませんが、中には労働基準法を熟知した上で、うまくその網をかいくぐって残業代を支払わなくて済むように考えているような悪質なケースもあります。 -
(2)未払い残業代の請求には時効がある
未払いの残業代を請求できる期間は3年間です。
労働基準法第115条において、「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使できる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」と定められています。
しかし、令和2年に改正民法が施行された影響を受け、令和2年4月1日以降に支払期限の到来する賃金(割増賃金も含む)については、当面の間、時効が3年となりました。令和2年3月31日までに期限が到来した残業代については、旧法(賃金請求権の消滅時効は2年とされていました)が適用され時効が完成しています。
請求しようかと思うが裁判で争うのは面倒だ、などと迷っているうちに、もらうべき残業代はどんどん時効が完成してしまいます。本来払われるはずの残業代が出なくて困っている方は、なるべく早めに残業代請求に踏み切りましょう。
2、実は残業代を請求できるケース
会社から「管理職は残業代出ないよ」、「うちは年棒制だから残業代出ないから」と言われて、残業代を支払ってもらえていないケースの中には、違法に残業代を支払っていないケースもあります。
具体的なケースについて解説します。
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(1)管理職だから残業代は出ない? 名ばかり管理職
名ばかり管理職とは、管理監督者としての十分な職務権限を与えられていないにもかかわらず、管理職という肩書きだけを与えられ、残業代が支払われていない従業員のことを指します。
そもそも、管理監督者である従業員に残業代が支払われない根拠はなんでしょうか?
法律では、労働時間や休憩、休日に関する規定を、労働基準法41条2項に該当する労働者には適用しないと定めているためです。労働基準法41条2項
「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」
労働基準法が言う「管理監督者」の該当性については、過去の判例から判断すると、以下の3つを判断要素として判断する傾向にあります。① 社内の一定の部署を統括する立場であり、会社の経営や重要事項の決定に参画していること
② 自分の勤務時間についての裁量があること
③ 待遇が一般従業員より良くなっていること
つまり肩書きだけ部長などと言われていても、それ以前から給与がアップしていなかったり、何の権限も与えられまま責任だけを負わされたり、という状態が名ばかり管理職です。
業務内容は一方的に指示されることを行っているだけ、経営内容は全く知らされず労働だけを強いられている、といった場合は労働基準法が言うところの管理監督者には当たりません。ですから残業代が払われないのは違法である可能性が高いと言えます。 -
(2)固定残業代がつくから残業代は出ない? みなし残業制
みなし残業(固定残業制)とは、現実に労働した時間を細かくカウントせず、あらかじめ決めておいた時間の範囲内で労働したとみなし、その額を支払うというものです。
たとえば、会社側は月に20時間と固定で決めているとしても、基本的に予定した残業時間を1時間でも超えて労働した場合はその残業代を支払う義務が会社側にはあります。
「法定労働時間」という取り決めがあり、1日に8時間、1週間に40時間を超える労働に対しては残業代を支払うのは雇用者の義務です。
「1か月に〇時間の残業を含む」、という取り決めがあっても、そのあらかじめ決められた時間を超えていれば、それに対する残業代を払わなければ違法性があると言えますから、未払い残業代の請求対象になり得ます。 -
(3)この業界は残業代なし? 業界・職場ルール
荷待ち時間がある運送業のドライバーや、裁量労働制が適用されがちな制作などの現場、歩合制が採用されている営業職などにおいて、「この業界は残業代なんて出ないのは当たり前だ」などと会社に説明され、泣き寝入りしているケースは少なくないようです。
いずれの場合も、会社の指揮命令下において法定労働時間を超えて働いていた場合、残業代を支給しないケースは違法です。長時間労働を強いられているにもかかわらず、適切な残業代を受け取れていない可能性があるときは、まず労働契約書と実際の労働時間を確認してみましょう。
3、未払いの残業代を請求するために
未払いの残業を請求する際には、まず残業代が支払われていない労働が存在したことを証明しなければなりません。
ここからはその証拠に関することをまとめていきます。
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(1)証拠の収集
残業代が支払われていない事実を証明するためには、以下のような証拠が必要になります。
① 勤務時間を証明するもの(タイムカードなど)
タイムカード、勤務報告書などがあれば明瞭ですが、それらを採用していない会社もあるでしょう。その場合は毎日自筆で書きこんだ記録(実際の勤務時間や移動の方法など)や、退社時にパソコンで時間がわかる画面にしてデスクトップの写真を撮る、など証拠づくりを自ら行いましょう。
会社側は残業代を支払いたくなければ、「その記録がねつ造だ」という可能性がありますから、写真の画角内にオフィスの風景を入れたり、会社の壁掛け時計なども含めたりした方が賢明です。
② きちんと勤務していたことを証明するもの(日報など)
ただその時間まで会社にいた、というだけでは残業代は勝ち取れないかもしれません。会社側からただその時間まで無駄にいただけではないか、と言われる可能性があるからです。
できれば、会社や上司から指示された業務を遂行するためにその時間までかかった、という証明ができれば請求の際に力を発揮します。
ですからその日の指示内容に対して、どの作業に何時間かかり結果的に残業を行った、など具体的な仕事内容が明記された報告書や日報などがあると有効です。
業務終了時にその内容を上司にメールしておくというのも良いでしょう。
メールの場合は日時も残りますから非常に有効性が高い証拠です。
③ 支払われた額を証明するもの(給与明細など)
多くの会社では給与明細があると思うので、それはきちんと保管しておきましょう。もし明細がなければ銀行口座への給与振り込みで金額を証明することもできます。 -
(2)証拠がない場合
証拠があった方が残業代の未払い請求はスムーズに進められる可能性が高いですが、証拠が十分でなかったとしても労働者側が残業代を請求できた例は存在します。
ですから、持っている証拠が不十分かもしれない、と自己判断して泣き寝入りする前に、弁護士へご相談ください。
4、残業代について相談するのはどこがいい?
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(1)労働基準監督署
労働基準監督署も未払い残業についての対応は行っています。労働基準監督署と労働局に対する相談は、1年に100万件にも登ると言われています。
一方、それに対応する労働基準監督官は全国で3000人程度しかいないため、迅速かつ柔軟な対応を求めることが難しい可能性があります。また、労働基準監督署は「労働基準法に違反している使用者(雇用主など)を是正し、指導すること」が目的です。「労働基準法に違反している」という確固たる証拠がなくては、そもそも動いてくれません。
つまり、労働基準監督署に動いてほしければ、あなた自身が、会社が労働基準法に違反しているという具体的な証拠を集めなければなりません。 残念ながら、証拠もなしに労働基準監督署に相談に行っても「それはひどい! すぐに対応します!」とはならないのです。 -
(2)社会保険労務士
社会保険労務士は、年金に伴う相談、人事・労務に関する相談・指導、労働問題に関する相談、社会保険における手続きなどを行う職業および、その国家資格を有する者のことを指します。
簡単に言うと、社会保険労務士は、会社が扱う「人・モノ・金」のうち、「人」の部分に関する相談やアドバイスを行う専門家です。
社会保険労務士に残業代の相談を行うことも、もちろんできます。
依頼をすれば、残業代の証拠の集め方をアドバイスし、その集めた証拠をもとに具体的な残業代を計算してくれるでしょう。
ただし、社会保険労務士にはあなたの代理人として「会社と交渉する」という行為は認められていません。
社会保険労務士に相談して具体的な証拠をそろえ、残業代を完璧に算出できたとしても、いざ請求を行う場合には、あなた自身が会社と交渉する必要があります。
もし、社会保険労務士が「あなたの代わりに交渉も行いますよ!」と言ったら、それは違法行為ですので、そのような社会保険労務士に依頼するのは絶対にやめましょう。 -
(3)弁護士
会社側は多くの場合未払い残業代を払いたくない、未払い残業代はないという考えで、あなたの主張を否定してくる場合があります。それに対して、弁護士であれば依頼者の側に立って権利を主張し、残業代請求を行うことができます。
弁護士に依頼した時点で証拠が不十分である場合、残業代請求を行う際に必要な証拠の集め方などのアドバイスを受けることも可能です。
前述した通り、社会保険労務士には代理人として交渉することは認められていませんが、弁護士であれば代理人として交渉をすることができます。
つまり、会社とのやりとりは全て弁護士が代わりに行ってくれるということです。
また、交渉での解決が難しい場合には、弁護士には裁判の場でも代理人として手続きを行う権限が認められています。
徹底的に争うことになり、最終的に労働裁判までいくようなケースの場合であっても、最初から最後まで全ての手続きを任せることができる、という点が弁護士の最大の強みと言えます。
5、まとめ
未払い残業代の違法性や、その対処方法について知識を深めていただけたことと思います。
基本的に行った労働にその対価を支払うのは会社側の義務です。残業代の未払いがある場合、「支払ってもらえたらラッキー」なのではなく「会社は当然支払うべき」という態度で臨みましょう。
残業代の未払いに関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスにお任せください。
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