労災での治療中に病院変更したい! 転院手続き完全ガイド
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福岡労働局が公表している「令和5年 労働災害発生状況【確定版】」によると、令和5年度に起きた全産業の労働災害発生件数は7595件でした。
労災によってケガをした方は、治療のために病院に通院をすることになります。しかし、引っ越しや専門的治療をうけるために病院変更を検討することがあるかもしれません。本コラムでは、労災での治療中に転院する方法などについて、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、労災治療中の病院変更は可能?|労災被災者の権利
そもそも、労災の治療中に病院を変更することができるのかどうかについて解説します。
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(1)病院の変更は自由に可能
労災保険という特別な制度を利用して治療していることから、「労災による治療中は、病院を変更することはできない」と考えている方もいるかもしれません。
しかし、労災保険を利用している場合にも、治療をする病院は、被災労働者が自由に選択することができます。そのため、さまざまな理由によって転院が必要になった場合には、自由に転院をすることができるのです。
労災指定病院から別の労災指定病院に転院することができるのはもちろんのこと、労災指定病院以外の病院に転院することもできます。また、労災指定病院以外に通院していた方が労災指定病院または別の指定病院以外の病院に転院することも可能です。
ただし、後述するように、通院先と転院先によって必要になる手続きが異なってくる点には注意が必要です。 -
(2)労災指定病院とそれ以外の病院の違い
労災の被害に遭った場合には、病院で治療をすることになりますが、労災の治療をする病院は大きく分けて労災指定病院とそれ以外の病院の2種類が存在します。
労災指定病院とは、正式な名称を「労災保険指定医療機関」といい、労災保険を利用した治療に対応している医療機関のことを指します。労災指定病院では、労災の治療に関しては、労災保険の現物給付(医療行為)という形で治療を行いますので、被災労働者は、病院の窓口で治療費を負担する必要はありません。
これに対して、労災指定病院以外の病院では、労災保険の現物給付という形で治療を受けることがでないため、労災指定病院以外の病院で労災の治療を受けた場合には、いったん被災労働者が治療費の全額を支払う必要があるのです。
労災の治療は、一般的な傷病を対象とする健康保険の適用外となるため、被災労働者は、治療費の3割ではなく10割を負担しなければなりません。ただし、労災保険の申請書類に支払った領収書を添付して労働基準監督署に提出することによって、後日、支払った治療費が被災労働者の指定口座に振り込まれることになります。
このように、労災指定病院とそれ以外の病院のどちらで治療したとしても、最終的な治療費の負担額は同じになります。
しかし、労災指定病院で治療をしたほうが立て替え払いによる負担もなく、後日の申請という手間もありませんので、可能な限り、労災指定病院で治療を受けたほうがよいでしょう。
2、病院の転院が必要となるケース
病院の転院が必要となるケースとしては、以下のような事例が挙げられます。
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(1)自宅の近くの病院で通院をしたいケース
職場で業務中にケガをしたため、そのまま職場近くの病院で治療をしてもらったが、その後にもしばらくリハビリが必要になる、という場合があります。
このとき、職場と自宅が離れている場合には、仕事を休業しているのに職場近くの病院にまで通院をしなければならない、ということになりかねません。このような場合では、移動だけで身体的・精神的に負担がかかり、治療にも悪影響を及ぼすおそれがあります。
このような事例では、職場の近くの病院から自宅近くの病院に転院することが可能です。 -
(2)引っ越しをしたケース
ケガの治療が継続中であるが、仕事や家庭の事情で引っ越しをすることになる場合もあります。転居先が元の住居から離れている場合には、これまで通院をしていた病院に引き続き通うことは負担になるでしょう。
このような事例でも、転居先の近くの病院を探して、そこに転院して治療を引き継いでもらうことができます。 -
(3)手術のために設備の整った病院に転院するケース
現在通院している病院が自宅から近くても、病院の設備の問題から、転院の必要が生じることがあります。
たとえば、手術が必要になったときに、現在通っている病院では設備が十分でなかったり、手術が担当できる医師がいなかったりする場合には、手術に対応できる病院に転院する必要があります。
また、より高度な検査を行うために、他の病院に転院するということもあるのです。
なお、会社側に原因がある労災事故により重傷を負ってしまった場合は、労災保険では補償が十分ではないというケースは少なくありません。そのようなときは、会社に対して損害賠償請求することが可能です。可能かどうかわからない方や、損害賠償請求したいとお考えの際は、弁護士にご相談ください。
■参考:「労働災害を福岡の弁護士に相談」
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(4)主治医との折り合いが悪いケース
治療を担当している主治医との折り合いが悪いという場合にも、転院することが可能です。たとえば、主治医の治療方針が合わないという場合や、痛みを訴えているのに必要な検査を行ってくれない場合には、病院を変えたほうがいいでしょう。
ただし、転院する際の書類には、病院を変更する理由を書かなければならないため、客観的に説得力のある理由が必要になります。単に「先生の性格が嫌いだから」などの理由では、変更が認められない可能性がある点に注意してください。
お問い合わせください。
3、転院後も労災による補償を受けるためにすべき準備
転院後も労災による補償を受けるために、以下のような準備をすることをおすすめします。
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(1)会社から労災の証明をもらう
病院の変更をするためには、転院先に応じて労災保険の申請書類を提出する必要があります。労災保険の提出書類には、「負傷又は発病年月日」、「災害の原因及び発生状況」について、事業主の証明を受けなければなりません。
スムーズに転院を行うためにも、転院をすることになった場合にはあらかじめ会社に連絡して、事業主の証明をもらっておくようにしましょう。
なお、退職後に転院する場合や会社が労災書類への証明に協力してくれないという場合には、その事情を別紙に記載して提出することによって、手続きをすることができます。 -
(2)転院前の病院で紹介状をもらう
病院を変更することになった場合には、転院先の病院で従来の治療を引き継いでもらう必要があります。
治療に関する情報が何もない状態では、転院先の病院で適切な治療を受けることができない可能性もありますの。そのため転院の際には、転院前の病院で紹介状を作成してもらいましょう。
また、主治医との折り合いが悪いからといって、断りも入れずに勝手に病院を変更してしまうと適切な治療を受けることができず、障害が残っても労災保険から給付がなされない可能性もある点に注意してください。 -
(3)定期的な治療
労災によってケガをした場合には、痛みや痺(しび)れのある箇所について医師にしっかりと伝えて、検査や治療を受けることが大切です。
実際に痛みなどが生じているにもかかわらず、それを医師に告げずに、後日になって痛みを訴えたとしても、医師としてはそれが労災によるものであるか別の原因によるものであるのかが判断できない場合があります。すると、労災保険から補償を受けることができなくなってしまうおそれもあるのです。
転院をすることになった場合には、主治医が変わることになります。ご自身の症状について、新しい主治医による初診の際に、しっかりと医師に伝えることが大切です。
4、病院変更するときの手続き方法
病院を変更することになった場合には、以下のような手続きを行う必要があります。
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(1)労災指定病院から別の労災指定病院に変更をする場合
労災指定病院から別の労災指定病院に転院することになった場合には、転院先の労災指定病院に以下の書類を提出しなければなりません。
- 療養補償給付たる療養届の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号:業務災害用)
- 療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第16号の4:通勤災害用)
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(2)労災指定病院から指定外の病院に変更をする場合
労災指定病院から労災指定病院以外の病院に転院をすることになった場合には、転院時に用意する労災保険の書類はありません。転院先の窓口で労災の治療であることを伝えて、転院元の病院から発行された紹介状を提出して治療を受けましょう。
労災指定病院以外の病院で治療を受けた場合には、いったんは治療費を立て替えて支払う必要があります。立て替えて支払った治療費については、労災保険に請求をすることになりますが、その際には以下の書類が必要になります。- 療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号:業務災害用)
- 療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5:通勤災害用)
これらの書類を労働基準監督署に提出することによって、立て替えた治療費が支払われることになるのです。
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(3)指定外の病院から労災指定病院に変更をする場合
労災指定病院以外の病院から労災指定病院に転院をすることになった場合には、転院先の労災指定病院に、以下の書類を提出しましょう。
- 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号:業務災害用)
- 療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3:通勤災害用)
5、まとめ
労災被災者は治療を受ける病院を自由に選ぶことができます。ただし、労災指定病院を選択したほうが立替払いの負担もなく後日の申請も必要ないので、安心して治療できるかもしれません。
万が一、治療をしても後遺症となってしまった場合でも、労災から一定の補償が行われます。もし会社が対応していなくても、ご本人やご家族でも手続きが可能です。あきらめず、申請してみてください。
さらに、労災事故の原因が会社にある場合は、会社に対する損害賠償請求が可能です。適切な証拠と会社との交渉が必須となるため、請求を検討する場合は弁護士に依頼すべきでしょう。また、労災休業中に労働問題が起きてしまうケースも少なくありません。ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスでは、労働問題や労災についての知見が豊富な弁護士が、損害賠償請求の可否や労働問題についてもアドバイス可能です。まずはお気軽にお気軽にご相談ください。
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