配偶者が認知症に……認知症を理由に、離婚ってできるの?

2020年03月31日
  • 離婚
  • 配偶者
  • 認知症
  • 離婚
配偶者が認知症に……認知症を理由に、離婚ってできるの?

日本はこれから超少子高齢社会に突入するといわれており、福岡市でも例外ではありません。福岡市保健福祉総合計画によれば、福岡市の認知症高齢者数は平成25年度には約2万9000人でしたが、令和7年には約5万5000人になると予測されています。

配偶者が認知症になるという厳しい現実を目の前にすると、中には、介護するほどの愛情はもてないと感じる方がいらっしゃるかもしれません。また、離婚を考えていた直前に認知症が発覚するケースもあるでしょう。

では、配偶者が認知症になった場合、離婚することは可能なのでしょうか。
今回は、認知症の配偶者との離婚可否や具体的な方法を、福岡オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、離婚する方法は主に3つある

まずは基本的な離婚の方法について知っておきましょう。

  1. (1)協議離婚

    当事者の合意によってされる婚姻解消の方法で、協議上の離婚とも呼びます。
    協議離婚の場合は、離婚の理由は問われません。つまり、どのような理由であっても、互いが合意さえしていれば離婚できるのです。
    手続き上においても、互いの「意思能力」があったうえで離婚届にサインをし、本籍地または所在地の市町村役場に受理されれば離婚が成立します。

    認知症であっても意思疎通が可能な軽度な症状である場合、協議離婚ができる可能性があるでしょう。

  2. (2)調停離婚

    当事者のみの話し合いで成立しない場合、調停離婚を目指すことになります。

    調停とは、家庭裁判所内の調停室において、裁判官と調停委員2名が双方の話を聞きながら、話し合いによって解決に導く手続きです。調停室には交代で呼ばれることになるため、相手と直接話す必要はありません。

    当事者とは何ら関係がない第三者の調停委員が間に入ることや、直接顔を合わせずに自らの主張をできることから、冷静な話し合いができる点が大きなメリットです。
    こちらも配偶者の認知症が軽度であり、意思疎通が可能であることが必要です。

    なお、調停が進んでも一部条件により離婚が成立しなかった場合、裁判所が最終条件を決めて審判をくだす「審判離婚」もあります。しかし審判が告知された日から2週間以内に異議申し立てをすれば無効となるため、審判離婚が成立するケースはさほど多くはありません。

  3. (3)裁判離婚

    調停で離婚の合意が進まない場合、離婚訴訟へと移行します。なお、日本における離婚手続きは調停前置主義をとっているため、調停を行わずに離婚訴訟を起こすことはできません。

    家庭裁判所に離婚訴訟を提起し判決によって離婚を認めてもらうためには、民法第770条で定められた「法定離婚事由」が必要です。訴状などの準備が必要となるため、弁護士に依頼して進めたほうが良いでしょう。

    「法定離婚事由」は以下の5つになります。

    法定離婚事由
    ① 配偶者の不貞行為
    ② 配偶者からの悪意の遺棄
    ③ 配偶者の生死が3年以上不明である
    ④ 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない
    ⑤ その他婚姻関係を継続しがたい事由

2、認知症は「法定離婚事由」にあたるのか

配偶者が認知症になる前から、前述の法定離婚事由に該当する行動をしていた場合は、離婚できる可能性が高まります。
具体的には、以下の出来事が該当すると考えられますが、いずれも明確な証拠が求められます。

① 不貞行為
いわゆる浮気、不倫など。ただし、性行為を伴う交際があったという証拠が求められます。

② 悪意の遺棄
理由なく生活費を渡さない、別居を強いるなど。やはり、生活費を渡さなかった証拠や、あなた自身が生活費の穴埋めをできなかった理由などについて証明する必要があるでしょう。

③ その他婚姻関係を継続しがたい事由
暴力、酒、ギャンブル、犯罪行為など。いずれの場合も被害を受けていたという証拠が求められます。


ただし、たとえば何十年も前に発覚した不貞の事実を今になって持ち出したとしても、離婚事由の不貞行為とは認められない可能性が高いと考えられます。なぜなら、不貞行為以降も長らく婚姻生活を継続させていたことから、該当の不貞行為は婚姻関係を破綻させるに至らなかったと考えられるためです。

いずれの法定離婚事由においても、最終的には、認知症を発症する現在にいたるまで離婚をしていなかった事情や、配偶者が認知症である現状も踏まえて判断されるでしょう。

さらに、認知症が「強度の精神病」に該当するかについては、認知症は強度の精神病にはあたらないと判断される可能性が高くなります。裁判所はもともと強度の精神病の判断を非常に慎重に行うものです。

詳細は次項で述べますが、強度の精神病を理由とした離婚の成立は難しいと考えてよいでしょう。

3、認知症による婚姻の継続困難について

前述のとおり、認知症になったという事実のみでは離婚が成立することは難しいでしょう。仮に、認知症の発症により婚姻生活の継続が困難であると認められたとしても、実際に離婚が成立するか否かについては、これまでの介護や貢献の度合いはどうだったのかも考慮されます。

そもそも夫婦の協力扶助は一方が病気になったときにこそ求められるものです。したがって、配偶者が認知症になった場合、ご自身が義務を果たしたことを前提として離婚が成立し得る余地があるかどうかが求められます

さらに、配偶者に対して今後の経済的支援ができるのか、他に面倒を見る人がいるのか、公的支援などにより治療を受けられるのか、介護施設などに入所できているのか、といった点も判断材料となります。
認知症になった配偶者の今後を無視した離婚はできませんので、その点は理解しておく必要があります。

もっとも、配偶者が認知症になって暴力をふるう、犯罪を行うなど特別の事情があれば、婚姻関係が破たんしたと判断される材料は増えることになるでしょう。

4、どのように離婚手続きを進めればよいのか

認知症になった配偶者との離婚は決して簡単ではありません。
しかし、離婚できる可能性はゼロだということではないため、あきらめないでください。

  1. (1)軽度な認知症の場合

    認知症といっても、程度は個人差があります。離婚の意味や離婚が与える影響について理解できる軽度の認知症であれば、協議や離婚調停によって、離婚を成立させることができるでしょう。認知症の程度については医師に判断を仰ぐことをおすすめします。

    もっとも、認知症が軽度であれば、夫婦が協力し合って生活していくことは可能です。
    したがって、認知症以外の法定離婚事由がない限り、離婚が認められる可能性は低いと考えられます。

    つまり、相手方が応じなければ離婚の成立は困難になるということです。

  2. (2)重度な認知症の場合

    一方、配偶者の認知症が進んでおり、離婚の意味や影響を理解できない状態であれば、協議や調停による離婚はできません。
    このときは裁判離婚という道が残されていますが、配偶者の代理となって法律行為をしてくれる成年後見人を立てる必要があるでしょう。

  3. (3)成年後見人の選任手続き方法

    配偶者が重度の認知症となった場合、意思疎通が困難となるため、裁判手続きを進めるために成年後見人を選任する必要があります。

    後見開始の申し立ては、本人の住民票を管轄とする家庭裁判所に行います。
    申し立てが受理されたら成年後見人との面接が行われ、親族の意向を確認した後、医師による判断能力の鑑定がなされたあと、後見開始の審判を受けることになるでしょう。

    家庭裁判所によって成年後見人が選任されたあと、改めて、成年後見人を相手に離婚訴訟を起こすことになります。

5、認知症の配偶者と離婚したいなら弁護士へ相談を

認知症には介護の問題も生じることから、通常の離婚と比べて高いハードルがあるといえます。今後の生活のためにも、財産分与や年金分割などもしっかり行う必要もあります。

ご自身で対応した結果、後悔が残る結果になってしまっては意味がありません。まずは離婚問題への知見が豊富な弁護士へ相談されることを強くおすすめします
ご自身のケースでは離婚は可能なのか、まず何から始めればよいのかについて、法的な観点からさまざまなアドバイスを受けることができるでしょう。

また、離婚を目指した協議や調停では弁護士が仲介することでご自身の主張をしっかり伝え、サポートすることが可能です。

認知症ともなれば、親族からの介入を受ける可能性も考えられます。
弁護士を代理人とすることで、あなた自身は親族からの言葉に直接対応する必要はありません。新たな人生に必要な準備を粛々と進めることができるでしょう。

6、まとめ

今回は認知症になってしまった配偶者と離婚できる可能性や方法を解説しました。
法律で離婚が認められるためには、法定離婚事由に該当する必要があります。特に認知症の配偶者と離婚を検討し、実現するために行動する場合、通常の離婚以上に苦労なさるかもしれません。

しかし、ご家庭のさまざまな事情により、離婚したいとお考えになることは誰にも否定できません。ひとりで何とかしようとせず、まずは弁護士へご相談ください。
ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士がじっくりお話を伺ったうえで、あなたのために力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています