専業主婦が熟年離婚を考えたときに知っておきたい、離婚で後悔しない方法
- 離婚
- 熟年離婚
- 専業主婦
- 年金
- 財産分与
数年前にテレビドラマで取り上げられて有名になった「熟年離婚」。熟年離婚とは、一般的に、20年以上連れ添った後に離婚することを指しますが、近年その数が増大しています。
厚生労働省の「平成28年(2016)人口動態統計」によると、昭和60年には熟年離婚の件数が2万434件にとどまっていたのに対し、平成28年には3万7604件と2倍近くにもなっているのです。
そこで、本記事では、専業主婦が熟年離婚を考えたときに知っておきたいことや熟年離婚で後悔しない方法について解説します。
1、専業主婦が熟年離婚を考える3つの理由
専業主婦が熟年離婚をすることは、なかなかハードルが高いもの。
専業主婦は結婚して子どもを産んで以来、ずっと夫の収入に頼りながら結婚生活を送ってきているため、離婚すればたちまち生活が立ち行かなくなることが目に見えているからです。
しかし、それでも専業主婦が長年連れ添った夫と離婚したいと考える理由は何なのでしょうか。
-
(1)夫が家にいるのがストレスになる
ずっと外に勤めに出ていた夫が定年退職をすると、一転して毎日家にいるようになります。夫が趣味活動に力を入れていてよく外出しているような場合は別ですが、夫が家事の手伝いもせず一日中ゴロゴロしていると、専業主婦の妻としてはストレスがたまり、熟年離婚を考えたくなるのです。
-
(2)夫から感謝やねぎらいの言葉がない
専業主婦は毎日、家族のために食事の支度や洗濯、掃除などの家事をしていますが、それを当たり前のことのように思っている夫も多いのではないでしょうか。
毎日がんばってくれている妻に対し、「いつもありがとう」「よくやってくれているな」と夫側から感謝を伝えることがなければ、いくら専業主婦の立場とはいえ妻はやりがいを感じなくなり、「離婚」の2文字が頭の中をよぎるようになります。 -
(3)夫の親の介護をしたくない
専業主婦が熟年離婚を考える背景には、夫の親の介護をしたくないということもあります。自分の親ですら介護は大変なことが予想されるのに、夫の親を介護するとなると、自分の親以上に気を使わなければならず、妻は余計に大変な思いをすることになるかもしれません。
そのため、専業主婦の立場だったとしても妻は夫の両親に介護が必要になる前に、熟年離婚を考えるようになるのです。
2、専業主婦が熟年離婚するメリット・デメリット
専業主婦の立場で熟年離婚をするには、メリットもあればデメリットもあります。
専業主婦が熟年離婚を考える際には、メリットとデメリットをじっくり比較検討した上で、実際に離婚するかどうかを決めたほうがよいでしょう。
-
(1)専業主婦が熟年離婚するメリット
① 自由な人生を謳歌できる
専業主婦が熟年離婚するメリットは、夫の世話から解放され、自由になることが大きいのではないでしょうか。
熟年離婚の場合は、離婚する時点で子どももだいぶ大きくなっており、すでに経済的に自立しているケースも多くみられます。夫と離婚することで、夫の目を気にせず自分の好きなことに打ち込んだり、趣味を楽しんだりすることができるようになると考え、熟年離婚を選ぶ専業主婦もいます。
② 配偶者の両親の介護から解放される
離婚をすれば、夫との婚姻関係が解消されるため、夫の両親と姻族関係も自動的に終了します。そうなると、夫の両親の面倒を見なくても良くなります。
夫の両親を介護する必要がなくなった分、自分の親をケアする時間も確保できるようになるので、この点でも熟年離婚をするメリットは大きいと言えるでしょう。 -
(2)専業主婦が熟年離婚するデメリット
次に、デメリットについてです。
① 心身の健康面に不安が出てくる
専業主婦が熟年離婚をすると、独り身になるので心身の健康面で不安が出てきたときに生活が心配になる場合があります。
夫と同居しているうちは、健康面に不安があってもお互い支え合うことができますが、一人暮らしになってしまうと具合が悪くても面倒を見てくれる人がおらず、不安を抱えて生活をしなければならなくなることが懸念されます。
② 生活費に困ることがある
専業主婦が熟年離婚をするデメリットとして一番大きいのは、生活費のことではないでしょうか。
特に専業主婦の場合は結婚して子どもが生まれて以降は夫の収入に頼って生活してきているので、預貯金も少ないことが予想されます。
そのため、今まで専業主婦として生活をしてきた人は、離婚後に仕事を探さなければなりませんが、なかなか正社員にはなれず、パートなどの仕事についたり、場合によっては生活保護を受けざるを得なくなる可能性もあります。
3、専業主婦が熟年離婚する時に知っておきたいお金のこと
専業主婦が熟年離婚を検討するときに知っておきたいのが、離婚するときに得られるお金のことです。離婚をすると、妻はこれまで夫婦で築き上げてきた財産のほか、慰謝料や夫の退職金などが得られる可能性があります。
また、平成19年から始まった年金分割制度によって、夫が支払ってきた厚生年金等部分の一部を受け取ることが可能になり、専業主婦が離婚をすることへのハードルも低くなってきました。
-
(1)精神的苦痛を受けた場合は慰謝料が請求できる
夫の不倫や暴力など、夫の不法行為によって夫婦関係が破綻して熟年離婚に至った場合は、妻は精神的苦痛を受けたとして、夫に対して慰謝料を請求することができます。
一般的に、婚姻期間が長ければ長いほど、また妻の年齢が上になればなるほど、慰謝料は高くなる傾向があります。 -
(2)財産分与を行うときに住宅ローンの残っている持ち家をどうするか
熟年離婚の場合、持ち家に住んでいることも多いでしょう。
離婚する時点で持ち家に住んでいて、住宅ローンの返済がまだ終わっていない場合は、離婚後も夫婦のどちらかが家に住み続けるか、もしくは家を売却するという選択肢があります。
どちらを選ぶにせよ、まずは住宅ローンを借りている金融機関に問い合わせ、住宅ローンがいくら残っているのか、権利関係や名義がどうなっているかを調べましょう。
また、不動産業者に家の価額を査定してもらうことも必要です。
家を売却する場合、不動産の価額が住宅ローンを上回っていれば、売却して売却にかかる費用と住宅ローンの残額を差し引いても利益が出るので、それを2人で分割すればよいでしょう。
一方、ローンのほうが不動産の価額を上回る場合は、売却してもローンが残ってしまうので、夫婦どちらかが住み続けることになるでしょう。ローンが残りわずかであれば、支払ってしまうのも手です。
離婚後も夫婦どちらかが住み続ける場合は、残りのローンをどちらが支払うのかを離婚時に決めておくことが重要です。ただ、妻が住み続けて養育費代わりに夫がローンを支払っていく場合、再婚や収入の減少などの夫の経済事情に変化が生じたときにローンを支払わなくなるおそれもあります。
このような問題が起こったときにそなえて、ローンが残っても離婚時には持ち家を売却したほうがよいという考え方もありますので、離婚届を提出する前に夫婦でよく話し合っておきましょう。 -
(3)年金分割制度で夫の年金の一部をもらえる
熟年離婚をした際に夫婦間の公平を図るための制度として、「年金分割制度」があります。
この制度は、夫が厚生年金保険もしくは共済年金保険に加入している場合に、熟年離婚後に夫の年金の一部を妻の名義で受け取ることができるものです。
年金分割制度には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。- 合意分割とは 年金の按分割合について離婚協議で合意した、もしくは裁判手続きで合意した場合に、最大2分の1まで当事者の一方が配偶者の年金を受け取ることができる制度です。
- 3号分割とは 平成20年4月1日以降の婚姻期間に、第3号被保険者だった期間分の配偶者の年金を、自動的に2分の1受け取ることができる制度です。
ただし、分割を請求できるのは離婚が成立してから2年以内です。
離婚すれば自動的に年金が分割されるのではなく、自分で年金事務所に行って手続きをしなければならないため、忘れないようにしましょう。
年金分割について詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせて参照してください。 -
(4)退職金も財産分与の対象となる可能性がある
熟年離婚をする際、夫が退職金を支給する会社に勤めている場合には、妻も退職金の形成に寄与したとして退職金が財産分与の対象となります。
しかし、退職金が財産分与の対象となるのは、すでに退職金が支払われている場合もしくは将来退職金が支給されることがほぼ確実である場合に限られます。
すでに退職金が支払われている場合は、実質的な婚姻期間が何年だったか、夫がその会社に何年勤続していたかをもとに、妻に分与すべき金額を計算します。
一方、退職金がまだ支払われていない場合は、会社の就業規則に記載されている退職金に関する規定や支給の実態を考慮に入れて妻に分与すべき金額を計算することになります。
ただし、退職金が支給されるのがまだ何年も先である場合は、会社の経営状態によって退職金が支給されなくなる可能性もあるため、財産分与の対象にはならないと考えられています。
退職金が財産分与の対象となるかについてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参照してください。
4、専業主婦が熟年離婚する時の手順や方法
専業主婦が熟年離婚をする時の手順や方法は、専業主婦でないケースと同じです。
離婚の方法についてみていきましょう。
-
(1)協議離婚
協議離婚とは、夫婦間の協議だけで離婚を成立させる方法です。
まずは相手と離婚に関する話し合いの場を設定し、協議がまとまれば離婚協議書を作成します。強制力を持たせるために、離婚協議書は公正証書にしておくとよいでしょう。 -
(2)離婚調停
夫婦間の離婚協議がうまくいかない場合には、裁判所が選任した調停委員の仲裁のもとで離婚について引き続き話し合います。これを離婚調停と言います。
夫婦双方が合意すると、裁判所が調停調書を作成してくれます。調停調書は債務名義になるので、夫婦どちらかの一方が義務を履行しない場合には、給与の差押えなどの強制執行をすることが可能です。 -
(3)離婚裁判
調停でも合意ができない場合は、裁判で離婚を認めてもらうことになります。これを「離婚裁判」と言います。
裁判になると、民法で規定されている離婚事由にあてはまると認められなければ、離婚ができません。離婚事由があることは離婚を請求する方が証明しなければならないので、不倫や暴力などの証拠が必要になります。
最終的な判決が出るまでに1~2年ほどの月日がかかるため、途中で裁判官が和解勧告を出すこともあります。
5、熟年離婚をお考えの場合は弁護士へ相談を
最近では年金分割制度ができたおかげで、専業主婦の立場でも離婚をしやすくなりました。しかし、離婚には結婚以上のエネルギーを必要とします。それが熟年離婚であれば、なお一層気力・体力の消耗が激しいかもしれません。
そんなときは、法律のプロである弁護士に相談しましょう。弁護士はさまざまな離婚のケースを見てきているので、依頼人それぞれに最適な離婚方法を提案してもらえます。
また、離婚の手続きや相手方との交渉も弁護士にお任せすることができるので、自力で手続きや交渉を行うよりもはるかに使うエネルギーは少なくなります。
専業主婦で熟年離婚を考えている方は、不安なことや心配なことがあれば、弁護士に一度相談してみることをおすすめします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています