離婚ADRとは? 離婚調停との違いやメリット・デメリットを解説
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裁判所が公表している司法統計によると、平成30年中に福岡市を管轄する福岡家庭裁判所で行われた「婚姻中の夫婦間の調停事件」は、1808件ありました。これは、九州エリアにある家庭裁判所内でもっとも多い数です。
多くの夫婦が話し合いによって離婚しますが、話し合いが困難な場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。しかし、日本では裁判と聞くと大事になったという感覚が強く裁判所への調停の申し立てをためらってしまう方が少なくありません。そのような「そこまで大事にはしたくない」という方のために離婚ADR制度が存在します。
そこで今回は、離婚ADRの概要やメリット・デメリットをベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、離婚ADRとは何か
ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、「裁判外紛争解決手続き」と呼ばれる手続きです。具体的には、裁判所での訴訟以外の手段による紛争解決手続き全般を指します。
ADRは、金融ADRや事業再生ADRなどさまざまな問題の解決に利用されており、このうち離婚に関するものを「離婚ADR」と呼んでいます。離婚ADRは公益社団法人家庭問題情報センターや、一般社団法人ILCなどの民間機関が行っています。
2、離婚調停との違いとは
従来、当事者間で話し合っても協議離婚が成立しなかった場合は、家庭裁判所で離婚調停を行うことになります。日本では調停前置主義がとられているため、すぐに訴訟を起こすことはできません。調停を行っても解決しなかった場合に限り、離婚裁判によって離婚を目指すことになっています。
他方、離婚ADRは、一般的には民間の「ADRセンター」にて話し合います。ADRセンターには、離婚に詳しい司法書士や弁護士、家庭裁判所で調停委員の勤務経験がある者が在籍しており、ふたりが離婚に向けた話し合いができるよう中立な立場からサポートする役割を果たしています。
離婚調停との大きな違いは、3つあります。
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(1)合意に至らなかった場合の手続き
ひとつは、調停で合意に至らなかった場合の手続きです。離婚調停であれば、調停が成立しなければすぐに訴訟を申し立てることができます。しかし、離婚ADRで合意できなければ、まずは裁判所で調停を申し立てなければなりません。
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(2)話し合いの進め方
ふたつめの違いは、話し合いの進め方にあります。離婚ADRは「手続実施者」が中立の立場となる調停人として同席したうえで、当事者が直接対面で話し合いを行うことになります。
他方、離婚調停は相手方と直接顔を合わせて話し合いをするわけではありません。調停委員や裁判官が待つ部屋へ、調停を申し立てた方と申し立てられた方は交互に入り、それぞれの主張を行い、調停委員がそれぞれの主張をすり合わせながら話し合いを進めることになります。 -
(3)合意に至ったときにもらえる書類や法的な扱い
そして、話し合いの結果、合意に至ったときにもらえる書類や法的な扱いにも違いがあります。離婚ADRで合意に至った場合は、調停合意書を作成してくれますが、この合意書に法律的な強制力はありません。
また、離婚ADRを経て離婚した場合は、協議離婚となります。他方、離婚調停によって合意を得て離婚したときは調停離婚となることはご存じのとおりです。さらに、合意した内容については裁判所から調停調書が発行されます。調停調書は、万が一の際、法的な強制力を持つことになります。
3、離婚ADRを活用して離婚を目指すメリット
ADRセンターを使って離婚をするメリットは、主に3つあります。
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(1)裁判所に行かずに済む
離婚ADRを使えば、家庭裁判所に行って離婚調停をしなくても、離婚の話し合いが可能です。「離婚はしたいけれど、裁判所に行くと大事になった感覚があるので及び腰になってしまう」「裁判所に行くほど双方が対立していない」という方には、離婚ADRのほうが向いているでしょう。
また、家庭裁判所で離婚調停を行う場合には、裁判所は平日しか開廷していないため、平日に数回休みを取って家庭裁判所に出向く必要があります。お互い仕事があると、一緒に平日休みを取るのは難しいかもしれません。平日に話し合いの時間を作ることはどうしても難しいという方にも、土日に進めることも可能な離婚ADRを利用するメリットがあるでしょう。 -
(2)離婚調停よりも所要期間が短縮できる可能性がある
離婚調停件数は以前よりも増加しているため、次の調停まで1~2か月も期間があいてしまうケースが多くなっています。そのため、離婚できるまでの期間は、短くても数か月、長いと1年以上と長期化する傾向があります。
しかし、離婚ADRの利用者はまだあまり多くないことから、比較的予約が取りやすい傾向があるようです。土日に話し合いを進めてなるべく早く離婚したいとお考えであれば、離婚ADRを活用するのも有効な手段といえます。 -
(3)調停委員を自分で選べる
家庭裁判所で離婚調停をするときには、話し合いの進行役となる調停委員2名が関わって話し合いが行われます。この調停委員は話し合いにあらゆる影響を及ぼしますが、その担当者を選んだり変更してもらったりすることは原則できません。
一方ADRセンターは、まずどのような人物が在籍しているのかを公式サイトなどで確認できるので、実際に話し合いを進めてくれる調停委員や関わる弁護士を選ぶことが可能です。ただし、選択した調停人は、あなたの味方になるわけではなく、中立の立場で話し合いに立ち会うことになります。
4、離婚ADRを利用するデメリット
離婚ADRにはメリットがある一方で、デメリットも多くあります。双方の内容を比較・検討して、利用するかどうか判断することを推奨します。
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(1)話し合いの機関によって費用が変わる
裁判所で離婚調停を行う場合の費用は、申立費用として印紙代などの数千円がかかります。もし弁護士を雇えば弁護士費用も別途発生するものの、裁判所に支払う金額自体は、離婚成立までの期間に問わずこの数千円のみです。
ADRセンターを利用する場合には、期日手数料や成立手数料などが発生します。 -
(2)相手に対する効力が薄くなりやすい
離婚調停や離婚裁判によって慰謝料や面会交流などを取り決めた場合、調停調書や判決書などの公文書が発行されます。したがって、相手方がきちんと義務を果たさないときには、ただちに履行勧告や履行命令の申し立てができます。たとえば、慰謝料や養育費などの不払いが起きた場合は、調停調書や判決文によって直ちに強制執行の申し立てを行い、給与などを差し押さえることが可能になります。
しかしADRによる離婚で発行される調停合意書には、このような強制力はありません。ADRはあくまで「和解」が目的の手続きなので、将来に渡る強制的な力はないのです。ADRで合意した内容を公正証書にしておけばある程度の強制力は持たせられるものの、そのためには別途費用が必要です。お互い、弁護士を依頼していない場合は、再度数回にわたって相手方と予定を合わせて公証役場へ行く必要があります。
また、話し合いに消極的な相手方でも、裁判所から呼び出されると「行かなければいけない」という認識が強くなりますが、ADRセンターからの呼び出しではそのような認識がはたらかず、呼び出しに応じてもらえないかもしれません。そのため、紛争性の高い離婚案件に、ADRは不向きです。 -
(3)離婚訴訟をする際に、離婚調停をやり直す必要がある
離婚ADRは離婚調停の代わりとして利用されています。しかし離婚ADRで話し合いを試みたものの話がまとまらず、離婚訴訟を起こしたい場合には、離婚調停を経て離婚訴訟を起こさなければなりません。離婚ADRで話し合ったような内容を再び離婚調停でも繰り返すことになるため、実質的には2度手間です。
ただし、法務省の認証を受けた離婚ADRセンターを利用して和解が成立する見込みがないことを理由にADRが終了した場合は、調停なしで離婚訴訟に進めます。それでも、ADRの内容によっては、家庭裁判所から離婚調停へ差し戻されることもあるので念頭に置いておきましょう。
5、離婚問題を弁護士に相談したほうがよい理由
離婚ADRは、離婚調停に代わる新たな離婚手段のひとつとして注目を集めています。しかし、デメリットも大きいことから、弁護士に依頼、もしくは相談しながら進めたほうがよいケースは少なくありません。本項ではその理由を解説します。
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(1)不利な条件で離婚してしまうことを回避できる
弁護士からアドバイスをもらっておけば、あなた自身にどのような権利があるのか、どう対応すればよいかについて知ったうえで離婚ADRに挑むことができます。
直接話し合いをすることが難しい相手であれば、弁護士を代理人として話し合いの最初からすべて弁護士に任せてしまうこともひとつの案です。話し合いでは結論を出せないとき、離婚訴訟まで一貫して依頼できます。離婚ADRを利用して結論が出なかった場合、改めて離婚調停を行う必要があることを考えると、弁護士に依頼する価値は高いでしょう。 -
(2)法的な強制力を持つ文書作成が期待できる
離婚ADRはたしかに裁判所に行かずに済みますが、話し合う場がADRセンターに変わっただけであり、離婚が成立する際には協議離婚となります。話し合った結果は合意書として書面にしてもらうことはできますが、裁判所や行政機関を通じた手続きではないため、法的な強制力を持たせることはできません。
せっかくADRで慰謝料などの取り決めをしても、その内容を守ってもらえなければ、取り決めた意味がありません。離婚後の生活が困窮してしまう可能性さえあります。そのため、離婚のADRを利用する際、あらかじめ弁護士に依頼しておけば、合意書を公正証書にする手続きまで対応することが可能です。執行猶予認諾文言を入れた公正証書にしておくことで、養育費が未払いになったときでも、速やかに差し押さえなどの対応を行うことが可能となります。
ただし、公正証書は、作成当日、あなただけでなく相手方も公証役場まで足を運んでくれなければ作成できません。相手方が、公正証書を作成する段になって来てくれない可能性があるケースは少なくないようです。個々の事情によって、離婚ADRよりも最初から離婚調停を申し立てたほうが大きなメリットを得られるケースは多々あります。それらの判断についても、あらかじめ弁護士に相談しておくことで適切な判断ができるでしょう。
6、まとめ
離婚ADRとは、離婚調停・離婚訴訟以外で離婚の話し合いができる、民間の紛争解決手段です。対面での話し合いで今後のことを決めるために専門家に立ち会ってほしい、土日に話し合いを進めたいという希望があるときは、メリットが大きい制度です。
それでも、離婚調停よりも法的な強制力が低い、紛争性の高い場合に話し合いが成立しない可能性がある、離婚訴訟に進む場合に離婚調停を経る必要がある、などの課題もあります。より確実に離婚の話し合いを前進させたい場合や、直接話し合うことが難しいときは、弁護士を依頼することを検討したほうがよいこともあります。
ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスでは、離婚問題についてのご相談をお請けしています。ひとりで悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
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