離婚して再婚したけれど残した子どもに相続権は残る? 弁護士が解説
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福岡家庭裁判所において、遺産分割調停は増加傾向にあります。遺産分割調停とは、相続が発生したとき、分け方などに納得ができないときにひらかれる話し合いの場所です。
離婚をした当初は考えられないかもしれませんが、いずれ離婚相手に引き取られた子どもがあなたの財産を相続するときがくるかもしれません。あなたが再婚したあと、残してきた子どもとの面会交流がほとんどないケースもあるでしょう。そうなれば、あなたの家族にとって、以前の配偶者との間に生まれた子どもは、感覚として他人と感じることでしょう。あなた自身も、離婚して親権も手放したのだから子どもには相続権がないと思っているかもしれません。
相続問題はトラブルが多く、通常の家庭においてももめることが多いものです。調停に至らなくても、話し合いだけ繰り返し「落としどころが見つかるまでに時間がかかった」と耳にしたことがある方も少なくないのではないでしょうか。
離婚するだけでも大変なのに、先々の相続までを考えるのは大変かもしれません。
しかし、あなた自身に子どもがいる以上、避けては通れない問題です。まずは離婚後の子どもの相続関係について、ベリーベスト法律事務所・福岡オフィスの弁護士が解説していきます。
1、離婚後の子どもの相続権はどうなる?
夫婦であれば離婚によって縁は切ることができます。
しかし、わが子であれば、たとえ子どもの戸籍が離婚した元配偶者のものに入ることになったとしても、あなた自身が再婚したとしても、親子関係は絶ち切れないものです。
法律上でも原則は、離婚しても親子としての関係は継続しているとみなされます。したがって、相続権もあります。
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(1)元妻や元夫にも相続権はあるのか?
上記のように子どもには相続権は残ります。しかし、夫婦が離婚した場合は完全に他人です。婚姻期間中であれば、配偶者は半分の法定相続権がありますが、離婚すれば、お互いに相続人にはなれません。
つまり離婚してしまえば、相続権が消滅するため、元妻や元夫には相続権はないということです。あなたが再婚した相手が資産家であったとき、万が一元配偶者から遺産相続をねだられたとしても、応じる必要はありません。
しかし、元配偶者ではなく、あなた自身の子どもが遺産相続をねだってきたとしたら、どうなるのでしょうか。 -
(2)離婚後の子どもの法定相続分は?
子どもは離婚した親の母親と父親、双方の相続権を持っています。そのため、離婚してから一切、それこそ何十年も連絡を取っていなかったとしても、相続権が消滅するわけではありません。親権を相手に渡していたとしても、それは変わりません。親権と相続権には何ら関係がないのです。
そのため、いくら「もう関係ないから」と主張したとても、あなたの主張は法律的には認められないと思ってください。
なぜなら、離婚していても子どもであれば、法定相続人となるからです。法定相続人とは「民法で定められた相続の権利がある人」であり、相続の際は「法定相続分」を得られることになっています。法定相続分とは「民法で定められた法定相続人が相続できる遺産の割合」です。
子どもは法定相続権が配偶者(法定相続分は半分)に次ぐ順位で、法定相続分は子どもが複数いる場合も全員合わせて遺産の半分となります。子どもが3人いれば3人合わせて半分なので人数で割ってください。
かつては、非嫡出子のケースでは法定相続分の割合が下がりましたが、今は平等に扱われます。もちろん離婚の際、あなたが引き取らず、相手が親権をとった子どもも平等です。子どもがすでに亡くなっていれば、直系卑属(被相続人の孫やひ孫、つまり子どもの子どもなど)が代襲相続します。
2、離婚後の子どもの相続でよくあるトラブル
想像してみてください。もしあなたが他界して相続が始まったとき、あなたの今の配偶者との間に生まれた子どものもとへ、一度も会ったことのない片方の親が異なる子どもから突然連絡が来て、「遺産分割協議に同意してくれ」といわれたとしましょう。
すぐに、納得し、相続できると思うでしょうか? 何らかの問題が起こる理由が理解できるはずです。そのような状況での相続トラブルは多々起きています。感情的なもつれもあるため、話し合いを行ってもスムーズに進まないでしょう。
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(1)子どもの相続で遺留分とは?
もしあなたが離婚後に再婚し、再婚後にもうけた子どもにできるだけ多く自分の財産を相続して欲しいと思っているのなら、あらかじめ手を打っておく必要があります。
具体的には、生前贈与をしておいたり、遺言を作成したりすることが対策となります。それでも遺留分まで削ることはできません。つまり、前の配偶者の子どもには一切相続させたくないと考えても、基本的にはできないということになります。
なお、「遺留分」とは相続に際して相続人に法律で保障されている相続財産の割合のことを指します。遺留分は生前贈与や遺贈によっても削減できない最低の取り分です。遺留分の主張ができるのは、法定相続人のうち配偶者・子(および孫)・直系尊属のみであり、兄弟姉妹には主張が認められていないという制度となっています。 -
(2)子どもの相続での財産放棄とは?
離婚した親からの相続は、なにもプラスの財産ばかりではありません。中には借金を残して亡くなる親もいます。自分だけは絶対にそうはならないとは、先のことなので、だれも確証はできないものです。
では、借金を残した場合、離婚した相手に引き取られた子どもへの相続はどうなるのでしょうか?
親の借金の返済義務は、子どもには原則ありません。しかし、親が亡くなってしまうと、借金は法定相続分に従って相続することになっています。これは離婚した側へ引き取られた実子も同じです。
そこで、借金を相続しないための方法が2つあります。それが「相続放棄」と「限定承認」です。① 相続放棄
相続放棄は相続自体を放棄し、相続人ではなくなることです。相続放棄は家庭裁判所で手続きを行う必要があります。これが認められると、遺産も一切相続できないかわりに、借金も一切相続しないで済みます。遺産よりも借金が明らかに多いときや、そもそも遺産がないような場合は、相続放棄を選択するようにアドバイスするといいでしょう。
しかし、離婚した親に不動産など一定の財産があって借金もある場合は判断の難しいところです。
② 限定承認
相続放棄が難しいと思われる場合には、限定承認という制度があります。
相続が開始した段階ではいくら借金があるかわからず、遺産よりも借金が多いかどうかの判断がすぐにはできない場合は、相続が発生してから3ヶ月以内に家庭裁判所に限定承認の手続きをすることで、相続する遺産の範囲内でのみ借金も相続するという方法を選ぶことができます。
これらのことを生前にしっかりと伝えておくだけでも、ご自身が死亡したときの相続トラブルに子どもが巻き込まれる可能性を減らせるはずです。詳しくは弁護士に相談することをおすすめします。
3、離婚後の子どもの相続トラブルを防ぐには?
繰り返しになりますが、離婚後、相手に引き取られていった子どもと、今の再婚相手に子どもがいた場合、相続がもめてしまう可能性が予想されます。自分が亡くなったあと、相続トラブルが起きないようにするのも、親の務めかもしれません。
生前贈与や遺言がその対処法となることを前述しましたが、具体的にどのような方法なのかを解説します。
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(1)遺言を残す
遺産相続では遺言を作成することによって、あなたの希望をかなえるよう、ある程度の法的な強制力を持たせることができます。言葉による遺言だけではなく、法で定められた「遺言書」の作成が必要になります。
遺産相続においては、何よりもまず民法で定められたとおりに作成された「遺言」の内容が優先されます(ただし、相続人全員の協議ののち、全員が合意すれば、この限りではありません)。
再婚後、今の配偶者との間に生まれた子どもに遺産を相続するという遺言を作成しておけば、基本的にはその遺言通りに相続が行われるでしょう。ただし、前の結婚の際の子どもにも遺留分があります。
さらに、前もって話しておくことも、混乱を避けるためのひとつの手です。話し合いだけではなく、遺言は法的効力を持つので、ぜひ正式なものを用意しておいてください。
もっとも信頼性が高い遺言としては「公正証書遺言」というものがあります。
これは「公証役場」で公証人に作成してもらう遺言のことです。事前に打ち合わせを重ねた上、判検事など法律のプロの経歴がある者が就任する公証人が、2名以上の立会人(証人)と同席して、本人の意思を確認しながら作成・保存されます。公証役場で原本が保管されるため、改ざんや紛失の懸念もありません。 -
(2)生前贈与をする
遺産があるから相続でもめるかもしれないという懸念があれば、生前贈与してしまおうと考える方もいるかもしれません。
確かに、被相続人が子どもに生前贈与することができます。ただ、それらの財産は被相続人の死後、「特別受益」として遺産の計算に入れられてしまう可能性があるでしょう。
「特別受益」とは、生前に被相続人から特別に得た利益のことをいいます。
遺産分割をする法定相続人の中で、特別受益を受けた相続人がいた場合、法定相続分通りに計算すると不公平になってしまうために、もうけられた制度です。申し立てがあり、特別受益に該当すると判断されれば、生前贈与された分も遺産相続されたものとして計算される可能性があります。
遺産相続については、難しい取り決めやあいまいな判断があります。そのほかにも、相続税など税金の問題もあるでしょう。したがって、最初から弁護士や税理士に相談しながら準備を進めておいたほうがよいでしょう。せっかく準備をしても、内容に誤りがあったため、思っていた通りの相続ができないこともあります。
弁護士や税理士などに相談しながら準備することによって、ご自身の死後に遺産でもめないための相続について、法的な効力を持つ遺言書の作成など、トラブルを避けるための詳細なアドバイスや対応が期待できるでしょう。 -
(3)養子縁組をする
もし、あなたが相続してほしい子どもが、今の配偶者の「連れ子」であり、あなたとは血縁関係がない……というケースもあるでしょう。その場合、子どもはあなたの相続人ではないため、そのままでは相続ができません。
いわゆる連れ子と呼ばれる立場にある今の配偶者の子どもに遺産を渡したいと考えるときは、遺言書を作成することや、子ども本人と養子縁組をすることがひとつの方法になります。家族からの理解も必要でしょうから、軽々にできることではありませんが、検討してみる価値はあるかもしれません。
また逆に前の配偶者との間に生まれた子どもに新しい親ができて、養子縁組をしていたとしましょう。その場合、養育費などは払わなくてもいいという判断がくだされるかもしれません。
しかし、財産相続となると違います。特別養子縁組でもしない限りは、前の結婚の子どもには新しい親と血のつながりがある親の両方の相続権ができたということです。
つまり、わかれた配偶者との間にうまれた子どもにとっては、自らの実母と実父、さらに養父の相続権を得たという状態になったということです。前の配偶者が再婚して養子縁組をした子どもに相続権はないと勘違いされる方も多いようです。注意してください。
養子縁組には相続税対策として、さまざまな決まりがあります。状況が複雑になっている可能性が少しでもあれば、弁護士に相談すると詳しく理解できるでしょう。
4、まとめ
離婚や再婚が珍しくなくなってきている今、家族の形はさまざまなバリエーションがうまれています。特に相続問題は、詳細に法で定められていて、通常の遺産相続でも難しい面があります。個人で判断することは困難を伴うでしょう。
そのようなときは、ぜひ相続問題に対応した経験が豊富な弁護士に相談してください。ベリーベスト法律事務所・福岡オフィスでも、アドバイスを行います。今迷われていることの答えが、そこにあるかもしれません。
ご自身の死後のことだからこそ、今からの準備が大切です。相続対策に早すぎるということはありません。愛する子どもがトラブルに巻き込まれないためにも、必要な対策といえるでしょう。
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