産後クライシスによる離婚を回避するための対処方法
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小さな子どもを抱えている夫婦であれば、「産後クライシス」という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
近年、企業や研究機関で産後の夫婦関係に関する研究が進み、出産間もない時期の産後クライシスがその後の夫婦関係に多大な影響を及ぼし、時に離婚に至るケースも多いことが明らかになってきました。
本記事では、産後クライシスの特徴や原因を探り、産後クライシスによる離婚を回避するために夫と妻ができることや、離婚をしたほうが良いケースについて考えていきたいと思います。
1、産後クライシスってそもそもなに? どんな特徴がある?
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(1)産後クライシスとは
「産後クライシス」とは、出産後2年以内に夫婦仲が急速に冷え込む現象を指します。
2012年に、あるNHKの情報番組で出産後に夫婦仲が急速に冷え込む現象を「産後クライシス」としてテーマに取り上げられたところ、子育て中の女性を中心に大反響を呼びました。
近年は核家族化が進み、自分が子どもを産むまで赤ちゃんのお世話をしたことがない女性が増えています。
また、最近は近所づきあいもだんだん減っているため、子どもに関する悩みを相談したり、ちょっとした用事を済ませるときに誰かに子どもを預けたりすることも難しいのが現状です。
そういったことから、現代の子育て環境は、小さい子どもを抱える女性にとってストレスのたまりやすいものになっているのです。 -
(2)産後クライシスが離婚を招くことも…
実は、NHKが産後クライシスについて取り上げるより前に、産後クライシスが起こっていることを裏付けているデータがあります。
2011年にベネッセ次世代育成研究所が発表した「第1回 妊娠出産子育て基本調査・フォローアップ調査(妊娠期~2歳児期)」によると、夫が妻に対して愛情を感じている割合は妊娠期が74.3%、2歳児期が51.7%とゆるやかに減少しているのに対し、妻が夫に対して愛情を感じている割合は妊娠期が74.3%、2歳児期が34.0%と急速に減少していたのです。
また、産後クライシスが離婚を招いている可能性を示すデータもあります。
厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、夫婦が離婚して母子世帯(母子家庭)になったときの末子の年齢は「0~2歳」が最も多く、全体の39.6%となっています。
これらのデータから、出産から2年以内に夫婦の関係が急速に変化して、離婚に至るケースが少なくないことがわかります。 -
(3)産後クライシスの特徴
産後クライシスでは、一般的に妻の方に以下のような特徴が生じます。
- 夫のことが好きだったはずなのに、産後急に嫌いになった
- 夫のささいな言動にイラッとしてしまう
- 夫の家事や子どもの世話の仕方が気に入らない
- 毎日苦しい、つらいと思うようになる
- 夫に触られるのもイヤになる
- 夫との性生活がおっくうになる
- しばしば夫と喧嘩になる
これらの特徴にあてはまるものがあれば、産後クライシスに陥っている可能性があります。妻がいったん夫に嫌悪感を抱くと、その嫌悪感が何年も消えず、熟年離婚につながるケースも考えられます。離婚を回避するためにも、これらの兆候が現れた時には、早めに対策を講じることが大切です。
2、産後クライシスが起きる原因とは?
離婚の原因にもなりうる産後クライシスは、なぜ起きるのでしょうか。
その原因はひとつではなく、さまざまな原因が複雑に絡み合って起こるものと考えられていますが、その代表的な原因について順番にみていきましょう。
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(1)産後の体調不良
出産は非常に体力を消耗するものです。
しかし、女性は出産後、休む暇もなくいきなり赤ちゃんのお世話がスタートします。体力が回復しきらないまま昼夜問わず授乳やおむつ替えをしなくてはならなくなるため、寝不足や疲れがたまってしまいます。
体調不良になっても赤ちゃんのお世話はまさに「待ったなし」なので、すぐに体調を回復させることが難しいのが現状です。 -
(2)ホルモンバランスの乱れ
妊娠中には、胎児を育てるための女性ホルモンである「エストロゲン」と「プロゲステロン」の分泌量が増えていきますが、赤ちゃんを出産するとこれらのホルモンは急激に減少します。この変化に身体がついていけず、感情の浮き沈みが激しくなったり、体調不良になったりするのです。
また、産後は母乳を分泌するためのホルモンである「プロラクチン」が増加ことも、産後クライシスに関係しているのではないかと推測されています。 -
(3)夫の無理解
妻は妊娠期間を通してだんだん母親としての自覚が芽生え、産後は毎日の育児を通して母親らしくなっていきます。
一方、夫は子どもが生まれても、しばらくは親としての自覚が薄い事があります。
原因の1つとして考えられるのは、「子供と接する時間の長さ」です。
家庭を持つ男性は、妻子を養うため仕事中心の生活となり、妻よりも子どもと接する時間が短い方がほとんどです。そのため、長時間子どもと接している妻よりも、親としての自覚が芽生えるのが遅くなってしまいがちです。
子どもが生まれて間もない男性の中には、子どもがいないときと同じように同僚と飲みに行ったり、遊びに行ったり、趣味に時間やお金をたくさん使ってしまう人もいます。
最近では、SNSでママ友の家庭の様子がわかることも多くなりました。
ママ友の夫が家事や育児を積極的にこなしている様子を見ると、「ママ友の夫は家事や育児をすすんでしてくれるのに、うちの夫はどうして何もしないのだろう」とむなしく感じることもあります。そうすると、夫へのイライラがさらに募ってしまうのです。 -
(4)精神不安
女性は出産をすると、しばらくは思うように外出ができなくなります。
日々の育児に追われて友人・知人との交流も途絶えがちになり、夫以外の人と会話をすることもなくなるため、社会から取り残されたような気持ちになる人も多くいます。
また、子どもを危険な目に遭わせないように常に気を張っていなければならず、それがプレッシャーとなって、精神不安を引き起こすこともあります。
3、産後クライシスによる離婚を回避する方法は? 夫・妻それぞれの対処方法
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(1)妻にできること①:言葉で伝える
子どもが小さいうちは、育児も家事もきちんとこなすのは至難の業。
しかし、それを身をもって体験していない夫は、妻が育児や家事を手伝ってほしいと思っていても、なかなかそれに気づくことができないケースが多いのが実情です。
そこで、夫に手伝ってほしいことがあれば「おむつを替えてくれない?」「ここの部屋に掃除機をかけてくれたら助かるんだけど」などと、具体的に言葉にしてお願いするようにしましょう。 -
(2)妻にできること②:手伝ってくれただけでよしとする
毎日家事をこなしている妻にとって、掃除の仕方や洗濯物の干し方などは自分の中である程度決まっていることが多いもの。
夫に手伝いをお願いしたはいいものの、自分とは違うやり方をされてイラッとしてしまう人は多いのではないでしょうか。
しかし、そこで「やり方が違う」「ちゃんとできていないじゃない」というと、夫はやる気をなくして、もう手伝ってくれなくなってしまいます。
多少イライラしてしまうかもしれませんが、「やってくれただけでよし」と思うようにしましょう。そして、手伝ってくれたことに対して「ありがとう」の気持ちを伝えるのも大事なポイントです。 -
(3)夫にできること①:「手伝おうか?」はNGワードと心得る
育児に参加しようとする男性の中には、大変そうにしている妻を見て「手伝おうか?」などと声をかける人も多いと思います。
しかし、「手伝う」という言葉を使えば、「本来育児をするのは妻の役割だろう」というニュアンスまで伝えてしまうことになり、かえって妻を怒らせることにもなりかねません。
積極的に育児や家事にかかわりたい気持ちを妻にアピールしたいときは、「〇〇は僕がするね」というように、主体的なニュアンスの言葉で伝えることが大切です。 -
(4)夫にできること②:妻にねぎらいの言葉をかける
夫からすれば、妻は子どもと家にいて遊んでいるだけのように見えるかもしれませんが、夫が外で仕事をしている間、妻は休みなく家事・育児に追われています。
そのため、夜には妻がクタクタになっていることも珍しくありません。そんな妻を前にして「俺だって仕事で疲れてるんだ!」などと言うのはご法度です。
妻も家庭の中で大変な思いをしながら毎日を過ごしているわけなので、それを十分に理解し、「大変だったな」「お疲れさま」などの言葉を妻にかけてあげることが大切です。
その一言で妻もだいぶ救われることでしょう。
4、産後クライシスで離婚を検討するべきケースは?
産後クライシスによる離婚を回避する方法を紹介しましたが、中には真剣に離婚を検討したほうがいいケースもあります。
離婚をすべきケースとは、どのようなものでしょうか。
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(1)夫が不倫に走った場合
妻の妊娠をきっかけに、なんとなく性生活を避けるようになり、産後も妻がホルモンバランスの崩れから性欲が減退してしまい、性生活をしないまま何年も経ってしまうことも珍しくありません。
夫は妻に相手にされないことを理由に、欲求を満たすために周りにいる女性と不倫関係に陥ってしまうことがあります。
夫の不倫が原因で夫婦関係が修復困難な場合には、離婚を検討すべきでしょう。
その場合には、不倫の証拠となるような写真やメールをこっそり入手して保存しておき、弁護士などの専門家に相談しましょう。 -
(2)言動が暴力的になった場合
子どもが生まれると、妻の意識はすべて子どもにいってしまいます。夫は自分が相手にされなくなったことに怒りを感じて、たとえば、子どもが泣いていると暴言を吐いたり、ドアや家具を突然蹴飛ばしたりするなど、言動が急に暴力的になるケースがあります。
ひどいとき場合は、妻や子どもに暴力を振るうケースもあるでしょう。
この場合も、離婚を検討すべきケースと言えます。
離婚調停や訴訟になった時に備えて、暴言や暴力を受けていることの証拠として音声を録音する、夫の暴力によってケガをしたりうつ病などの精神疾患にかかったりした場合は医師の診断書をもらう、といった対策を取っておくことが重要です。 -
(3)生活費を入れてくれなくなった場合
出産を終えたばかりの妻は働くことができないので、産後しばらくは夫の収入に頼ることになります。
しかし、出産後夫が仕事を辞めて収入が途絶えたり、収入があっても家に生活費を入れなくなったりして、それをきっかけに喧嘩が絶えなくなってしまうことがあります。
夫が次の仕事を見つけようとしている場合は、失業保険をもらえる間は少し我慢をして見守ることも必要でしょう。
しかし、収入があるのに家に生活費を入れない場合は、離婚を検討すべきです。
夫の行為は法律違反かつ離婚事由にあたりうるので、離婚する際には妻が夫に慰謝料を請求することができるかもしれません。
慰謝料の金額は個々のケースにより異なりますので、自分の場合どれくらいの慰謝料が獲得できるか知りたい場合は、弁護士に一度相談してみるとよいでしょう。
5、産後クライシスが引き金となり、離婚を考えたら
本来、出産というのはとてもおめでたい幸せなイベントです。
しかし、その出産をきっかけとして夫婦仲に亀裂が入って離婚することになったり、離婚まではいかないまでも何年もいやな思いを何年も引きずってしまい、家庭内別居状態になってしまったりすることも少なくありません。
夫婦がお互いを思いやっていることを態度で示すことができれば、一度産後クライシスに陥っても、離婚の危機を夫婦2人で乗り越えることができるのではないでしょうか。
それでも乗り越える事が辛く、産後クライシスが引き金となり離婚をお考えの方は、弁護士へご相談いただくことをお勧めします。
法律のプロが、状況をお伺いしながら具体的な解決策をご提案いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています