借用書は公正証書で作成するべきか? 確実な債権回収を目指す方法
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福岡公証役場のホームページでは、貸金・家賃・養育費などの金銭債務の回収において役立つことが説明されています。お金を貸すかどうかで迷っている方にとって大いに心強い存在となるでしょう。
お金の貸し借りにおいては「借用書」を作成するケースが一般的ですが、個人が作成した借用書では効果に不安がつきまといます。借用書を交わしていても相手に開き直られてしまいきちんと返済が受けられないのではないかという心配もあるでしょう。
そこでおすすめしたいのが借用書を「公正証書」にするという対策です。このコラムでは、公正証書にした借用書がもつ効果や公正証書化の手順を福岡オフィスの弁護士が解説します。
1、お金を貸すときは必須! 借用書を作成すべき理由
親類・友人・知人などから借金の申し込みを受けた場合は、信頼の深い相手であっても必ず「借用書」を作成するべきです。
「相手を疑っているようで失礼だ」などと遠慮する必要はありません。むしろ、借用書の作成を渋る相手にはお金を貸さないほうがよいでしょう。
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(1)借用書は「契約書」である
そもそもお金の貸し借りは民法第587条の定めに従うと「金銭消費貸借契約」という名称の契約になります。銀行やローン会社からお金を借りた経験がある方は、書類にこの名称が登場していたはずです。
そして、金銭消費貸借契約は、相手が銀行やローン会社であろうが個人であろうがその本質は変わりません。つまり、相手が親類・友人・知人であっても、お金の貸し借りはすべて「金銭消費貸借契約」なのです。
借用書は、個人間における金銭消費貸借契約を証明する「契約書」のひとつであり、契約を交わす限り書面を作成するのは当然だといえます。「相手に失礼だ」などと遠慮をするのではなく、むしろ契約を書面に残すことは「誠実な対応」だと心得ておきましょう。 -
(2)金銭の受け渡しを証明する力がある
借用書は実際にお金の受け渡しが行われる際に交わされるものです。
つまり「金銭の受け渡しが行われた」という事実を証明するものなので、相手は「お金の貸し借りの約束はしたが実際には借りていない」という言い逃れができなくなります。この点に注目すれば、借用書には「お金の貸し借りがあった」という内容だけでなく、さらに深く掘り下げて「金銭をたしかに受領した」という一文を盛り込んでおく必要があるといえるでしょう。 -
(3)証拠として活用できる
相手が返済してくれない、返済が遅れているといったトラブルになった場合は、法的な手段で回収をはかるシーンも考えられます。
借用書には「たしかに金銭貸借が存在した」という事実を証明する力があるので、法的な手続きをとるにあたっても重要な証拠として価値が認められます。
2、公正証書化することで与えられる効果
借用書には、それだけで「金銭貸借が存在した」という事実を証明する力があります。しかし、借用書があるからといっても確実に貸金を回収できるとは限りません。返済が遅延し、最終的に法的手段に訴える場合は、時間や手間がかかってしまうでしょう。
しかし、借用書を強制執行認諾条項付きの「公正証書」にすることで、これらの不安が大幅に解消できる可能性があります。
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(1)偽造を疑われる余地がなくなる
「公正証書」とは、公証人法に基づき、法務大臣に任命された公証人が作成する「公文書」にあたります。
一方、債権者・債務者の間だけで交わした借用書は私人が作成した「私文書」です。私文書では、作成にあたって法的な問題点があったとしても特に疑われることなく契約が交わされる可能性もあり、偽造も容易です。
公文書である公正証書は、公証人が作成・証明するものなので偽造を疑う余地はありません。公正証書化された借用書は、真正に作成された公文書として強い効果を発揮します。 -
(2)裁判を経ずに強制執行が可能
強制執行認諾条項を付けて公正証書化した借用書があれば、裁判所の手続きを経ることなく強制執行が可能です。
もし60万円以上のお金を貸したものの私文書としての借用書しかない場合は、その借用書がお金を貸した証拠であることを、裁判を通じて認めてもらい、判決を下してもらうことで、ようやく強制執行の手続きに移行することになります。つまり、お金を貸した事実があっても、裁判を行うというプロセスを踏まない限り、貸金の回収は実現しません。
ところが、強制執行認諾条項を付けて公正証書化された借用書があれば、これだけをもってすぐに強制執行の手続きへと移行できるのです。
裁判所の手続きを利用すれば、最終的には貸金の回収が実現したとしても、時間も手間もかかり、双方が疲弊してしまいます。お金を貸す段階で借用書を公正証書化すれば、トラブルに発展した際にスムーズな解決が期待できるでしょう。 -
(3)誠実な返済が期待できる
借用書の作成はもちろん、公正証書にすること自体を渋り、信用していないのかと怒る方もいるようです。しかし、きちんと借用書を作成し、強制執行認諾条項を入れた公正証書にすることで、互いの信頼感を高めることができます。
争う金額が60万円以下の場合は、借用書さえあれば原則1日で裁判が終わる少額訴訟によって取り立てることができます。しかし、それ以上の金額を貸すケースや、返済が分割払いの約束となっている場合で借用書しかないケースは、万が一返済してもらえないときであっても裁判を行う必要があります。通常の裁判は時間もお金もかかるため、強制執行認諾条項を入れた公正証書の作成を強くおすすめします。
返済が遅れたり不能に陥ってしまったりすればすぐに強制執行の手続きに移行されてしまうと思えば、約束どおりの誠実な返済を履行するはずです。お金を貸した相手に対して「きちんと返済しないといけない」という強いプレッシャーを与えられるでしょう。
3、借用書を公正証書化する手順
借用書を公正証書化するにはどのような手順を踏むことになるのでしょうか?
流れをみていきましょう。
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(1)作成する内容を検討する
まずはどのような内容で公正証書を作成するのか、内容を検討します。すでに借用書が存在する場合はこれをもとに作成することになるでしょう。
債権者・債務者の間で契約の内容に争いがないように、事前に十分な協議をかさねておく必要があります。 -
(2)申し込みに必要な資料を集める
公正証書の作成を申し込むには、契約者となる双方の本人確認のために次のいずれかの組み合わせで資料を用意する必要があります。
- 印鑑証明書+実印
- 運転免許証+認印
- マイナンバーカード+認印
- 写真付きの住民基本台帳カード+認印
- パスポート・身体障害者手帳・在留カード+認印
このほか、当事者ではなく代理人が手続きを進める場合は、委任状・本人の印鑑証明書・代理人の本人確認資料も必要です。
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(3)公証役場に申し込む
実際に公証役場への申し込むには、各公証役場に問い合わせておくとスムーズです。
資料を持参のうえで訪問すれば受け付けてもらえるのか、予約が必要なのかを確認しておきましょう。 -
(4)公証人が公正証書を作成する
公正証書作成の申し込みを済ませたら、公証人が公正証書を作成するのを待ちます。
おおむね1~3週間の期間がかかるので、この期間に公証役場から追加資料の提出の要望などがあれば迅速に対応しましょう。 -
(5)当事者が出頭のうえ確認して完成
完成した公正証書の内容を契約の当事者双方が公証役場に出頭のうえで確認します。内容に間違いがなければ、原本に署名・押印して公正証書の完成です。
原本となった公正証書は公証役場が保管し、契約者には正本・謄本が交付されます。
4、貸金の返済が遅延したら弁護士に相談
親類・友人・知人との間で貸金トラブルが生じた、貸金を申し込まれているが確実な回収を担保したいといったお悩みがあれば、弁護士への相談をおすすめします。
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(1)相手への警告や交渉が可能
返済を行わない相手には、弁護士が代理人となって返済を求める警告や交渉を進めることが可能です。
個人では真摯な姿勢をみせてくれない相手でも、法的な立場で警告を与え、返済に向けた交渉を進めることで、前向きな姿勢に転じる可能性があります。 -
(2)公正証書の作成に向けたアドバイスも可能
貸金の回収をより確実にするには、借用書を作成するだけでなく、前述の通り借用書を公正証書化することをおすすめします。
とはいえ、どのような借用書が公正証書として強い効果を発揮するのかを考えるのは容易ではありません。
弁護士に相談すれば、有効な公正証書の作成に向けたアドバイスが得られます。
公正証書を作成するための全般的なサポートも可能です。 -
(3)法的手段に訴えるサポートが可能
裁判所の手続きに訴えて回収を目指す、公正証書に基づいて強制執行により相手の財産を差し押さえたいと考えるなら、弁護士のサポートは必須です。
訴訟や差押えといった手続きは煩雑で、個人での対応は難しいでしょう。法的な手続きに慣れている弁護士のサポートが得られれば、スムーズな回収が期待できます。
5、まとめ
個人間の金銭貸借では、借用書を交わすことで「金銭貸借があった」と存在を証明することができます。ただし、借用書は証拠のひとつであり、それだけをもって確実な回収がかなうわけではありません。
借用書に法的な力を与えるには、借用書を公正証書化する必要があります。金銭貸借におけるトラブルの解決や、これから金銭を貸すにあたって有効な借用書を作成したいとお悩みなら、ベリーベスト法律事務所 福岡オフィスにお任せください。
金銭貸借におけるトラブルを防ぐために有効なアドバイスや公正証書化に向けたサポートが可能です。
借用書などを交わさないまま安易に金銭貸借を交わすのは賢明ではありません。まずはベリーベスト法律事務所 福岡オフィスへご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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